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8 大多数を占める認識
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「それで、博士のご迷惑になっていなければいいのですが……」
サンドイッチを掴んだまま話し終えた私に、博士は優しく目を細めた。
「そんな事を気にしていたのか」
中庭では他の研究員や大学から訪れていた学生が、石造りの建物をくり抜いた自然の中で、それぞれ午後の憩いの時を過ごしている。
私たちはバスケットを挟んでベンチに腰掛け、鳩にパン屑を請け負ってもらいながら、これまでと同じように穏やかに言葉を交わしていた。
ヘールズ所長の言うような噂がもし蔓延していたらと、まずは謝罪だ。
けれど博士は、驚きもせず嫌がりもせず、ごく自然に言葉を繋げた。
「君は嫌じゃないかい?」
「え?」
目を逸らし、鳩を見つめ、首をふる。
「恐れ多い事です」
「そうかな。私の周囲では、私たちが非常に親しく交流を重ねているという事実を好意的に受け止めている人物が圧倒的に多いから、多数決によると『理事の娘と所長補佐はお似合いの男女だ』という客観的数値乃至共通認識が検出されるよ」
「……」
ユーモアのつもりなのか判断できず、返答に困ってしまう。
「困らせるつもりはなかったよ」
なんでもお見通し。
博士の双眸は、常に可能性と真実を追求している。
「うむ。さっきの君の提言に対する答えは『迷惑ではない』だ」
「……はい」
「それによって導き出される建設的な概念を、3分あげるから考えてご覧」
「……」
「難しく考えないで」
博士がサンドイッチをひとつ食べ終えた。
なにか、ユーモアで返す事ができるだろうか。
時間は3分しかない。私はそういった素養に欠けている。
私は3分待って尋ねた。
「博士の正解を教えてください」
「私は君が好きだ」
間髪入れずに彼は答えた。
そして続ける。
「もっと言えば、君に惹かれて声をかけた」
「……」
難易度が高すぎた。
私はついサンドイッチを握り、少しはみ出たハムを凝視して息を整えた。
「君は昼日中に出会った可憐な星。けれどその瞬きは、信念を持ち、情熱を燃やし、澄み渡り、愛に満ちていた。聡明で深い愛情を持つ君は、彗星のように日夜絶え間なく私に降り注いだ。心を奪われたよ」
ラモーナ、と私を呼んで、改めてこちらに体を向ける。
私はおずおずと、けれど、その実、期待を込めて、彼をみあげた。
穏やかで深く、真剣な眼差しが、優しい陽射しに照らされている。
「君は狡さのない正直な人間だ。だから試したのではない。勇気を出してくれた。賞賛に値する。だから私も勇気を出して真実を明かそう」
「……」
「君を愛している」
全身を震えが走った。
驚いてから、自分が感極まって身震いしたのだと、気づいた。
「だからほら、力を抜いて、それを食べてしまいなよ」
博士が優しく微笑んだ。
「……はい」
私は言われるままにサンドイッチに口をつけた。
「ちなみに、私は少し狡い事をしたよ」
「?」
端を少し齧り、ゆっくりと顎を動かすのは、舌を噛まないため。
博士が今まで見た事のない表情を浮かべ、私を横目に捉えた。そして鼻梁に人差し指を軽くあて、狡猾に策をめぐらす悪人を演じているかのようなその仕草は、甘い棘となって私の心に熱く突き刺さる。
「君が逃げないよう無害を装い、外堀を固め、同時に距離を詰めた」
「……」
「これからは歯の浮くような台詞を浴びせる機会もふえるだろうから、心しておくんだな。愛しのラモーナ・スコールズ」
昼食はまったく喉を通らなかった。
ただもう体中が熱くて、生きているのがふしぎなくらいだった。
サンドイッチを掴んだまま話し終えた私に、博士は優しく目を細めた。
「そんな事を気にしていたのか」
中庭では他の研究員や大学から訪れていた学生が、石造りの建物をくり抜いた自然の中で、それぞれ午後の憩いの時を過ごしている。
私たちはバスケットを挟んでベンチに腰掛け、鳩にパン屑を請け負ってもらいながら、これまでと同じように穏やかに言葉を交わしていた。
ヘールズ所長の言うような噂がもし蔓延していたらと、まずは謝罪だ。
けれど博士は、驚きもせず嫌がりもせず、ごく自然に言葉を繋げた。
「君は嫌じゃないかい?」
「え?」
目を逸らし、鳩を見つめ、首をふる。
「恐れ多い事です」
「そうかな。私の周囲では、私たちが非常に親しく交流を重ねているという事実を好意的に受け止めている人物が圧倒的に多いから、多数決によると『理事の娘と所長補佐はお似合いの男女だ』という客観的数値乃至共通認識が検出されるよ」
「……」
ユーモアのつもりなのか判断できず、返答に困ってしまう。
「困らせるつもりはなかったよ」
なんでもお見通し。
博士の双眸は、常に可能性と真実を追求している。
「うむ。さっきの君の提言に対する答えは『迷惑ではない』だ」
「……はい」
「それによって導き出される建設的な概念を、3分あげるから考えてご覧」
「……」
「難しく考えないで」
博士がサンドイッチをひとつ食べ終えた。
なにか、ユーモアで返す事ができるだろうか。
時間は3分しかない。私はそういった素養に欠けている。
私は3分待って尋ねた。
「博士の正解を教えてください」
「私は君が好きだ」
間髪入れずに彼は答えた。
そして続ける。
「もっと言えば、君に惹かれて声をかけた」
「……」
難易度が高すぎた。
私はついサンドイッチを握り、少しはみ出たハムを凝視して息を整えた。
「君は昼日中に出会った可憐な星。けれどその瞬きは、信念を持ち、情熱を燃やし、澄み渡り、愛に満ちていた。聡明で深い愛情を持つ君は、彗星のように日夜絶え間なく私に降り注いだ。心を奪われたよ」
ラモーナ、と私を呼んで、改めてこちらに体を向ける。
私はおずおずと、けれど、その実、期待を込めて、彼をみあげた。
穏やかで深く、真剣な眼差しが、優しい陽射しに照らされている。
「君は狡さのない正直な人間だ。だから試したのではない。勇気を出してくれた。賞賛に値する。だから私も勇気を出して真実を明かそう」
「……」
「君を愛している」
全身を震えが走った。
驚いてから、自分が感極まって身震いしたのだと、気づいた。
「だからほら、力を抜いて、それを食べてしまいなよ」
博士が優しく微笑んだ。
「……はい」
私は言われるままにサンドイッチに口をつけた。
「ちなみに、私は少し狡い事をしたよ」
「?」
端を少し齧り、ゆっくりと顎を動かすのは、舌を噛まないため。
博士が今まで見た事のない表情を浮かべ、私を横目に捉えた。そして鼻梁に人差し指を軽くあて、狡猾に策をめぐらす悪人を演じているかのようなその仕草は、甘い棘となって私の心に熱く突き刺さる。
「君が逃げないよう無害を装い、外堀を固め、同時に距離を詰めた」
「……」
「これからは歯の浮くような台詞を浴びせる機会もふえるだろうから、心しておくんだな。愛しのラモーナ・スコールズ」
昼食はまったく喉を通らなかった。
ただもう体中が熱くて、生きているのがふしぎなくらいだった。
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