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一章 空回りな王様
兄上⁈
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キリル嬢との昼食兼打ち合わせから兄上が戻ってきた。キリル嬢にこってり絞られて来るとは思っていたが、予想以上の落ち込みようだ。
「兄上、何かあったのですか?」
「あ、ああ…嫌いだと言われてしまってね…。」
「キリル嬢にですか?」
俺の問いかけに兄上はコクリと頷いた。
キリル嬢は兄上にことを愛していると公言するほどだし、嫌いなんて口にするはずがないのに…。少し考え込んでハッとする。
「兄上…それは仕方ないですね。」
ハァと溜息をつきながら言うとコテンと首を傾げられた。
「僕は何かしてしまったのかい?」
「詳しいことは見てないので俺にはわかりません。けれど、兄上はキリル嬢に働き過ぎだと咎められたのではないですか?」
「確かにそうだけど…それがどうかしたか?」
兄上はここまで言っても気がつかないようだ。頭はいいのにこういうところで鈍感だから、キリル嬢はこれから苦労するんだろうな…。
「兄上はきっと『みんなに迷惑はかけられない』とか言ってキリル嬢がせっかく心配してくれていたのにいうことを聞かなかったでしょう?キリル嬢は自分を大切にしない人は嫌いですから、やっぱり兄上が悪いですね。」
一通り説明し終わると兄上は神妙な面持ちで考え込んでいた。
「兄上?」
「ユニはキリルのことをよく理解しているのだな。僕の方が長い付き合いのはずなんだけどな…。少し妬けてしまうね。」
「…俺とキリル嬢は兄上が無理し過ぎて死んでしまわないようによく話し合っていますので。」
「し、死ぬようなことはしないさ!」
「どうだか」
俺が少しからかうように笑うと兄上は頬を膨らませてそして笑った。
「じゃあ、キリルにこれ以上嫌われないよう自分を大切にしてくるよ。」
「はい、目が覚めたら手紙を送ることも忘れないでくださいね。」
「もちろんだ」
兄上達の純情さに当てられて、結婚願望がますます高まってきた。俺に相手なんかできないのになぁ。
溜息を吐きながら書類を捲ると、王城からのものが混ざっていた。内容は王城の仕官募集。これはチャンスかもしれない。学園を卒業してすぐに兄上の手伝いをしていたおかげで、なかなか出会いもなく。落ち着いてきたら暇にもなるだろうし、ちょうどいいのでは⁈
早速応募要項を確認する。今回は学園を卒業した貴族に限定するらしい。平民からの募集は毎年春頃だが、貴族からの募集はまた時期をずらしているようだ。
応募期限は一週間後。早いうちに兄上に伝えて応募しないとな…。
そうこうしているうちに既に4日が経過した。兄上が3日間目を覚まさなかったのだ。どれだけ寝ているんだとは思ったものの、しっかり休めと言ったのは自分なので叩き起こすこともできない。
これからは規則正しい生活をしてもらわねば…。
5日目の朝。食堂に行くと兄上が既に座っていた。
「…おはようございます兄上。久しぶりですね。」
「ああ、おはようユニ。おかげさまで疲れもしっかり取れたよ。」
二人で和やかな雰囲気で食事を終えた頃。食後の紅茶を飲みながらあることを思い出した。そういえば仕官の試験を受けたいと伝えていない。
参加する旨を書いた紙を今から早馬で届けてギリギリ間に合うくらいだ。すぐに紙を用意しなければ…!
「兄上!俺は仕官の試験を受けようと思うのですが、いいですね⁉︎」
「え、ああ。いいんじゃないか」
「許可をくださりありがとうございます、それでは失礼します!」
慌ただしく食堂から出ると、書斎へと向かう。そこで王城宛の書簡を急いで書くと、早馬に持たせた。
なんとか間に合いそうで一息をついていると、兄上が後ろからやってきた。
「なあユニ。さっき仕官になりたいと言ったな?」
さっき言ったことがよく聞こえていなかったのか確認をするように兄上が尋ねてきた。
「ええ、はい。それがどうかしましたか?」
「それって王城のか?」
「それ以外に仕官になれる場所は思い当たりませんが。」
「なんで王城なんだ?」
兄上の質問の意図が読めないが…これ以上追及されても何もないので正直に答えた方が良さそうだ。結構恥ずかしい理由なんだけどな…。
「19になっても婚約者ができないので出会いを求めて、ですかね。」
「行ってもロクなことはない。絶対にだ。それに結婚なんてしなくたってうちでずっと暮らせばいいじゃないか。」
絶対と言い切るほどに悪いことがあるのか…?いやそれよりも本気で言ってるのかこの人。新婚生活の中に弟がサラッと入ってきたら不愉快極まりないだろ。
「俺は穀潰しになるのは嫌なので…。兄上がそこまでいうのですから無理だと思ったらすぐに辞めますよ」
変わらず試験を受ける旨を伝えると兄上の目が虚ろになってしまった。結構譲歩したつもりなのだが…。
「僕の可愛い弟が…あいつに…く…れる…」
それからすぐに何かをブツブツと呟きながらどこかへと行ってしまった。王城ってそんなにも危険な場所なのか?試験を受けること自体が不安になってきた。
「兄上、何かあったのですか?」
「あ、ああ…嫌いだと言われてしまってね…。」
「キリル嬢にですか?」
俺の問いかけに兄上はコクリと頷いた。
キリル嬢は兄上にことを愛していると公言するほどだし、嫌いなんて口にするはずがないのに…。少し考え込んでハッとする。
「兄上…それは仕方ないですね。」
ハァと溜息をつきながら言うとコテンと首を傾げられた。
「僕は何かしてしまったのかい?」
「詳しいことは見てないので俺にはわかりません。けれど、兄上はキリル嬢に働き過ぎだと咎められたのではないですか?」
「確かにそうだけど…それがどうかしたか?」
兄上はここまで言っても気がつかないようだ。頭はいいのにこういうところで鈍感だから、キリル嬢はこれから苦労するんだろうな…。
「兄上はきっと『みんなに迷惑はかけられない』とか言ってキリル嬢がせっかく心配してくれていたのにいうことを聞かなかったでしょう?キリル嬢は自分を大切にしない人は嫌いですから、やっぱり兄上が悪いですね。」
一通り説明し終わると兄上は神妙な面持ちで考え込んでいた。
「兄上?」
「ユニはキリルのことをよく理解しているのだな。僕の方が長い付き合いのはずなんだけどな…。少し妬けてしまうね。」
「…俺とキリル嬢は兄上が無理し過ぎて死んでしまわないようによく話し合っていますので。」
「し、死ぬようなことはしないさ!」
「どうだか」
俺が少しからかうように笑うと兄上は頬を膨らませてそして笑った。
「じゃあ、キリルにこれ以上嫌われないよう自分を大切にしてくるよ。」
「はい、目が覚めたら手紙を送ることも忘れないでくださいね。」
「もちろんだ」
兄上達の純情さに当てられて、結婚願望がますます高まってきた。俺に相手なんかできないのになぁ。
溜息を吐きながら書類を捲ると、王城からのものが混ざっていた。内容は王城の仕官募集。これはチャンスかもしれない。学園を卒業してすぐに兄上の手伝いをしていたおかげで、なかなか出会いもなく。落ち着いてきたら暇にもなるだろうし、ちょうどいいのでは⁈
早速応募要項を確認する。今回は学園を卒業した貴族に限定するらしい。平民からの募集は毎年春頃だが、貴族からの募集はまた時期をずらしているようだ。
応募期限は一週間後。早いうちに兄上に伝えて応募しないとな…。
そうこうしているうちに既に4日が経過した。兄上が3日間目を覚まさなかったのだ。どれだけ寝ているんだとは思ったものの、しっかり休めと言ったのは自分なので叩き起こすこともできない。
これからは規則正しい生活をしてもらわねば…。
5日目の朝。食堂に行くと兄上が既に座っていた。
「…おはようございます兄上。久しぶりですね。」
「ああ、おはようユニ。おかげさまで疲れもしっかり取れたよ。」
二人で和やかな雰囲気で食事を終えた頃。食後の紅茶を飲みながらあることを思い出した。そういえば仕官の試験を受けたいと伝えていない。
参加する旨を書いた紙を今から早馬で届けてギリギリ間に合うくらいだ。すぐに紙を用意しなければ…!
「兄上!俺は仕官の試験を受けようと思うのですが、いいですね⁉︎」
「え、ああ。いいんじゃないか」
「許可をくださりありがとうございます、それでは失礼します!」
慌ただしく食堂から出ると、書斎へと向かう。そこで王城宛の書簡を急いで書くと、早馬に持たせた。
なんとか間に合いそうで一息をついていると、兄上が後ろからやってきた。
「なあユニ。さっき仕官になりたいと言ったな?」
さっき言ったことがよく聞こえていなかったのか確認をするように兄上が尋ねてきた。
「ええ、はい。それがどうかしましたか?」
「それって王城のか?」
「それ以外に仕官になれる場所は思い当たりませんが。」
「なんで王城なんだ?」
兄上の質問の意図が読めないが…これ以上追及されても何もないので正直に答えた方が良さそうだ。結構恥ずかしい理由なんだけどな…。
「19になっても婚約者ができないので出会いを求めて、ですかね。」
「行ってもロクなことはない。絶対にだ。それに結婚なんてしなくたってうちでずっと暮らせばいいじゃないか。」
絶対と言い切るほどに悪いことがあるのか…?いやそれよりも本気で言ってるのかこの人。新婚生活の中に弟がサラッと入ってきたら不愉快極まりないだろ。
「俺は穀潰しになるのは嫌なので…。兄上がそこまでいうのですから無理だと思ったらすぐに辞めますよ」
変わらず試験を受ける旨を伝えると兄上の目が虚ろになってしまった。結構譲歩したつもりなのだが…。
「僕の可愛い弟が…あいつに…く…れる…」
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