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一章 空回りな王様
出発
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数日後。試験への参加を受理したという内容の書簡が届いた。山積みの書類に紛れていたそれを見つけた兄上は本当に嫌そうに顔を歪めていて、過去に何があったのだろうと思わずにはいられなかった。
試験があるのは2週間後。王城の一室で筆記試験、次に面接などと何日かに分けて行うようだ。その間はもちろん兄上の仕事を手伝うことができないため、今のうちにたくさん仕事をしておかないとな。
数日王都にある邸宅に滞在するため、少しずつ荷造りをする。侍女達に着替えなどを詰めてもらっていると、どこからか視線を感じた。チラリとドアの方を見ると、キラリと光る目が覗いていた。
「…兄上。そんなところで覗いていないで、普通に部屋に入ってきてくださいよ。」
「…見つかってしまったか。もう少しバレないと思ったんだがな。」
「バレバレですよ、視線が痛いです。」
兄上が許可を出したというのに、いまだに引き止めようと必死だ。まず試験が通るかどうかもわからないから、そこまで躍起になる必要もないだろうに。
「ところで兄上はなにをしにきたんですか?キリル嬢と衣装の打ち合わせをしていたはずですが。」
「いや、どちらのデザインがいいかなかなか決まらなくてね。第三者の意見も聞いてみようと思ったんだが、ユニはどっちがいいと思う?」
そういうと兄上は二枚の紙を見せてきた。1つはキリル嬢の瞳の色、緑を基調とした落ち着いたもの。もう1つは白い礼服の装飾が緑になっているもの。どちらかというと、2枚目の方が豪華で華やかさがある。
兄上達の結婚式だし、目立ってなんぼだろう。
「俺は2枚目の方が好きですね。結婚式ですし、派手でいいと思いますよ。」
兄上は顔が整っているし、どんな服も似合うとは思うけれど、いつも落ち着いた色合いの服ばかり着ているからたまには違うパターンも見てみたいよな。
「そうかい?じゃあキリルに伝えてくるよ!」
俺の意見を聞くと兄上は顔を輝かせて部屋を出て行った。…これは2枚目の方が兄上も気に入っていたやつだな。兄上は自分に自信がないからな…仕事とかでは意見が出せても、こういう自由な時はなかなか自分の意見を言わない。
好奇心から選んだけれど、ちょうどよかったな。
ふうと息を吐き出す。ちょうど荷物が詰め終わったみたいだ。
試験の1週間前。王都に出発する日だ。馬を飛ばせば2日で着くが、荷物がそれなりにある為、馬車で移動しなければならない。移動時間が長いため、その間に試験の勉強をする予定だ。
応募資格が学園を卒業していること、と書いてあるくらいだから、今までの内容が出てくるのだろう。テスト勉強なんて久しぶりだから少しワクワクしている。
荷物を全て積み終わり、馬車に乗り込もうとすると兄上が見送りに来てくれた。
「ユニ、気をつけるんだぞ。あと試験はしっかり頑張るように。」
兄上はもう引き止めることを諦めてくれたらしく、素直に応援してくれた。
「はい。もちろんです。」
兄上に礼をして馬車に乗り込む。街と街の間を走る幌馬車とは違い、ふかふかとしたクッションが敷き詰められた馬車はすぐに眠ってしまいそうなほどに座り心地がいい。
家から久しく出ていなかったので馬車に乗ること自体が久しぶりだ。おかげで少し気分が浮ついて勉強に集中できそうにない。とりあえず取り掛かろうと、ポケットから単語帳を取り出す。
宿に着くまではノートは使えないから、暗記系の復習を重点的に行う。こういうのは目で追うだけでも効果があるにで楽だ。
しばらく走ると、御者に声を掛けられた。
「休憩致しますか?」
もう街の近くまで来ているらしい。トイレにも行きたいしちょうどいいだろう。御者に休憩する旨を伝えると、馬車は停留所へと入っていった。
馬車を降りると、街へと入る。街の東西南北全ての入り口に門番がいるが、まだ我が家の領地のためわざわざ並ばなくても入ることができる。いわゆる顔パスだな。
たしかこの街イルベールには騎士になった後輩がいたはずだが。騎士の駐在所を覗いてみるとちょうど目があった。
「先輩!来てたんスね!」
目があった瞬間、そうデカイ声で叫びながら駆け寄ってきた。少し顔を見るだけのつもりだったのだが…。
「久しぶり。元気にしてたか?」
「おかげさまでめっちゃ元気っス!先輩相変わらず真っ白っスね~」
…騒がしい。相変わらずジンはうるさいな。しかも一言余計だ。
「別にそんなに白くもないだろ、お前とあんま変わんねえよ。」
「いや、俺すごい日焼けしてるんで一緒にしないでもらえます?」
ガチトーンで返されると何も言えん…。まあ、確かにこいつよりは白いか。
「そういえば先輩何か用でもあったんですか?」
「王都に行く途中に寄っただけだ。お前に用はない。」
「ひどいっスね!わざわざ見にきてくれたと思ったのに~」
クネクネとジンが擦り寄ってくる。いや気色が悪い…。
「おい離れろよ。」
グイグイと頭を押してもなかなか離れない。今日は日差しも強いし暑いのにこれ以上暑くしないで欲しい。
「なんか先輩いい匂いっスね!ずっと嗅いでたい感じのやつ。」
「は?キモいこと言うなよ。ほら離れろ。」
もう一度頭を押すと今度は簡単に離れた。
「学園の時は寮でみんなおんなじ匂いでしたからね~面白くなかったっスよ」
「匂いに面白いとかないだろ…。」
匂いを嗅いで嬉しそうに頬を染めているジンを見て、こいつは変態だなと俺は確信した。
「王都に行くって、仕官試験っスか?」
「なんだよいきなり…。まあそうだけど。」
クルクル回ってピタリと止まるとそんな質問をしてきた。
「なんでわかるんだ?」
「まあ、そういう季節ですからね~」
季節で判断かよ…。
「先輩王城働きたいんスか?」
「いや王城じゃないといけないわけじゃあないが、安心できる就職先だろ。」
「でも王様いるじゃないっスか。」
「そりゃあ王様いるだろ。王城なんだから。」
「そうじゃなくて、だって王様…」
ジンが何かを言いかけた時にちょうど御者が迎えにきた。
「すまんジン、さっきなんて言った?」
「いやいいっスよ。ほら間に合わなくなりますよ。」
話の途中だったのに申し訳ないと、後ろを振り返るとジンが笑顔で手を振っていた。そこまで気にしていないのかもしれない。
御者とともに馬車へと戻る。
王様がどうかしたのか?兄上だけでなくジンからも心配されるなんて王城には何かあるのか?知り合いでもない2人が同じようなことを言うなんて怪しすぎる。
考えてもわからないから、そのまま眠ってしまった。
試験があるのは2週間後。王城の一室で筆記試験、次に面接などと何日かに分けて行うようだ。その間はもちろん兄上の仕事を手伝うことができないため、今のうちにたくさん仕事をしておかないとな。
数日王都にある邸宅に滞在するため、少しずつ荷造りをする。侍女達に着替えなどを詰めてもらっていると、どこからか視線を感じた。チラリとドアの方を見ると、キラリと光る目が覗いていた。
「…兄上。そんなところで覗いていないで、普通に部屋に入ってきてくださいよ。」
「…見つかってしまったか。もう少しバレないと思ったんだがな。」
「バレバレですよ、視線が痛いです。」
兄上が許可を出したというのに、いまだに引き止めようと必死だ。まず試験が通るかどうかもわからないから、そこまで躍起になる必要もないだろうに。
「ところで兄上はなにをしにきたんですか?キリル嬢と衣装の打ち合わせをしていたはずですが。」
「いや、どちらのデザインがいいかなかなか決まらなくてね。第三者の意見も聞いてみようと思ったんだが、ユニはどっちがいいと思う?」
そういうと兄上は二枚の紙を見せてきた。1つはキリル嬢の瞳の色、緑を基調とした落ち着いたもの。もう1つは白い礼服の装飾が緑になっているもの。どちらかというと、2枚目の方が豪華で華やかさがある。
兄上達の結婚式だし、目立ってなんぼだろう。
「俺は2枚目の方が好きですね。結婚式ですし、派手でいいと思いますよ。」
兄上は顔が整っているし、どんな服も似合うとは思うけれど、いつも落ち着いた色合いの服ばかり着ているからたまには違うパターンも見てみたいよな。
「そうかい?じゃあキリルに伝えてくるよ!」
俺の意見を聞くと兄上は顔を輝かせて部屋を出て行った。…これは2枚目の方が兄上も気に入っていたやつだな。兄上は自分に自信がないからな…仕事とかでは意見が出せても、こういう自由な時はなかなか自分の意見を言わない。
好奇心から選んだけれど、ちょうどよかったな。
ふうと息を吐き出す。ちょうど荷物が詰め終わったみたいだ。
試験の1週間前。王都に出発する日だ。馬を飛ばせば2日で着くが、荷物がそれなりにある為、馬車で移動しなければならない。移動時間が長いため、その間に試験の勉強をする予定だ。
応募資格が学園を卒業していること、と書いてあるくらいだから、今までの内容が出てくるのだろう。テスト勉強なんて久しぶりだから少しワクワクしている。
荷物を全て積み終わり、馬車に乗り込もうとすると兄上が見送りに来てくれた。
「ユニ、気をつけるんだぞ。あと試験はしっかり頑張るように。」
兄上はもう引き止めることを諦めてくれたらしく、素直に応援してくれた。
「はい。もちろんです。」
兄上に礼をして馬車に乗り込む。街と街の間を走る幌馬車とは違い、ふかふかとしたクッションが敷き詰められた馬車はすぐに眠ってしまいそうなほどに座り心地がいい。
家から久しく出ていなかったので馬車に乗ること自体が久しぶりだ。おかげで少し気分が浮ついて勉強に集中できそうにない。とりあえず取り掛かろうと、ポケットから単語帳を取り出す。
宿に着くまではノートは使えないから、暗記系の復習を重点的に行う。こういうのは目で追うだけでも効果があるにで楽だ。
しばらく走ると、御者に声を掛けられた。
「休憩致しますか?」
もう街の近くまで来ているらしい。トイレにも行きたいしちょうどいいだろう。御者に休憩する旨を伝えると、馬車は停留所へと入っていった。
馬車を降りると、街へと入る。街の東西南北全ての入り口に門番がいるが、まだ我が家の領地のためわざわざ並ばなくても入ることができる。いわゆる顔パスだな。
たしかこの街イルベールには騎士になった後輩がいたはずだが。騎士の駐在所を覗いてみるとちょうど目があった。
「先輩!来てたんスね!」
目があった瞬間、そうデカイ声で叫びながら駆け寄ってきた。少し顔を見るだけのつもりだったのだが…。
「久しぶり。元気にしてたか?」
「おかげさまでめっちゃ元気っス!先輩相変わらず真っ白っスね~」
…騒がしい。相変わらずジンはうるさいな。しかも一言余計だ。
「別にそんなに白くもないだろ、お前とあんま変わんねえよ。」
「いや、俺すごい日焼けしてるんで一緒にしないでもらえます?」
ガチトーンで返されると何も言えん…。まあ、確かにこいつよりは白いか。
「そういえば先輩何か用でもあったんですか?」
「王都に行く途中に寄っただけだ。お前に用はない。」
「ひどいっスね!わざわざ見にきてくれたと思ったのに~」
クネクネとジンが擦り寄ってくる。いや気色が悪い…。
「おい離れろよ。」
グイグイと頭を押してもなかなか離れない。今日は日差しも強いし暑いのにこれ以上暑くしないで欲しい。
「なんか先輩いい匂いっスね!ずっと嗅いでたい感じのやつ。」
「は?キモいこと言うなよ。ほら離れろ。」
もう一度頭を押すと今度は簡単に離れた。
「学園の時は寮でみんなおんなじ匂いでしたからね~面白くなかったっスよ」
「匂いに面白いとかないだろ…。」
匂いを嗅いで嬉しそうに頬を染めているジンを見て、こいつは変態だなと俺は確信した。
「王都に行くって、仕官試験っスか?」
「なんだよいきなり…。まあそうだけど。」
クルクル回ってピタリと止まるとそんな質問をしてきた。
「なんでわかるんだ?」
「まあ、そういう季節ですからね~」
季節で判断かよ…。
「先輩王城働きたいんスか?」
「いや王城じゃないといけないわけじゃあないが、安心できる就職先だろ。」
「でも王様いるじゃないっスか。」
「そりゃあ王様いるだろ。王城なんだから。」
「そうじゃなくて、だって王様…」
ジンが何かを言いかけた時にちょうど御者が迎えにきた。
「すまんジン、さっきなんて言った?」
「いやいいっスよ。ほら間に合わなくなりますよ。」
話の途中だったのに申し訳ないと、後ろを振り返るとジンが笑顔で手を振っていた。そこまで気にしていないのかもしれない。
御者とともに馬車へと戻る。
王様がどうかしたのか?兄上だけでなくジンからも心配されるなんて王城には何かあるのか?知り合いでもない2人が同じようなことを言うなんて怪しすぎる。
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