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第8章 第二次琵琶湖決戦

-128- 背負うもの

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「どうしてその機体にアイオロスの名を使ったんですか?」

「本来アイオロス・マキナに使われるはずだったフレームとジェネレーターをその機体に流用したからだと思うわ。ほら、アイオロス・マキナは竜種由来の素材を手に入れたことで急遽フレームとジェネレーターを取り換えたでしょ?」

「あ、そういえば……!」

「その時に使わなくなった元々のフレームとジェネレーターをモエギ・マシニクルに提供し、百華用の新型機を作るように提案したの。本当は百華の機体も私が面倒を見たかったけど流石に手が回らなくってね」

「ということは、そのアイオロス・ゼロツーはモエギ・マシニクル主導で作られ、名前もそっちのメカニックさんたちが勝手につけたってことなんですね」

「そういうことね。竜の力を多く取り入れたアイオロス・マキナに比べてこっちの機体は正統進化って感じだから、ゼロツーというド直球に後継機なネーミングが似合ってると思うんだけど……百華にとってアイオロスの名を背負うのは並大抵のことじゃなかったみたい」

 お爺ちゃんに心酔している百華さんにとって『アイオロス』という名前は特別なんだ。
 それを自分が動かすとなればプレッシャーは計り知れない。
 だから、私たちの前には姿を見せずに隠れている。
 でも、逃げずにこのマシンベースに来ているということは戦う意思はあるということ。
 きっと決戦の日までには覚悟を決めて出て来てくれるはずだ。

「とりあえず、そのゼロツーがどういうDMDか見せてくれませんか?」

「ええ、いいわよ」

 DMDハンガーのゲートが開く。
 その中には薄桃色の装甲を持つ細身の機体と、それに見合わぬ大型のバックパックを背負ったDMDがいた。

「これは……何だか変わったDMDですね。後ろにでっかいブースターみたいなのが付いてます」

「ロゼオ・ジェネレイト・ブースター……内部にロゼオエナジーを動力するジェネレーターを搭載した大型のブースターユニットよ。アイオロス・ゼロツーは状況に応じて様々な装備セット、通称『コーデ』を着せ替えて戦うことをコンセプトに設計されているの。今装備されているコーデはそのまんま『ロゼオコーデ』でRエナジーを使って戦う装備になっているわ」

「ディオス・ロゼオの特徴も引き継いでいるわけですね。でも、機体本体のジェネレーターは普通にDエナジーを使うタイプでしたよね?」

「そうよ。だからこの機体は2つのジェネレーター、2つのエナジーを使って戦うの。今両手に装備されている武器はロゼオ・ジャイアント・ガトリングとロゼオ・ビッグ・シールドと言って、背中のバックパックから動力パイプを通してRエナジーを受け取り稼働するわけね」

 右手の巨大なガトリング砲にも、左手の大きな盾にも、バックパックから伸びたパイプが接続されている。
 パイプは柔らかく伸縮性がある材質で出来ているみたいで、ぶんぶん武器を振り回す時も邪魔にはならなさそうだ。
 有線で動力供給とはなかなか原始的だけど、これなら他の装備……じゃなくてコーデに着替える時に取り外しがとっても簡単だ。
 なんてったって、元から動力パイプが外に出てるんだもんね。

「知っての通り、RエナジーはDエナジーよりも優れたエネルギーと言われているわ。でも、その抽出元である魔桜石まおうせきが希少でなかなかま安定して手に入らない都合上、Rエナジーを主軸としたDMDの開発はあまり進まなかったの。でも、機体本体は普通にDエナジーで動かして武器セットだけをRエナジーで動かすことが出来れば、Rエナジー兵器の実戦投入もしやすくなるってわけね」

「魔桜石があまり手に入らない時は別の装備に変えればいいんですもんね。これが機体本体までRエナジーで動いているとそうはいかない……!」

「素晴らしい発明であると同時に、まだまだ問題も抱えているわ。開発スタッフの話だと本当は武器そのものに小型のジェネレーターを搭載したかったらしいけど、Rエナジーに関する技術はまだまだ発展途上でね。バックパックに小型化しきれていないジェネレーターを搭載して他の武器にエナジーを供給するという形にせざるを得なかったのよ。そのせいで機体バランスがちょっと悪くって、ブースターもDフェザーユニットではなく勢いで飛ぶ旧式のものになっているわ」

「それだと速度は出ても小回りが……」

「そんな欠点を何とか克服するのが本体であるゼロツーの役目ね。アイオロスの正当な後継機を名乗るだけあって機動力はなかなかのもので、重力制御は出来ないけど機体各部に仕込まれている小型Dフェザーユニットを使うことで空中でも浮遊しているかのような姿勢制御が可能よ。ブースターの勢いと機体本体の小回りを組み合わせれば、機体バランスの悪さも補えるはず……!」

「でも、それには相当な腕前が必要ですね。誰にでも出来ることじゃないですよ」

「ええ、並の操者じゃ機体に振り回されてしまうわ。それにRエナジーとDエナジーでは武器の操作感も微妙に異なるし、その扱いに慣れている人なんてこの世に何人もいないわ」

「百華さんじゃないとこの機体の性能は引き出しきれないということですね。でも、私はこの機体が百華さんにしか扱えない機体だから一緒に戦ってほしいわけじゃないんです。百華さんにとって重荷になるというのなら、別の機体でもいいので一緒に戦ってほしいです。だって、私にとってマキナ隊のみんなは安心して背中を預けられる仲間だから、戦う勇気を貰える大切な人たちだから……!」

 機体の性能や操者の腕前、ブレイブ・レベルの高さだって大事だし、そこをクリアしたメンバーがここには集められている。
 でも単純な戦闘能力なら蘭や葵さんを上回る人が世の中にはまだまだいると思う。
 今のマキナ隊は客観的に見れば最大戦力じゃない。

 それでも、私にとってマキナ隊は最強のチームだ。
 共に戦い、その心に触れ、自分の意思で信頼出来ると思った人たちと一緒だから私はもっと強くなれる!
 最後の最後は気持ちの問題だ。
 まったく論理的ではないけど、誰かを想う気持ちはモンスターが持っていない人間だけの強さだと思うから!

「……本当に……私なんかでいいんですか?」

 物陰からひょっこり顔を出した百華さん。
 隠れていただけで彼女は逃げずにここに来ていたんだ。

「百華さんだからいいんです!」

「私にはその言葉もアイオロスの名も重い……! でも、それを背負うことで蒔苗様が背負うものが少しでも軽くなるなら……その役目、私に果たさせてください……!」

 百華さんは私の前でひざまずき、深くこうべを垂れた。
 初めて会った時も彼女はこんな感じだったなぁ。
 ダンジョンに傷つけられ、ダンジョンを恨んだ両親によって受けさせられた脳波強化実験。
 その成果なのか、彼女本来の才能か、得てしまった操者としての能力。
 そして、後遺症として現れた黒髪に混じる桃色の髪……。

 どれも自分の意思で手に入れたものではないのに、怪しげな方法に頼って力を得た者というレッテルは彼女自身に貼り付けられた。
 そんな中、彼女を必要としたのがお爺ちゃんでありモエギ・マシニクルだった。

 だから彼女は萌葱一族に心酔している。
 初対面の私にすら萌葱の人間というだけで頭を下げる。
 最初は私も戸惑ったけど、今はもうそれを受け入れた。

 きっと、これが彼女の自然体。
 この関係だから満たされているんだ。
 私が彼女から勇気を貰うように、私も彼女に勇気を与えられる人間でありたいから、この慣れない関係も私は受け入れていく。

「頼りにしてますよ、百華さん」

「はいっ! この命に代えても必ずや……!」

「いや、命を賭けちゃダメですよ! それだけは守ってくださいね!」

「かしこまりました! 命だけは賭けません!」

「うん! みんなもそうしてね!」

 これでこの場にマキナ隊6人のうち4人が揃った。
 つまり結成当初のオリジナルメンバーは全員いるというわけだ。
 残るは蟻の巣攻略の時はいなかった追加メンバー!
 まだ日本に残っていてくれて助かったあの2人の到着が待たれる……!
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