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第8章 第二次琵琶湖決戦

-129- 優しい秘密

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「……と思っていたら早速ね」

 ドックに運び込まれてくる2つのコンテナ。
 1つは紅色で、もう1つは藍色だ。
 そして、コンテナの側面にはでかでかとヴァイオレット社の社章が描かれている!
 もはやその中身を見るまでもない!

「お久しぶり……というほどまだ別れてから時間は経っていませんわね」

「こんな形でマキナと再会することになるなんて思ってなかったな」

 紅色のドレスに紅色の髪、紅花・ヴァイオレット。
 藍色のドレスに藍色の髪、藍花・ヴァイオレット。
 ヴァイオレット社の社長令嬢である双子の姉妹が滋賀第二マシンベースにやって来た!

「来てくれたのね2人とも!」

「当然ですわ! 何かあったら呼んでくださいなとマキナと約束したばかりですもの!」

「まだアメリカに帰る前だったからすぐに来ることが出来たんだ。もちろんアンサーたちも一緒だよ」

 開かれたコンテナの中から覗く紅と藍の機体は『黄金郷真球宮』で戦いを共にした時と変わらない姿だった。
 アンサーは元から最新鋭機だから改造の必要はないものね。

「まあ、作戦開始までに多少は追加武装を用意する予定ではありますのよ」

 私の考えていることを察した紅花が言う。
 そんな紅花に恐る恐る近寄って来たのは百華さんだ。

「もしや……あなた方がヴァイオレット姉妹なのですか?」

「ええ、そうですわよミス・モモカ」

「わ、私の名前をご存じなんですか!?」

「あのモエギ・コンツェルンを支える迷宮探査部のエリート『闇を照らす者イルミネーター』を知らぬほど私は無知ではありませんのよ。うふふ……あなたと共に戦えることを光栄に思いますわ」

「そ、そんな……私にはもったいないお言葉です……!」

 百華さんはその場にひざまずいて頭を垂れる。
 紅花と藍花にも萌葱の血が流れているわけだからこの反応は当然と言えるけど、いざ目の前で見せつけられるとなんかこう……百華さんを取られたって気分になる……!

「ちょっと蒔苗さん……!」

 蘭が私の耳元でささやく。

「あの方たちがウワサのヴァイオレット姉妹ということですけど、本当にあの髪は地毛なんですわよね?」

「うん。脳波強化処理の後遺症らしいよ」

「後遺症……でも美しい! なんと艶やかで鮮やかな紅と藍なんですの……! それにあのドレス……! 日本の酷暑をものともしないフルドレス! 私なんかドレスの布だけでなくカツラの毛量まで減らしていますのに……! くぅぅぅ……お嬢様として完全に負けましたわ!」

「ま、まあまあ、ここで負けても本番の戦いで負けなければいいからね……」

 割と本気で悔しそうな蘭にあまり慰めにならなそうな言葉を投げかけていると、今度は葵さんが私のそばに寄って来て小声で話し始めた。

「この子たちって高校生くらいなんだよね?」

「ええ、高校3年生だったと思います」

「へぇ……2人は同い年なんだよね?」

「はい、双子ですから」

 やたら神妙な口調の葵さん。
 まさか、この2人に何か思うところが……!

「あっちの青い子の胸……やたら大きいけど詰め物でもしてるの?」

「え? ああ……してないですよ。お風呂で見ましたから」

「そういえば一緒に露天風呂に入ったって言ってたね……。この戦いが終わって仲良くなったら、私も一緒にお風呂に入れるかな? その時は蒔苗と育美も一緒に……」

「さ、さあ……藍花はちょっと人見知りでおとなしい子だから、どうでしょうかね……?」

 この状況でもみんな自然体というか、いつもよりリラックスしてるな!?
 まあ、ガチガチに緊張しているよりもずっといいのは間違いない!
 それなりに場数を踏んできたメンバーがここには揃っているからね!

「さてさて、このまま立ち話というのもなんですからテーブルを囲んでティーパーティーというのはいかがですか? いきなり作戦会議というのも堅苦しいですし、まずはお互いのことを知るためにお茶とお菓子を片手にリラックスして語らう場があってもいいと思うのですが」

「うん、いいね! ちょうど小腹がく時間だし! みんなもそれでいいかな?」

 この場にいる全員が紅花の提案に同意し、整備ドックから上の階層へ移動することになった。
 その道中、私のDphoneディーフォンにメッセージが届いた。
 送り主は……愛莉だ!

 愛莉、芳香、芽衣の3人とは夏休みになってからそこまで会えていない。
 私が忙しかったのはもちろんだけど、彼女たちも家族と旅行したり田舎に帰省したりと方々へ飛び回っている。
 生きるか死ぬかの瀬戸際……あの蟻の巣の騒動に巻き込まれたから、ご家族も娘との時間を大切にしているんだろう。

 でも、メッセージのやり取りはいつもしていた……わけでもない。
 私も立場上すべてのことを話せるわけじゃないから、どうしても彼女たちとのやり取りに誤魔化さないといけないことが出てくる。
 それが嘘をついているみたいで結構辛いんだ……。
 だから、やり取りの頻度も自然と下がっていった。

 もちろん、仕方ないことだとは理解している。
 今回だって滋賀に行くとは言えても、脳波で人を殺せる怪物と戦いに行くなんて言えない。
 それは重要な機密であり、外に漏れれば一般の人たちがパニックを起こす可能性がある。
 実際、竜種を仕留め損ねて地上に出してしまえば犠牲者はどれほどになるか……。
 いくら友達でもこの情報だけは外に出すわけにはいかなかった。

 さて……どう誤魔化したものか……。
 頭を悩ませながら画面を見ると、そこには意外なメッセージが表示されていた。

 ――愛莉:何がとは言わないけど頑張ってね!

 明らかに何かを察しているメッセージ……!
 まさか、うっかり機密を漏らしちゃってた!?
 これは確認しとかないと……!

 ――マキナ:何がって何かな?
 ――愛莉:わからないけどわかってるよ
 ――マキナ:私なんか変なこと言ってたかな……?
 ――愛莉:ううん、私たちは何も知らないよ
 ――愛莉:でもね、私たちは友達だから蒔苗ちゃんが何かとんでもないことを頑張ってるってことはわかってるつもりだよ
 ――愛莉:もちろん芽衣ちゃんと芳香ちゃんもね
 ――愛莉:だから、私たちのことは気にせず集中してね!

 本当に愛莉たちには助けられてるなぁ……。
 優しくて、強くて、誰かを思いやれる最高の友達。
 今はその優しさに甘えよう。

 ――マキナ:ありがとう! 頑張る!

 この戦いで犠牲者は出さない。
 いつかみんなに笑ってこの秘密を話すためにも……!
 この私、萌葱蒔苗がやるんだ!
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