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第6章 血に刻まれた因縁の地

-96- 紅と藍のDMD

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 そして、2機のDMDは私の期待を上回る活躍を見せた!
 アンサーの何より優れている部分は火力だ。
 より高出力かつ高圧縮のエナジーを扱う武器カテゴリー『Hi-Deハイド』は、容易にモンスターを撃ち抜き斬り裂いていく。
 ちなみにHi-Deハイドとは『Highハイ Denergyディーエナジー』の略だと紫苑さんが言っていた。

 アンサー・レッドのHi-Deハイドバスターソードは巨大なエナジーの刃で、長い体を持つヘビ型モンスターを頭からしっぽまで真っ二つにする。
 アンサー・ブルーのHi-Deハイドキャノンはエナジーを一点に照射し続けることで、エナジー攻撃に耐性を持つアルマジロ型混成機械体の装甲も貫いてしまう。

 1体を撃破するのにかかる時間が極端に少ないから、それだけ前に進む速度も上がる。
 長い長い深層ダンジョンを攻略するのに適した装備だ。
 しかも、ただ出力を上げただけじゃなくて圧縮も行っているから、威力の割に消費するDエナジーは抑えられているみたい。
 稼働時間が短いと深いダンジョンには潜れないから、これも大事な要素だ。

 正直、見ている分には負ける気がしない!
 特に今のようなダンジョンの浅い部分では敵なしだ!
 奥深くに進めばモンスターも強くなるけど、それでも負ける姿は想像出来ない。
 彼女たちなら私が大苦戦したヤタガラスも手際よく片付けられるんじゃないかな?
 そう思ってしまうほどにアンサーは洗練された機体で、紅花と藍花は手練れのDMD操者だ。

 会場全体が固唾かたずんで見守る中、ついに2機のDMDはダンジョンのレベル50付近まで到達した!
 随伴機も含めて撃破された機体はなし。
 アンサーの2機に至っては傷一つない。
 道中には混成機械体もそれなりに出現したのにすごい……!

「いよいよ人類とダンジョンの戦いの歴史に新たな1ページが刻まれます……!」

 紫苑さんの声にも力が入る。
 2機のアンサーは紫苑さんの言葉の後、あっさりとダンジョンの奥へと進み始めた。
 ダンジョン・レベルは……51を超えている!
 踏み込んだんだ、深層ダンジョンに!

 会場は大盛り上がりで、観客全員がスタンディングオベーションだ!
 私も釣られて立ち上がり、普通に拍手をしていた。
 人類はもう深層ダンジョンの闇を恐れるだけの存在じゃない!

「みなさん、ありがとうございます……! まだショーは中盤を過ぎたあたりです。ここから一気にこの忌まわしきダンジョンを抹消して御覧ごらんに入れましょう!」

 さらに盛り上がる会場。
 アンサーたちは随伴機と別れてどんどんダンジョンを進んでいく。
 ここから先は新型の装置類を使っても姉妹しか入れない領域。
 モンスターもどんどん強くなる……はずなんだけど、案外出てくる数が少ないような……?

 それに最初から感じていたことなんだけど、このダンジョンは生理的に不気味だ。
 内部は金色を基調としつつも、よくわからないマッドな模様がそこかしこに描かれている。
 構造もおかしくて、球体状の部屋と円柱状の通路だけでダンジョンが構成されている。
 角というものが全然ないんだ。

 それはモンスターたちも同じで、ヘビやミミズのようなにょろにょろしたものや、アルマジロのように丸くなれるタイプのモンスターしか出てこない。
 金色に満たされた球と円だけが存在するダンジョン……。
 だから『黄金郷真球宮』……!

 不気味だ……。
 今まで見てきたどのダンジョンよりも……!
 それは絶対に紅花と藍花も感じているはず。
 でも2人ならこの不気味なダンジョンにも勝てるかもしれない。

 2機のアンサーは順調にダンジョンを進んでいる。
 ひとしきり騒ぎ終えた観客たちも全員席に着き、次の盛り上がりどころである抹消の瞬間に備えている。

 『黄金郷真球宮』のダンジョン・レベルは70で、現在地は65レベル付近。
 スムーズにいけば次の大喝采の時は近い。
 私は無意識に指を組んで祈っていた。
 このまま上手くいきますように……と。

 それと同時に、私の中の萌葱の血が叫んでいた。
 祈るだけでは救われない……と。
 ダンジョンとの戦いに命を賭けてきた一族の血の声は、残酷なようで真実だった。

 コアに向かう通路で立ち塞がる敵……。
 完全機械体がアンサーたちの前に立ちふさがった。
 そいつは頭こそ龍のようだけど、しっぽの方に向かうほど装甲も薄くひょろひょろした体になっている。
 竜頭蛇尾りゅうとうだびを形にしたようなモンスターは、安易に2機に突撃することなく、むしろ余裕を持って待ち構えているように見えた。

 会場の空気が引き締まる……。
 不安が混じったような雰囲気も感じる。
 でも、私の隣に座っているような来賓のお偉いさんたちは動じていない。

 ここは深層ダンジョンなんだ。
 コアに向かえば完全機械体の1体や2体が出てくるのは予想出来る。
 紫苑さんも、紅花も、藍花も……覚悟は出来ているはず。
 さあ、どう倒すのか……!

 先に動き出したのは……紅花機アンサー・レッドだった。
 私たちが今見ている映像はこのアンサー・レッドから送られてきたものだ。
 途中までは随伴機がいい感じに2機の活躍を映してくれたけど、レベル50を超えてからはこちらに視点が移っている。

 だから、彼女が接近戦を仕掛けると……それはそれは映像が動く!
 機動力で懐に飛び込んで戦うタイプだから仕方ないんだけど、この映像に酔っている人もいそうだな……って、そんなことを考えている場合じゃない!

 完全体の龍もどきはまるでボクシングのスウェーのように体をのけらせて斬撃を回避する。
 やっぱり完全体は瞬殺とはいかない……!
 でも、藍花の援護射撃があればそう簡単に回避も出来ないはず……。

「……援護がない?」

 映像からは藍花機からの援護があるようには見えない。
 紅花が1人で戦っているように見える。

『藍花! 援護してよ!』

 明らかに焦っている紅花が聞こえ、彼女の機体が後ろを振り返る。
 そこに映っていたのは……立ち尽くすアンサー・ブルーだった。
 機体トラブルで停止した……?
 いや、違う! わずかにだが機体は動いている!
 まるで見えざる拘束を解こうとしているように……!

「透明化の能力を持つモンスターか……!」

 アンサー・ブルーは明らかに何かに押さえつけられている。
 でも、その姿は見えない。
 私がかつて『潮騒砂丘しおさいさきゅう』で戦った透明なイカ『トウカイカ』のように、見えないモンスターが絡みついている可能性がある。
 それもすさまじいパワーで……!

『う、動けない……!』

『胸のガトリングを使いなさい! 多少機体にダメージがあっても構わないわ!』

『わかった……!』

 アンサー・ブルーの胸部には2門のHi-Deハイドガトリングが内蔵されている。
 これを放ち、見えざる敵への攻撃を試みる。
 敵が絡みついているとなればゼロ距離射撃になるため、多少機体もダメージを負うけど背に腹は代えられない……!

 胸から放たれた群青色のエナジーは見えない何かに当たり、砲門のすぐ近くで炸裂した。
 砲門や装甲が多少焼けついたけど、拘束は解けたみたいだ!
 会場からも安堵あんどのため息が聞こえる。

 ここからは映像の視点が藍花機の方に切り替わる。
 後ろから援護射撃を行う彼女の視点から見た方が、戦闘の流れが見やすいからだ。
 2機の連携による本当の戦いが始まる……というところで、会場から悲鳴が上がった。
 ずっと紅花機と戦っていたはずの龍もどきが不意ににょろりと体の向きを変え、藍花機に急接近してきたからだ!
 主観映像だから、巨大スクリーンいっぱいに龍もどきの頭部が映り、次の瞬間にはその口の中が映っていた。

『あああああああああーーーーーーッ!!』

 絶叫……!
 藍花の声だ……!
 まるで本当に噛みつかれたかのような悲痛な叫び……!

 でも、DMDには痛覚を伝える機能など搭載されていない。
 噛みつかれて驚いただけだと、誰もが思っていた。
 しかし、藍花の絶叫はいつまでも響き、む気配がない。

「藍花……!」

 紫苑さんも絶句している。
 これは完全に想定外の事態みたいだ……!
 見えないけど紅花もおそらく混乱しているはず……!

 私にだって何が何だかわからないけど、1つだけわかってることがある。
 行動を起こすなら今だってことだ!

「藍花、今行くわ……!」

 そう言って紫苑さんが舞台裏に下がる。
 私もほぼ同時に席から立ち上がり、ドレスをひるがえしながらコントローラーズルームに向かった!
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