Dマシンドール 迷宮王の遺産を受け継ぐ少女

草乃葉オウル

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第6章 血に刻まれた因縁の地

-95- ダンジョンデリートショー

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 そして、開演直前……。
 私はすでに疲れ始めていた。
 それは本番を前に張り詰めていく空気にあてられたからというのもある。
 でも一番の理由は……私が萌葱蒔苗だと感づかれたからだ。

 この会場には本来女子高生なんて入れない。
 入っているのは各界隈でそれなりの力を持つ大物さんばかりと聞いている。
 後は一部マスコミとか……。

 そんな中に女子高生が1人、それも萌葱色のドレスをまとっているとなれば、もうそれは萌葱蒔苗くらいしか考えられないと思うのは自然なことだ。
 私は名前こそ知られ始めているが、厳しい規制によって顔の拡散は避けられている。
 大物さんでも私の顔は知らないはずだ。

 だから、みんな恐る恐る私の方に近寄ってきて、小さな声でたずねてくる。
 もしかして、萌葱蒔苗さんですか……と。
 そして嘘が苦手な私は上手くはぐらかすことが出来ず、実質認めるような形になってしまう。

 その後は握手を求められたり、感謝されたり、もっと恐れられたりと……。
 まあ、握手とか感謝は気を遣っちゃうけど全然いい。
 でも、恐れおののくような反応はなんなんだろう?
 世間では私が未知の力を扱う新人類とでも思われてるのかな……?
 くっ、あながち間違いと否定しきれないのがまた……!

 そんなこんなで私は開演前から疲れていたのだった。
 でも、私が疲れていようとショーの幕は上がる。
 今、黒に近い濃い紫のドレスをまとった紫苑さんがステージ上に現れた。
 会場の空気がより引き締まるのを感じる……。

 でも、私は紫苑さんと1対1で話した経験もあるし、このショーで発表される内容も知っている。
 他のお客さんほど雰囲気にはみ込まれない。
 それどころか逆にリラックスしている。
 みんなの興味が紫苑さんに移ったことで、なんだか解放された気分だ。

 ステージ上ではまだ挨拶が続いているし、来賓紹介まではまだ時間があるだろう。
 それにしても、どうしてこう堅苦しい挨拶って眠気を誘うのかしら……。

「そして、モエギ・コンツェルンを代表いたしまして、現在唯一深層ダンジョンに挑むことが出来るDMD操者、萌葱蒔苗様でございます」

「は、はいっ!」

 うとうとしていた私は名前を呼ばれて思わず返事をしてしまった!
 立ち上がった私に会場全体の視線が集中する。
 それにクスクスという笑い声も聞こえてくる……。

「ふふっ、元気なお返事ありがとうございます」

 紫苑さんの声で我に返り、とにかく振り返って一礼した。
 席に座った後もしばらく笑い声は聞こえていた。

 うぅ……やってしまった……!
 自業自得とはいえ、恥ずかしい……!!
 みんなの視線が私の首筋に集中しているのがわかる……!
 丸出しだから守ってくれるものは何もない……!

 私が恥ずかしがっている間にもショーは先に進んでいく。
 ステージ上の巨大スクリーンが起動し、キラキラした宮殿のような場所を映し出した。
 その瞬間、会場全体が息をのむ。
 え、何が起こったの……!?

「ご覧いただいているのは黄金郷真球宮内部のリアルタイム映像です」

 黄金郷真球宮……!
 つまり、今見えているのはダンジョンの中の景色。
 でも、リアルタイムで映像を送信するのは不可能なはず……。
 大前提としてダンジョン内部と外部ではあらゆる通信が行えない。
 届くのは脳波のみなんだ。

「ヴァイオレット社は脳波から映像を出力する技術を確立致しました」

 会場がざわつき始める。
 脳波から映像を……?
 原理がまったくわからない!

「脳波で体の動きを伝えることが出来るのはみなさんご存じでしょう。そうでなければ、DMDは動きません。そして、音声を伝えることが出来るのは舌や口を動かすという脳の命令を読み取り、DMD側でその人の声色を再現した声を作成しているからです」

 DMDから人の声が出せるのはそういう原理だったのね。
 気軽に会話してるけど、すごい高度な技術だ……。

「さらに操者はDMDのマイクが拾った音を聞き、DMDのカメラが映した映像を見ることが出来ます。つまり脳波制御とは操者から一方的に情報を送るだけでなく、DMD側からも絶えず情報が送られているのです。この映像は簡単に言えば、その送られてくる情報の中から映像に関するものをピックアップし、特殊な処理によって映像として再変換したものなのです」

 会場全体がどよめく。
 原理はよくわからないけど、とりあえずすごい技術だということはわかった。
 藍花の情報にも含まれていなかったから、正直私もビックリしている。
 戦いそのものには無関係な技術だから藍花は話さなかったのかな?

 でも、冷静に考えればこの発表は予想できたことかもしれない。
 だって、ダンジョンデリートショーでダンジョンをデリートする瞬間を見られないのでは、ショーとして成り立たないもの。
 その瞬間を映し出せる方法が用意されているというのは自然な考えだ。

 なのに、みんながみんなこの発表に驚いているのは、そんなことは出来ないと無意識のうちに可能性を否定していたから。
 そう、私も含めてこんなことが出来るとは思ってもいなかった!
 ヴァイオレット社……すごい!

「ちなみに音声も流れます」

 映像が動き、複数のDMDが映る。
 その中の1機が軽く手を叩いた。

 深紅のカラーリングに流線型の装甲。
 全体的なシルエットは細身で、どこか生き物っぽい感じもする。
 モエギの良くも悪くもシンプルで機能だけを追い求めたDMDとは雰囲気が違う。
 あれがきっと……紅花のDMD!

 そして、隣に立つのは群青色のDMD。
 基本的なフレームは赤い方と同じに見える。
 でも、軽装で機動力を重視していそうなあっちと違いこちらは重装タイプだ。
 無数の内蔵武器に外付け武器、さらに手にも武器を持っている。
 これが藍花のDMDで間違いない……!

「この赤と青の機体こそ今回のショーでダンジョンをデリートする役目を負ったDMD『アンサー』です。赤い方をアンサー・レッド、青い方をアンサー・ブルーと呼びます。この2機はわが社が威信をかけて開発した深層ダンジョンへと脳波を届ける新たな脳波増幅装置と脳波送信装置、そして脳波受信装置に対応しており、戦闘面においても現代のどのDMDよりも優れた性能を発揮します」

 新型DMD『アンサー』!
 これが紫苑さんの答えというわけだ。
 少し悪役感を感じさせるデザインが、今はとても頼もしく見える。
 この2機のアンサーに加え、ダンジョン・レベル50までは共に戦う随伴機ずいはんきも複数いる。

 いける……!
 これならダンジョンを抹消出来る気がする!
 私の中の不安は期待に変わっていた。
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