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第23話 決着!魂のお料理バトル!

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 調理の時間は終わり、お料理バトルは開票に入った。
 勝負の当事者なので当然だけど、俺たちは開票には関われない。
 ただ座して結果を待つのみ。

 メインのシェフをロニに交代してから、残念ながらナポリタンを作るスピードは下がった。
 最終的に作った料理の数はゾートの方が上だ。
 その分、多少不利にはなるが味ではきっと負けていない。
 ロニの料理は食べたことないけど、きっと大丈夫だ!

「すいません……負けたら私のせいです……」

 シータはすっかり落ち込んでしまっている。
 彼女はよく頑張ってくれた。責める気持ちなんてまったくない。
 だが、今のシータにそう言葉で伝えてもきっと届かない。

 彼女は勝負を途中で投げ出したことを申し訳ないと思うと同時に、料理の技術でゾートに及ばなかったことを悔しいと思っている。
 相手はプロなのでまったく年季も違うし、言い訳のしようなんていくらでもあるが、シータは悔しそうだった。
 普段は大人しいけど、心の内には熱いものを秘めている子なんだ。
 また新しい一面を知ることができた。
 あとは何より勝っていれば……。

「票が数え終わりました! これより結果発表を行います!」

 次の言葉が放たれるまでの時間は、永遠のように思われた。
 俺の人生で最も長い数秒間、そして……。

「ヴィーオン、98票! ベシャメール、106票! よって勝者はベシャメール!!」

 ワーッっと会場が湧く中、俺たち当事者は一瞬固まった。
 そして、その言葉を何度も頭の中で繰り返してから、叫んだ。

「やったああああああーーーーーーっ!!!」

 グランの意地、シータの頑張り、そしてロニの根性でベシャメールは見事勝利を収めた!
 これでお店が乗っ取られることはない!
 あ、あと俺たちの作った野菜もよーく頑張った!
 お手伝いした仲間たちも、手伝ってない姉妹たちもこの時ばかりは一緒に喜んでくれている。

「ふっ……完敗です。ベシャメールの勝利になんの異議もない。ヴィーオンは手を引きましょう。私が上に掛け合います。そして、私の辞職をもってそれは叶うでしょう」

 ヴィーオン側にリスクはないと思っていたが、負けたゾート自身は責任を取らねばならないのか……。
 彼自身は良い料理人なばっかりに、少しかわいそうに思えてしまう。
 だが、ここでさらにヴィーオンの経営方針にまで口を出す資格は俺たちにはない。
 あるとすれば、それは勝負を受けたベシャメールの店主グランくらいだろう。

「ゾートと言ったな? お前さんの料理を一度食わせてもらった時、勢いに任せて『まずい』と言ってしまったが、あれは嘘だ」

「知ってます。私の料理がまずいわけありませんから」

「ふんっ、その自信と料理の腕……気に入った! 行く当てがないならベシャメールに来て店を継げ! お前にならば任せていい!」

「……正気ですか?」

「まだボケさせてもらえんのでな!」

 な、なんという豪胆さだ……。
 店を守って、さらに後継者まで捕まえようというのか。
 流石はこのお年でも向上心を忘れない人だ。見習わないとなぁ。

「ふむ……悩みますが、ここで答えを出すべきですね。今の店への報告が終わってクビになったら、ベシャメールに来ます。いきなり料理長は恐れ多いですが」

「構わん構わん! 見ろワシの弟子たちを! お前が料理長になってくれて喜んどるわ! ポッと出の部外者に店を継がせると言っておるのにあれだ! ハングリー精神が足りん!」

 確かにグランの弟子たちは良くも悪くものほほんとしている。
 だが、一人だけそのハングリー精神を持っている店の関係者がいた。

「ロニは反対っす! 店を継ぐのは孫である私っす!」

「お前は店を継ぐには早いと言っておろうが!」

「勝負に勝ったのにっすか?」

「勝ったのはシータの嬢ちゃんのおかげだ! お前が作り始めてからはスピードも落ちて調理にムラが出来はじめておった! だからこんな僅差の勝負になっとるんだ! ワシの調理技術と同レベルなら大差で勝っとるわ!」

「あー! 嘘っす嘘っす! じっちゃんは自分より格下の料理人を後継者に指名したりはしないっす! あのままロニが作らなくてもいい勝負になってるはずっす!」

「くっ……口ばかり達者になりおって……。いいか? お前には別の役目がある!」

「別の役目?」

「今回使わせてもらった牧場の野菜素晴らしいだろ?」

「はいっす!」

「だが、ベシャメールではもう使えん。付き合いもあるし簡単には仕入れ先は変えられんからな」

 そうか、ベシャメールが存続する以上、前の店の仕入れ先もそのままになるのか。
 今回の勝負では裏切るような行動をしたとはいえ、それは生活のためだからグランは許すつもりだ。
 なら、牧場からの食材提供は今回限りになるな。

「でも、それは惜しいと思わんか? この野菜の素晴らしさを世に広めたいと思わんか?」

「思うっす!」

「だから……お前が牧場でレストランを開き、この野菜の魅力を広めていくのだ!」

「ど、どういうことっすか!?」

 ロニが俺の方を見る。
 いや、俺も聞きたいのだが……。

「牧場で採れた野菜を牧場ですぐさま料理して提供する……最高だと思わんか? ロニ、お前はホールをやらせている間も空いた時間には料理の勉強をしておったんだな。荒さはあるが、良い作りっぷりだった。味も良かった。そろそろ一人で頑張ってみても良いだろう」

「ほ、本当っすか!?」

「男に二言はない! ゆけ我が孫よ! ルイルイフェニックス牧場を料理で発展させるのだ! 確か観光牧場にしたいという話を聞いている! ならばレストランは必須だ!」

「はいっす! 行ってきます!」

 ……こうして、ロニが牧場で経営するらしいレストランの料理長(仮)になったようだ。
 確かに牧場で直接商品を売る計画は頭にあったが、レストランとまでは考えてなかった。
 でも、実現出来たらおもしろそうだ。
 すぐに無理と決めつけず、前向きな気持ちでなんでもやってみよう。
 それに、ここで断るのもヤボってもんだしね。
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