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第24話 シン・ゴブリン建築部隊
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お料理バトルから数日後、大シェフの孫ロニと彼女の年齢に近い若手スタッフが数名牧場に引っ越してきた。
店舗なんてまったくできていないが、空き部屋は母屋にまだあったのでそこに住んでもらうことになった。
しかし、これ以上増えるとなると住居ももっと増やさないといけないかもなぁ。
幸い土地は問題ないのだが、建築はほぼノームに頼りっきりだから少し申し訳ない。
店舗に住居、さらにもう一つ俺たちには必要なものがあるのだ。
それは牧場までの道。
牧場は田舎の村からさらに離れたところにあるので、道なんて舗装されていない。
そのうえ街灯もなく夜は真っ暗だ。
ガルーが守ってくれているから無事に暮らせているが、どんなモンスターが飛び出してくるかわかったものじゃない。
町から遠い分、来るのには時間がかかる。
ガタガタで夜どころか昼も安全かわからない道を通って、牧場の観光やレストランに食事に来てくれるわけはない。
道の整備は最低限。安全の確保もなんとかしたい。
定期的に牧場と町を行き来する馬車も必要かもしれない。
でも、これを全部現状のメンバーで行うのは不可能に近い。
「流石にワシも一人でここから町まで安全な道を作れと言われるとやる気がでんのう~」
ノームもこの調子だ。
ニーナに甘えられてもやる気が微妙なので、精霊にもめんどくさい仕事はあるのだろう。
しかし、彼はイケてる爺さんだ。
代案をしっかりと提示してくれた。
「ワシの知り合いのゴブリン建築部隊に頼んでみるといいかもしれん。とはいえ、前回会ったのは何十年前じゃろうか? 廃業しとらんかったらよいが……」
「ゴ、ゴブリンですか!?」
俺の脳裏に緑色の薄汚れた小鬼が思い浮かぶ。
一匹一匹の戦闘能力は高くないが、その強い繁殖力による数で押す戦法を得意とするモンスターだ。
確かに一般的なモンスターよりは知能が高いので、建築も出来るだろうけど……。
意思の疎通が出来るのか少々不安だ。
「あっ、大丈夫じゃと思うぞ。なんせ奴らは真のゴブリンじゃからな」
そう言い残してノームは数日間工房を空けた。
外の世界にそのゴブリン建築部隊を探しに行ったのだ。
しかしながら、ゴブリンが依頼を受けて働く姿が想像できない。
恐ろしいイメージしかないからなぁ。
実は戦ったことないけど……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「初めまして、わたくし『シン・ゴブリン建築部隊』の代表を務めますゴブレンと申します」
スーツを着込んだゴブリンから名刺を渡され、俺は自分が事業を起こしたのに名刺すら持っていないことに気づいた。
今度作っとかないとなぁ……って、そんなことより目の前にいるゴブリンは俺の知っているゴブリンと全然違う。
キッチリと服を着こなし、小ぎれいで、礼儀も正しい。
肌の色や背格好に違いがあるだけで、意思の疎通も取れる。
それどころか俺より全然人間出来ていそうな雰囲気がある。
「驚かれていますね。私たちに」
「す、すいません……」
「いえ、構いませんよ。それを承知でというか、むしろそのために建築の仕事をしているのですから」
ゴブリンというのはそもそも精霊だったらしい。
それもノームと同一視されるほどの力を持った大地の精霊だった。
そこから種として分かれていき、ドワーフやゴブリンが生まれた。
そのゴブリンも今となっては知性を失った危険なモンスターという認識が一般的だが、本来は違う。
今目の前にいるゴブレンのようにノーム顔負けの建築技術と知性を持った『ホブゴブリン』も存在する。
だが、ホブゴブリンという名称ももはや成長してより危険になったゴブリンの上位種という意味合いで使われている。
なので彼らは本当のゴブリンという意味を込めた『シン・ゴブリン』を名乗り、建築業でゴブリンという種族がすべて危険というイメージを払しょくしようとしているのだ。
「まあ、あまり成果は出ていませんがね。昔は我々の方が建築技術も魔術も優れていましたので、人間も仕方なく頼ってくれました。最近は人間もどんどん技術を発展させていますから、なかなかね。今回は我々にご依頼いただきありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ結構大掛かりな仕事を受けていただきありがとうございます。なかなかあれだけの道を整備してほしいって頼んでも、受けてくれるところは少ないですからね。助かります!」
「では、仕事内容と報酬を確認しましょう。契約書も作らなければいけませんね」
俺とゴブレンは母屋でそこらへんの話をした。
マリーも隣にいたのでまあ問題はない。
彼女曰くぼったくられているということはなく、かといって安い報酬でもない。
つまり、正当な対価を支払えているということだ。
「人間サイズの住居の建築と人間サイズのレストラン、そして牧場から近隣の村を経由しレギンズまでの道の整備がご依頼内容で間違いないですね?」
「はい!」
俺は間違いないと伝えた。
人間サイズの……という言い回しが気になったが、彼らは体の大きな種族の建物の建築も請け負うので基本的にサイズの確認は必要らしい。
確かにオーガとか体の大きな種族に人間サイズの家を作ったらクレームが来るだろう。確認は大事だ。
「では、我々はさっそく作業に入ります。近隣の山から資材を調達しても構わないとのことですので、山に向かいます。あとノームさん、鉱脈の場所を教えてください」
「仕方ないのぉ~」
大地の精霊であるノームは眠っている鉱脈を見つけるのが得意だ。
工事にはやる気を見せなかった彼もそれは手伝ってくれるらしい。
こうして、ノームとシン・ゴブリン建築部隊は山に入り、どんどん木や鉱石を持ってきては加工し、工事を進めていった。
正当な報酬をもらっているので手伝いは不要だとゴブレンは言っていたが、気持ちとして休憩中のゴブリンたちに食べ物や飲み物は提供した。
みんな大層その美味しさに驚き、またそれが食べられるのならばとレストランの建築にも気合が入っていた。
そして、工事開始から一か月が過ぎた頃、ついにすべての施設が完成を向かえた。
さあ、その出来栄えを一つ一つ確認していこう!
店舗なんてまったくできていないが、空き部屋は母屋にまだあったのでそこに住んでもらうことになった。
しかし、これ以上増えるとなると住居ももっと増やさないといけないかもなぁ。
幸い土地は問題ないのだが、建築はほぼノームに頼りっきりだから少し申し訳ない。
店舗に住居、さらにもう一つ俺たちには必要なものがあるのだ。
それは牧場までの道。
牧場は田舎の村からさらに離れたところにあるので、道なんて舗装されていない。
そのうえ街灯もなく夜は真っ暗だ。
ガルーが守ってくれているから無事に暮らせているが、どんなモンスターが飛び出してくるかわかったものじゃない。
町から遠い分、来るのには時間がかかる。
ガタガタで夜どころか昼も安全かわからない道を通って、牧場の観光やレストランに食事に来てくれるわけはない。
道の整備は最低限。安全の確保もなんとかしたい。
定期的に牧場と町を行き来する馬車も必要かもしれない。
でも、これを全部現状のメンバーで行うのは不可能に近い。
「流石にワシも一人でここから町まで安全な道を作れと言われるとやる気がでんのう~」
ノームもこの調子だ。
ニーナに甘えられてもやる気が微妙なので、精霊にもめんどくさい仕事はあるのだろう。
しかし、彼はイケてる爺さんだ。
代案をしっかりと提示してくれた。
「ワシの知り合いのゴブリン建築部隊に頼んでみるといいかもしれん。とはいえ、前回会ったのは何十年前じゃろうか? 廃業しとらんかったらよいが……」
「ゴ、ゴブリンですか!?」
俺の脳裏に緑色の薄汚れた小鬼が思い浮かぶ。
一匹一匹の戦闘能力は高くないが、その強い繁殖力による数で押す戦法を得意とするモンスターだ。
確かに一般的なモンスターよりは知能が高いので、建築も出来るだろうけど……。
意思の疎通が出来るのか少々不安だ。
「あっ、大丈夫じゃと思うぞ。なんせ奴らは真のゴブリンじゃからな」
そう言い残してノームは数日間工房を空けた。
外の世界にそのゴブリン建築部隊を探しに行ったのだ。
しかしながら、ゴブリンが依頼を受けて働く姿が想像できない。
恐ろしいイメージしかないからなぁ。
実は戦ったことないけど……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「初めまして、わたくし『シン・ゴブリン建築部隊』の代表を務めますゴブレンと申します」
スーツを着込んだゴブリンから名刺を渡され、俺は自分が事業を起こしたのに名刺すら持っていないことに気づいた。
今度作っとかないとなぁ……って、そんなことより目の前にいるゴブリンは俺の知っているゴブリンと全然違う。
キッチリと服を着こなし、小ぎれいで、礼儀も正しい。
肌の色や背格好に違いがあるだけで、意思の疎通も取れる。
それどころか俺より全然人間出来ていそうな雰囲気がある。
「驚かれていますね。私たちに」
「す、すいません……」
「いえ、構いませんよ。それを承知でというか、むしろそのために建築の仕事をしているのですから」
ゴブリンというのはそもそも精霊だったらしい。
それもノームと同一視されるほどの力を持った大地の精霊だった。
そこから種として分かれていき、ドワーフやゴブリンが生まれた。
そのゴブリンも今となっては知性を失った危険なモンスターという認識が一般的だが、本来は違う。
今目の前にいるゴブレンのようにノーム顔負けの建築技術と知性を持った『ホブゴブリン』も存在する。
だが、ホブゴブリンという名称ももはや成長してより危険になったゴブリンの上位種という意味合いで使われている。
なので彼らは本当のゴブリンという意味を込めた『シン・ゴブリン』を名乗り、建築業でゴブリンという種族がすべて危険というイメージを払しょくしようとしているのだ。
「まあ、あまり成果は出ていませんがね。昔は我々の方が建築技術も魔術も優れていましたので、人間も仕方なく頼ってくれました。最近は人間もどんどん技術を発展させていますから、なかなかね。今回は我々にご依頼いただきありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ結構大掛かりな仕事を受けていただきありがとうございます。なかなかあれだけの道を整備してほしいって頼んでも、受けてくれるところは少ないですからね。助かります!」
「では、仕事内容と報酬を確認しましょう。契約書も作らなければいけませんね」
俺とゴブレンは母屋でそこらへんの話をした。
マリーも隣にいたのでまあ問題はない。
彼女曰くぼったくられているということはなく、かといって安い報酬でもない。
つまり、正当な対価を支払えているということだ。
「人間サイズの住居の建築と人間サイズのレストラン、そして牧場から近隣の村を経由しレギンズまでの道の整備がご依頼内容で間違いないですね?」
「はい!」
俺は間違いないと伝えた。
人間サイズの……という言い回しが気になったが、彼らは体の大きな種族の建物の建築も請け負うので基本的にサイズの確認は必要らしい。
確かにオーガとか体の大きな種族に人間サイズの家を作ったらクレームが来るだろう。確認は大事だ。
「では、我々はさっそく作業に入ります。近隣の山から資材を調達しても構わないとのことですので、山に向かいます。あとノームさん、鉱脈の場所を教えてください」
「仕方ないのぉ~」
大地の精霊であるノームは眠っている鉱脈を見つけるのが得意だ。
工事にはやる気を見せなかった彼もそれは手伝ってくれるらしい。
こうして、ノームとシン・ゴブリン建築部隊は山に入り、どんどん木や鉱石を持ってきては加工し、工事を進めていった。
正当な報酬をもらっているので手伝いは不要だとゴブレンは言っていたが、気持ちとして休憩中のゴブリンたちに食べ物や飲み物は提供した。
みんな大層その美味しさに驚き、またそれが食べられるのならばとレストランの建築にも気合が入っていた。
そして、工事開始から一か月が過ぎた頃、ついにすべての施設が完成を向かえた。
さあ、その出来栄えを一つ一つ確認していこう!
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ちょっ決定してるw
でも付き合いってさ裏切られたじゃん。
それなのに守る必要ある⁇
感想ありがとうございます!
グランは勝てばすべて良し!な人なんでしょうね(笑)
性格も熱く情にも厚い料理人です。
もしかしたら、孫に最高の食材を譲りたいという気持ちもあったのかも……?
狐の7人娘は7つ子?って事はお母さんがモンスターなのかな?
日本の伝説、陰陽師で有名な安倍晴明はお母さんが強力な妖狐だった。
だから彼女達のお母さんも人に化けれるぐらい強力な狐のモンスターだろうか?
牧場メンバーのワンコさんも小さくなったりできますしね
姉妹達が7人なのは「狐七化け狸八化け貂の九化け」より狐は7つ化ける、だから7つの個性を表現したって所ですかな?
次回も楽しみにしてます。
感想ありがとうございます!
七姉妹はなんのモンスターの血を継いだ獣人なのかまだわかっていませんが、とにかく牧場を賑やかにしたくて個性的なキャラにした感じですね。
見た目が似ている七つ子なのに性格も似ていたらダメだなぁと思ったところもあります!