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並列世界の矛盾ーパラドクスー
並列世界の記憶
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誰だって夢くらいは見る。
夢なんて何度でも見るし、同じような夢くらい誰だって見る。
私も過去にいろんな夢を見てきた。
自分が死ぬような夢だってなんども見たし、兄様と兄様としてじゃなくて1人の友人として出会う夢や少しファンタジーめいた夢とかも見た事がある。
明らかに夢だとわかる夢もあれば、現実と区別がつかない夢を見ることもある。
後者の方は五感がはっきりしている。
所謂、明晰夢と言われている物。
明晰夢は夢を操ることが出来るなんてことも言われている。
何度も同じ別世界の自分の人生を、夢の中で見る事もあった。
そのときは不思議とその世界の自分の記憶がガッツリとあったりするし、その上で元の自分の記憶もあるから「この場所は私の本来の世界ではこんな場所」みたいな事や、現実における激しいデジャヴに襲われる事もしばしばあった。
ただ、今になればはっきりわかる。
夢だと思っていたものは夢じゃなくて全て現実だったんだと。
私が兄様を失う世界も兄様が私を失う世界も全て、本当に存在していた世界だったんだと…。
夢だと信じていたものが全て、現実に起こっていた事であり私の魂に刻まれた記憶である事を突きつけられた時、なんとも言えない気持ちや感情が込み上げてきた。
そして初めて気付いた。
この世界で兄様と暮らし始めたのは本当に最近のことだけど、兄様を夢の中で知っていたからこそ私はすんなりと兄様を兄様と受け入れていたことや、家族としての愛情のようなものが芽生えていた事も。
「兄様もいろんな夢を…記憶を覚えているの?」
「そうだな…。確かに言われてみれば俺もいろんな明晰夢を見てきた。
そもそも前の世界では俺は梨花に会う事は叶わず、遺影と昔のアルバムでしか見たことが無かった。
家族にすらなれなかった妹だけど、物凄く悲しかったのはよく覚えてる。
それも、こうやって魂に刻まれた記憶のせいだったんだろうな…。」
「兄様も、私とあった事はないけど夢では会っていた…みたいな…?」
「うん、ただ顔はおぼろげだったりしたから生きている梨花の顔をはっきりと見れたのはこの世界が初めてだったよ。
俺の記憶にあるのは…冷たく棺桶に横たわる梨花だったからね。」
「そっか…。私、兄様の本当の世界だったらこうやって生きて触れる事も出来なかったんだ。
だから、初めて会った時に何故か泣いたんだ、私。」
「そうみたいだな…。
その記憶は俺自身というよりは、この世界の本来の俺の記憶として確かに残ってる。
今は混ざり合ってるけど、確かにある記憶だ。」
「あ、そうだ。それ、その感覚。
私はこの世界の記憶の方が濃いの。
あっちの世界の私の方が夢のような感覚で…。」
「それにおいては単純に死んでいた時間の方が長かったからだろう。
死んでこちら側に渡るまでの約15年。
父母共々守護霊のように彼につきまとって過ごしてきた君の記憶は、まるで彼を見守るような記憶の筈。
それこそ夢のような感覚の方が強かっただろう。
このような機会でもなければ言えないから、一言謝らせて欲しい。
私はこのようにすることが君達にとって幸せになると思ってこのような事をした。
迷惑をかけてしまった事をここに謝罪する。
申し訳なかった…。」
クソ天使が深々と私達2人に頭を下げた。
兄様はキョトンとしている。
「謝られても、あまり実感はないよ。私には。
でも、ありがとね。私たちをちゃんと家族として再びめぐり合わせてくれて。」
「そう言ってもらえて、私も少し救われた気分だよ。
さて、本題に入ろう。事態は先ほど話した通りだ。
これが本当にその…私のせいなのかどうかはよくわからないが、そうでなかったとしても人が1人消えている事は看過できない。
彼女の存在自体がまだこの世界において認知されてる間に発見して取り戻したいのだ。
力を貸して欲しい。」
「で?具体的にどうすれば良いの?」
「人の願いを叶えるのが神の力だ。
人の魂の時に強く願った気持ちは、死後に昇華し、大いなる神に見初められる事で力となる事がある。
今回の場合であれば、その大いなる神としての役割を猫神に担って頂き、君の生前の願いを力に変える。
恐らくは我々や礼一郎くんほどの強大な力は得られないだろうが、魂の感知には十分すぎるレベルだろう。」
「ふむ…、してワシは具体的に此奴に何をすれば良いのじゃ?見ての通り、この姿になると最近透けるのじゃ…。
恐らく、神力を注げるのも一回と言ったところじゃろう…。」
「額に手を触れて力をほんの少し流し込めば良い。そこまで大量に注がずともきっかけがあれば多少の力は目醒める。
そう、所謂霊能者レベルの力ならな。
それで十分だ。」
「はむ、にゃるほど。てやっ。」
ぶみゃあ(セクシー)に人差し指で額を小突かれる。
途端、過去に見た明晰夢の私の記憶がどっと私の頭の中に流れ込んで来た。
思い出したくないことも全て…。
夢なんて何度でも見るし、同じような夢くらい誰だって見る。
私も過去にいろんな夢を見てきた。
自分が死ぬような夢だってなんども見たし、兄様と兄様としてじゃなくて1人の友人として出会う夢や少しファンタジーめいた夢とかも見た事がある。
明らかに夢だとわかる夢もあれば、現実と区別がつかない夢を見ることもある。
後者の方は五感がはっきりしている。
所謂、明晰夢と言われている物。
明晰夢は夢を操ることが出来るなんてことも言われている。
何度も同じ別世界の自分の人生を、夢の中で見る事もあった。
そのときは不思議とその世界の自分の記憶がガッツリとあったりするし、その上で元の自分の記憶もあるから「この場所は私の本来の世界ではこんな場所」みたいな事や、現実における激しいデジャヴに襲われる事もしばしばあった。
ただ、今になればはっきりわかる。
夢だと思っていたものは夢じゃなくて全て現実だったんだと。
私が兄様を失う世界も兄様が私を失う世界も全て、本当に存在していた世界だったんだと…。
夢だと信じていたものが全て、現実に起こっていた事であり私の魂に刻まれた記憶である事を突きつけられた時、なんとも言えない気持ちや感情が込み上げてきた。
そして初めて気付いた。
この世界で兄様と暮らし始めたのは本当に最近のことだけど、兄様を夢の中で知っていたからこそ私はすんなりと兄様を兄様と受け入れていたことや、家族としての愛情のようなものが芽生えていた事も。
「兄様もいろんな夢を…記憶を覚えているの?」
「そうだな…。確かに言われてみれば俺もいろんな明晰夢を見てきた。
そもそも前の世界では俺は梨花に会う事は叶わず、遺影と昔のアルバムでしか見たことが無かった。
家族にすらなれなかった妹だけど、物凄く悲しかったのはよく覚えてる。
それも、こうやって魂に刻まれた記憶のせいだったんだろうな…。」
「兄様も、私とあった事はないけど夢では会っていた…みたいな…?」
「うん、ただ顔はおぼろげだったりしたから生きている梨花の顔をはっきりと見れたのはこの世界が初めてだったよ。
俺の記憶にあるのは…冷たく棺桶に横たわる梨花だったからね。」
「そっか…。私、兄様の本当の世界だったらこうやって生きて触れる事も出来なかったんだ。
だから、初めて会った時に何故か泣いたんだ、私。」
「そうみたいだな…。
その記憶は俺自身というよりは、この世界の本来の俺の記憶として確かに残ってる。
今は混ざり合ってるけど、確かにある記憶だ。」
「あ、そうだ。それ、その感覚。
私はこの世界の記憶の方が濃いの。
あっちの世界の私の方が夢のような感覚で…。」
「それにおいては単純に死んでいた時間の方が長かったからだろう。
死んでこちら側に渡るまでの約15年。
父母共々守護霊のように彼につきまとって過ごしてきた君の記憶は、まるで彼を見守るような記憶の筈。
それこそ夢のような感覚の方が強かっただろう。
このような機会でもなければ言えないから、一言謝らせて欲しい。
私はこのようにすることが君達にとって幸せになると思ってこのような事をした。
迷惑をかけてしまった事をここに謝罪する。
申し訳なかった…。」
クソ天使が深々と私達2人に頭を下げた。
兄様はキョトンとしている。
「謝られても、あまり実感はないよ。私には。
でも、ありがとね。私たちをちゃんと家族として再びめぐり合わせてくれて。」
「そう言ってもらえて、私も少し救われた気分だよ。
さて、本題に入ろう。事態は先ほど話した通りだ。
これが本当にその…私のせいなのかどうかはよくわからないが、そうでなかったとしても人が1人消えている事は看過できない。
彼女の存在自体がまだこの世界において認知されてる間に発見して取り戻したいのだ。
力を貸して欲しい。」
「で?具体的にどうすれば良いの?」
「人の願いを叶えるのが神の力だ。
人の魂の時に強く願った気持ちは、死後に昇華し、大いなる神に見初められる事で力となる事がある。
今回の場合であれば、その大いなる神としての役割を猫神に担って頂き、君の生前の願いを力に変える。
恐らくは我々や礼一郎くんほどの強大な力は得られないだろうが、魂の感知には十分すぎるレベルだろう。」
「ふむ…、してワシは具体的に此奴に何をすれば良いのじゃ?見ての通り、この姿になると最近透けるのじゃ…。
恐らく、神力を注げるのも一回と言ったところじゃろう…。」
「額に手を触れて力をほんの少し流し込めば良い。そこまで大量に注がずともきっかけがあれば多少の力は目醒める。
そう、所謂霊能者レベルの力ならな。
それで十分だ。」
「はむ、にゃるほど。てやっ。」
ぶみゃあ(セクシー)に人差し指で額を小突かれる。
途端、過去に見た明晰夢の私の記憶がどっと私の頭の中に流れ込んで来た。
思い出したくないことも全て…。
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