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第二部。

迎賓館。

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 王宮の建物、聖女宮や外苑に隣接するように建てられたその迎賓館は、白い煉瓦造りの五階建ての建物だった。
 王宮前の聖女宮広場からもよく見えるそれは周囲を樹々の生い茂る庭園で囲い、馬車回しや駐車場も広くとられ、大勢の客がスムーズに入場できる工夫もされていて。
 また、警護もしやすいようにと中と外の区切りをも広くとってある。
 こうした国が主催のパーティで使用する以外にも、聖緑祭の来賓がゆったりと泊まれるよう上階には広々とした豪華な客室が多々完備されていて。

 もちろん、上級貴族であれば社交を執り行う場としては主催者のお屋敷を使用するのが常であったのだけれど、そこまで広さや調度品を用意する余裕のない中級から下級の貴族にとっては、婚礼ひとつ行うにもこうした施設を借りる必要があった。
 もちろんそうした施設はこの迎賓館だけでなかったけれど、そんな中でもここは特別な、最上級な場所であったのだ。

 馬車回しにつけたスタンフォード侯爵家の馬車より降り立ったサイラスは、続くシルフィーナを優雅にエスコートしておろすと、真っ赤なベルベットの絨毯を会場までゆったりと歩いて。

「綺麗だよ、シルフィーナ。私の聖女」
 そう笑みをこぼしながら耳元で囁いて、軽く口づける。

 首筋を真っ赤に染めながらも、笑みを絶やさずに歩くシルフィーナ。

(もう、旦那様、お顔が近すぎます!! ああだめ、脚が上手く動かなくなって。でもでも、こんなところでもたもたしていたらスタンフォード侯爵夫人として情けなく思われてしまいそうで……。頑張れわたくしの脚。生まれたての子鹿のような醜態は見せられません、もう、旦那様ったらひどいです……)

 そんなふうに頭の中がパニックになっているのを、頑張って表に出さないようにゆったりと微笑むのでしたが。

「やはりそのドレスが君のその髪色に似合っているね。嬉しいよ」

 そんなふうに囁きながら隣を歩くサイラスに。
 身体を預けエスコートされるがままに、なんとか進むのが精一杯。

 ——頑張って、シルフィーナ様。タビィもついてますよ。

(ああ、ありがとうタビィ。あなたがついてきてくれて心強いわ)

 そんなふうに心の中でタビィと会話する。

 ここにくる直前、「もしよかったらわたしもついていきましょうか? シルフィーナ様」と言ってくれたタビィ。
 こうした公式な夜会に個々のメイドを伴うのは主催者に失礼に当たる。
 特にこうした大きな国が主催の夜会に侍女を同伴するのは憚れると、そう断ろうと思ったとき。
「わたしなら、シルフィーナ様のレイス収納に入っても大丈夫ですし」
 そんなセリフとともに、ぴょこんとシルフィーナの心のゲートに向かって飛び込んだタビィ。

 まさか、そんなふうに心の中に入ってこれるだなんて。
 そして、そのまま心の中で会話ができる、だなんて、思ってもいなくって。

 びっくりしたものの。
 それでも、こうしてタビィと心で繋がっているというのも心強く。
 心地よかった。
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