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第一章 The war ain't over!
10-1 思い込みは暴走の燃料Ⅱ
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五月六日、レインの携帯電話はいよいよ挙動不審になり、勝手に電源が落ちる様になっていた。しかし、電波状況は十分ではないにしろ、格安回線の番号による通話は可能で、電話連絡が必要な関係者は本来の番号での通話ができない事を把握していた。
この日、ランは前日に共演した配信者から急ぎの依頼を引き受け、楽曲制作を中断してイラストの作成に取り掛かっていた。レインは制作が休止になるなら気晴らしにクッキーでも焼こうと思い立ち台所に向かう。この家はあばら家ではあるが、台所は多少なり回収されており、それなりに高性能なオーブントースターも有るのだ。
材料は冷蔵庫に揃っている、だが、オーブンシートが無く、クッキー型も無い。この事に気づいたレインは一度自宅に戻るべく、ランに短いメールを送った。
――家にオーブンシートとクッキー型を取りに帰ります。必要なものが有ったら教えてください。
レインはランに伝言をメールし、車を出した。
レインが幾何か車を走らせ狭い生活道路に入ると、一台の軽自動車が対向していた。
「え」
レインは見覚えのある軽自動車を前に、電柱の前で車を片側に寄せる。一方、対抗する軽自動車はレインの車を認めるや否やスピードを上げ、レインが自宅の駐車場所に入るには少し邪魔な位置で停車した。
エンジンレバーをニュートラルに押し込み、レインはそのままサイドブレーキを引いた。軽自動車からは停車するや否や、レインの母親が飛び出してきたのだ。
「あ、え……」
レインが呆気に取られている間に母親は車のフロントガラスに迫り、その窓を乱暴にたたく。
「ちょ、ちょっと、やめろって!」
混乱したレインはまだエンジンを止めていないが、母親は構わず窓を叩き、遂に運転席の隣に迫った。
「やめて! やめてって! かーさんっ!」
エンジンは止まるが、母親の暴走は止まらない。
とにかく話を聞かなければならないとレインは窓を開けようと試みるが、開いたのは全く見当違いの窓だった。
「落ち着いて! ちょっと! 窓が割れる!」
レインは何とか運転席側の窓を開けようとするが、次に開いたのは助手席側の窓だった。そしてその窓が開くころには、母親の後を追って車を降りた父親が車へと迫っていた。
「あーあーあー」
母親が喚く内容は分らない。レインがそれを理解する前に父親は助手席の窓に手を入れようとしている。最早この状況を打開するには無駄に警笛を鳴らして警察を呼んでもらうしかないのだろうか、レインが絶望に沈んだところで、救いの手は現れた。騒ぎを聞きつけ、近隣の十人が一人外に出てきたのだ。
「助けて! その、助けて下さい!」
レインは車を動かす意思が無い事を示すように両手を上げて叫んだ。
この日、ランは前日に共演した配信者から急ぎの依頼を引き受け、楽曲制作を中断してイラストの作成に取り掛かっていた。レインは制作が休止になるなら気晴らしにクッキーでも焼こうと思い立ち台所に向かう。この家はあばら家ではあるが、台所は多少なり回収されており、それなりに高性能なオーブントースターも有るのだ。
材料は冷蔵庫に揃っている、だが、オーブンシートが無く、クッキー型も無い。この事に気づいたレインは一度自宅に戻るべく、ランに短いメールを送った。
――家にオーブンシートとクッキー型を取りに帰ります。必要なものが有ったら教えてください。
レインはランに伝言をメールし、車を出した。
レインが幾何か車を走らせ狭い生活道路に入ると、一台の軽自動車が対向していた。
「え」
レインは見覚えのある軽自動車を前に、電柱の前で車を片側に寄せる。一方、対抗する軽自動車はレインの車を認めるや否やスピードを上げ、レインが自宅の駐車場所に入るには少し邪魔な位置で停車した。
エンジンレバーをニュートラルに押し込み、レインはそのままサイドブレーキを引いた。軽自動車からは停車するや否や、レインの母親が飛び出してきたのだ。
「あ、え……」
レインが呆気に取られている間に母親は車のフロントガラスに迫り、その窓を乱暴にたたく。
「ちょ、ちょっと、やめろって!」
混乱したレインはまだエンジンを止めていないが、母親は構わず窓を叩き、遂に運転席の隣に迫った。
「やめて! やめてって! かーさんっ!」
エンジンは止まるが、母親の暴走は止まらない。
とにかく話を聞かなければならないとレインは窓を開けようと試みるが、開いたのは全く見当違いの窓だった。
「落ち着いて! ちょっと! 窓が割れる!」
レインは何とか運転席側の窓を開けようとするが、次に開いたのは助手席側の窓だった。そしてその窓が開くころには、母親の後を追って車を降りた父親が車へと迫っていた。
「あーあーあー」
母親が喚く内容は分らない。レインがそれを理解する前に父親は助手席の窓に手を入れようとしている。最早この状況を打開するには無駄に警笛を鳴らして警察を呼んでもらうしかないのだろうか、レインが絶望に沈んだところで、救いの手は現れた。騒ぎを聞きつけ、近隣の十人が一人外に出てきたのだ。
「助けて! その、助けて下さい!」
レインは車を動かす意思が無い事を示すように両手を上げて叫んだ。
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