25 / 60
第一章 The war ain't over!
9-3 思い込みは暴走の燃料
しおりを挟む
数日間あばら家で作業を続けたレインだったが、五月二日の午前、ブラストバスター社に連絡する事だけは忘れていなかった。
連休の谷間となったこの日、レインはイエロー・リリー・ブーケへの復帰が絶対にありえないと伝えた。仮に親子関係を破壊したゴシップに対する対応が不十分になったとしても、この期に及んでなお非難されたバンドへ再加入する事など、一度限りの競演でもあり得ないのだ。
事務的な連絡を片付け、レインは漸く日常へと帰還する。一方、レインの絶望を煮詰めた音源を聴いたランはこれからが仕事である。
レインは全ての楽器を一人で賄えるマルチプレイヤーであるが、ドラムの演奏に関しては打ち込み音源に頼っているが、ランはドラムの演奏にも慣れている。
現実の日常から隔絶された状況で作曲に没頭するレインとは対照的に、アレンジを行うランは日常の中でその作業を進めていく。時間がかかる為、都心への買い出しなどは出来なくなるが、レインに買い物を頼んで作業をしつつ、やや不規則になっても食事の支度などはこなしていく。
そうしたランの作業に続くレインの作業は、当初の作曲から比べるとまだ日常と現実の中で行われていた。
集中的な作業を終えた五月四日、子供向けのイベントがそれなりに活気づく中でレインとランは買い出しへと向かった。購入するのは食料品といくつかの消耗品で、店先の資源回収に不用品を放り込んで片付けつつ、戻る途中でレインの自宅に立ち寄り、ミカが作った梅干しを取り分けて戻る算段だった。
最寄りのスーパーマーケットは多少人出があるものの、子供向けのキャンペーンは翌日とあって想定よりは落ち着いた様子であった。買い出しを終えた道中、レインは梅干しの使い道を尋ねようとミカに電話を掛ける。しかし、通話の音が途切れ途切れになり、ミカはメールを送れと言い通話を切った。幸い回線の問題ではなく、文字情報の受信は正常だった。
「ヤバイ、大喧嘩した時に投げられた所為で壊れたかも。連休明けたら携帯変えなきゃ……ガラホ、在庫あるかなー……あー、電話もかけるなって言っておかなきゃ……」
レインは連絡が必要な関係各所に対し、機体の故障で携帯電話での通話が出来ない旨を伝えたが、両親には何も言わなかった、既に縁は切られたものとして。
五月五日、リアルツーディー所属の配信者が集まってのコラボ放送が行われる為、ランは通信環境の良いレインの自宅に向かった。通常の配信ではコメントの管理やフォローを行うモデレーターをレインが務めているが、この日の配信は事務所スタッフが担当するため、レインはあばら家で作業を続けていた。
週刊誌やキュレーションメディアの巡回は佐伯に任せ、余分な情報を入れずに作業を続けるレインはこの数日間に起こった出来事の大半を無視しており、近くで起こった事件さえ知らない。
彼が作業に没頭していた数日の間に、あばら家からそう遠くない山中で変わり果てた遺体が発見されていた。現場の状況から、遺体は自ら可燃性の物質を被って着火したとみられるが、身元の特定が出来ていない。骨格から判明している情報は、身長175センチから180センチ程度、20代から50代の成人男性である事だけ。
マスメディアは世界的混乱の経済的低迷がこうした悲劇を増長させていると騒ぎ立て、見るものの不安を煽っていた。
連休の谷間となったこの日、レインはイエロー・リリー・ブーケへの復帰が絶対にありえないと伝えた。仮に親子関係を破壊したゴシップに対する対応が不十分になったとしても、この期に及んでなお非難されたバンドへ再加入する事など、一度限りの競演でもあり得ないのだ。
事務的な連絡を片付け、レインは漸く日常へと帰還する。一方、レインの絶望を煮詰めた音源を聴いたランはこれからが仕事である。
レインは全ての楽器を一人で賄えるマルチプレイヤーであるが、ドラムの演奏に関しては打ち込み音源に頼っているが、ランはドラムの演奏にも慣れている。
現実の日常から隔絶された状況で作曲に没頭するレインとは対照的に、アレンジを行うランは日常の中でその作業を進めていく。時間がかかる為、都心への買い出しなどは出来なくなるが、レインに買い物を頼んで作業をしつつ、やや不規則になっても食事の支度などはこなしていく。
そうしたランの作業に続くレインの作業は、当初の作曲から比べるとまだ日常と現実の中で行われていた。
集中的な作業を終えた五月四日、子供向けのイベントがそれなりに活気づく中でレインとランは買い出しへと向かった。購入するのは食料品といくつかの消耗品で、店先の資源回収に不用品を放り込んで片付けつつ、戻る途中でレインの自宅に立ち寄り、ミカが作った梅干しを取り分けて戻る算段だった。
最寄りのスーパーマーケットは多少人出があるものの、子供向けのキャンペーンは翌日とあって想定よりは落ち着いた様子であった。買い出しを終えた道中、レインは梅干しの使い道を尋ねようとミカに電話を掛ける。しかし、通話の音が途切れ途切れになり、ミカはメールを送れと言い通話を切った。幸い回線の問題ではなく、文字情報の受信は正常だった。
「ヤバイ、大喧嘩した時に投げられた所為で壊れたかも。連休明けたら携帯変えなきゃ……ガラホ、在庫あるかなー……あー、電話もかけるなって言っておかなきゃ……」
レインは連絡が必要な関係各所に対し、機体の故障で携帯電話での通話が出来ない旨を伝えたが、両親には何も言わなかった、既に縁は切られたものとして。
五月五日、リアルツーディー所属の配信者が集まってのコラボ放送が行われる為、ランは通信環境の良いレインの自宅に向かった。通常の配信ではコメントの管理やフォローを行うモデレーターをレインが務めているが、この日の配信は事務所スタッフが担当するため、レインはあばら家で作業を続けていた。
週刊誌やキュレーションメディアの巡回は佐伯に任せ、余分な情報を入れずに作業を続けるレインはこの数日間に起こった出来事の大半を無視しており、近くで起こった事件さえ知らない。
彼が作業に没頭していた数日の間に、あばら家からそう遠くない山中で変わり果てた遺体が発見されていた。現場の状況から、遺体は自ら可燃性の物質を被って着火したとみられるが、身元の特定が出来ていない。骨格から判明している情報は、身長175センチから180センチ程度、20代から50代の成人男性である事だけ。
マスメディアは世界的混乱の経済的低迷がこうした悲劇を増長させていると騒ぎ立て、見るものの不安を煽っていた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~
志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。
政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。
社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。
ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。
一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。
リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。
ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。
そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。
王家までも巻き込んだその作戦とは……。
他サイトでも掲載中です。
コメントありがとうございます。
タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。
必ず完結させますので、よろしくお願いします。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる