夜想曲は奈落の底で

詩方夢那

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第一章 The war ain't over!

8-2  グラインド・ゴシップⅢ

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「そうか……じゃあ、精神崩壊云々は、言い過ぎって事でいいな」
「言い過ぎというか、憶測です。ていうか精神崩壊してたら一人で全部の楽器演奏してマスターテープまで作れませんし、スウェーデンまで行きません」
「それはそうだ」
「とはいえ……デプレッシブ・ブラックメタルはマジで頭おかしい作品が出てきたジャンルでもありますし、せいぜい記事のコメント欄か、SNSのシェアを使って精神崩壊してたら一人でアルバム作れんだろ、わら、みたいなコメントつけて拡散狙うくらいしかないと思いますよ」
「まあ、そうだな、この件は」
「この件?」
 訝しむレインの目前に、別の記事が差し出された。
 ――元有名バンドギタリスト、白昼の〇〇取引。

 それは下世話な芸能醜聞を面白おかしく書き立てているらしい連載の一部で、写真にはモザイクの中に浮かぶ一人の人影が有った。
「げ、これ、盗撮っすね」
 レインは不快感をあらわに、亀山を見る。
「そうか。それで、やられた覚えは?」
 レインはざっと記事の内容を見る。其処には違法薬物の取引を思わせる文言が並んでいた。
「え……あ、これ、パッケージストア。このポップの配色、見覚えが有ります。多分、年末に友達の会社で使うOPP袋が無くなって、慌てて調達に行った時ですね。そうそう、このアホみたいなワッペンは、木綿のパーカーの穴を塞ぐのに、ちょっと喧嘩した連れ合いにいたずらされて……」
 レインは画像を拡大し、亀山に写真の一部を指さして見せる。
「えっと、まずパッケージストアってのが」
「業務用資材の販売店で、都内に何軒か在ります。所謂業務用スーパーみたいな物で、ラッピングとか食品容器の専門店です。基本的に大容量の業務用パックしか売ってませんけど、単価の高い箱は入り数少ないですし、マステも沢山有って普通のお客さんも多いですよ」
「あぁ、で、友達の会社ってのが、金具屋さんだっけ?」
「ビーズやビジューも扱うので、小分けパックが無限に必要で……年末の売れ行きが良くて、年明けの在庫を作っていたら袋が切れたんです」
「で、この0.7とか、0.25とか何とかいうのは」
「袋の規格と、丸カンやTピンの規格の話してた時ですかね。いざ売り場に行ったところで、何が要るやらって事になって電話を……証拠が必要っていうなら、会社に聞いてもらえばいいですよ。商品用のOPP袋は経費になるので、領収書のデータが残ってるはずです」
「そうか……じゃあ、こっちは出鱈目名誉棄損で叩けるな……ところで、このワッペンの出所は分るか?」
「多分百円雑貨じゃないですかね。最近買った物じゃなくて、この数年で衝動買いした謎資材の一部かもしれませんが」
「店の見当はつくか?」
「おしゃれ雑貨の多い所じゃないですかね、今でも端切れの類はよく見てますし」
「後、パーカーは何処で?」
「あー……これ。レコードのおまけです」
「は?」
 亀山は思わずレインの顔を凝視する。

「サッド・レイン・サウンズから出しているバンド、サイコトロピック・ポイズンのグッズです。向精神作用のある毒みたいな名前してますけど、デプレッシブ・ブラックメタルのバンドで、メロディ重視のポストロック寄りなスタイルかつ、この手のバンドには珍しくロゴが読めるしお洒落なんですよ。ただ、おまけの所為か、早々に穴が」
「……分った。この記事に関しちゃ、ちょっとどうにかするよ」
「って、しゃちょー、もしかしてこの為にすっ飛んできたんですか?」
「そりゃそうだよ、幾らレインとしては死んでいて、君が正式なうちの所属タレントではないにせよ、君にあらぬ醜聞が立つのは困る」
「なんかすみません、迷惑かけちゃってる格好になって」
「気にするな……まあ、身辺には気を付けてくれよ」
「はい」
 亀山はそそくさと玄関扉を開け、家の出入り口を塞ぐ様な格好で雑に止めた車を出していった。
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