夜想曲は奈落の底で

詩方夢那

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第一章 The war ain't over!

8-3  グラインド・ゴシップⅢ

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 夕刻、人の口に戸板が立てられればいいのにと思いながら黄昏ていたレインに電話がかかる。
「はいもしもし、何かしでかしてた?」
「いや、お客さんが待ってる」
「は?」
 喫茶店の店主、白北から架かってきた内容にレインは首を傾げた。
「名前は鷲塚さん」
「はぁ?」
 レインは思わず声を張り上げた。それは芸能事務所、ブラストバスターの社長である。
「用件は?」
「とにかく会いたい、と」
 レインはあからさまに舌打ちする。
「身支度も何もしてない、少し待つ様に伝えてくれ」
「分った」
 電話を切り、レインは慌ただしく支度をする。

 次々に降りかかる厄介事に辟易しながら喫茶店に入ると、鷲塚は出入り口にほど近い席に座っていた。
「あぁ、よかったよ、来てくれて」
 レインは光の失せた眸で鷲塚を見た。
「お客さん、奥の席、空いてますよ」
 膠着を見越した白北は鷲塚に席の移動を勧める。
「あぁ、ありがとう。コーヒーをふたつ、頼むよ」
 鞄を手に奥へ向かう鷲塚に対し、レインは立ち尽くす。
梅枝うめがえ?」
 レインに近づき、白北は声を掛ける。
「……コーヒー、ミントソーダにしてくれるか」
「あぁ」
 レインは奥の席へと向かい、鷲塚と向かい合って座る。
「早速で申し訳ないんだが、この有様でな」
 鷲塚は鞄からタブレット端末を取り出し、とある週刊誌の電子版を見せた。
「芸能ゴシップのウェブメディアだけじゃなかったんですか、そうですか」
 鷲塚の見せた電子版紙面には、元有名バンドのギタリストが違法薬物に手を出しているとする記事と証拠写真とされる盗撮された写真が複数枚掲載されている。
「日中、お世話になってる社長が来ましてね、そこで見せて貰ったのは、つまらない芸能まとめサイトのページでしたが、まさか有料版の情報か大元だったなんてね」
「知っていたのか?」
 鷲塚はレインを見るが、その表情は読めない。
「教えて貰ったのは転載サイトの方でした。まさかこんな物が出てるなんて、有料版の週刊誌なんて読みませんから知らないですよ」
 タブレットをつき返しながら、レインは不機嫌に言い放つ。

「でっち上げだとは思うが、本当に潔白なんだな?」
「疑うならご自由に。お世話になってる社長には全部話しましたし、同じ事しか言う事は有りません。写真の現場は業務用のパッケージ資材を扱う専門店、モザイクは掛かってますが、その配色のポップは年末年始、正月用品の販促ポップだと思います。クリスマスの後、この店の二階に在る商材の小分けに使うOPP袋が無くなって、急ぎで調達に行った事が有りました。領収書が必要ならマスターに聞いて下さい」
「そう、か……じゃあ、此処に書かれている数字の意味はどういう事なんだ?」
「丸カンやTピン、いわゆるピアノ線の様な細い金属のパーツの直径や、袋の規格ですね。その日は連れ合いも手伝いを頼まれて、二階で在庫管理やらなにやらの雑務をしていたので、彼女に袋のサイズを聞きながら探しまして」
「じゃあ、このパーカーは」
 鷲塚は別の盗撮写真を示す。其処にはサッド・レイン・サウンズから作品を出しているバンドのロゴが有った。
「北欧のデプレッシブ・ブラックメタルバンドのレコードに付いていたノベルティ、まあ、おまけです。レコードはフィンランドのサッド・レイン・サウンズが出した物で、俺もそこからアルバムを出してもらっています」
「海外の珍しいバンドのグッズ、か」
「ええ」
「それにしては、場違いなワッペンが付いているが」
「連れ合いと喧嘩をして、仕返しにいたずらをされました。ブードゥー人形の方が似合うんですけど、流石にそんな物は無かったようで……クリスマスのジンジャーマンを」
 二人の間に、熱いコーヒーと冷えたソーダが割って入る。
「むしろこれを付けられて怒らないのか」
「穴が開いていたので、直したと言われたら、ね」
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