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第一章 The war ain't over!
8-1 グラインド・ゴシップⅢ
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ミカを実家に帰したその日、レイン宛に一通の電子メールが届いていた。送り主はドイツ在住のスヴェン、レインが日本から送ったデモテープに興味を持った最初の人物である。
――ランが教えてくれました。でたらめなゴシップ記事に対して、取り下げるように、社長と私で要求しました。社長は、英語とフィンランド語でメールを送りました。私は日本語と、英語と、ドイツ語で同じ文章を送りました。記事を削除したと返事がありました。
レインは慌てて件の記事を探すが、内容は見つからない。謝罪文の掲載は無いが、確かに記事は削除されていた。
ランが何をしたのか確かめるべく、レインは彼に電話をかける。
「なんだ?」
「なんだって、あの出鱈目記事、スヴェンに教えたのか?」
「あー、なんつぅか、頭に血が上っちゃって。トールがやったように、俺も一般メタラーの振りして文句言ったんだけど、勢いスヴェンに記事を教えちゃった。まぁ、スヴェンは完全に当事者だし、あの店はフィンランドに移転しただけで潰れたわけじゃないんだから、そりゃ社長も怒っていいわけじゃん? どうせ外国からの訴訟沙汰は訳が分からないから削除しよう、ってところだろうけど、フィンランド語とドイツ語の警告は怖かっただろうな。読めないもん、特にフィンランド語とか」
何ら悪びれる様子の無いランにレインは溜息を漏らす。
「はぁ……まぁ、何でもいい、とりあえず消してもらわないと、スヴェンは何も関係が無いんだし」
「とはいえ、アナフィラキシーの自己注射が妙な噂にすり替わってるのもあるし、当分収まりそうにないのがよろしくないね」
「仕方ないといえばそうだし、俺があのバンドに入ったのが悪いんだ……何はともあれ、迷惑かけて悪かった」
「気にするなって」
あらぬ噂が消えたわけではなく、スウェーデンでのイベントからレインがデプレッシブ・ブラックメタルのアルバムを作った事がいずれ広まってしまう虞はあったが、空白期間が服役期間だという事実無根の噂が否定されるなら仕方がないだろうと彼は思い直す。
ミカはパパラッチの近付かない実家へと戻し、無関係なスヴェンを巻き込んだ出鱈目な記事が削除された事で幾分か肩の荷が下りた気分になっていたところ、レインを訪ねる呼び鈴が鳴る。
恐る恐るドアモニターを見ると、其処に立っていたのは亀山だった。
「しゃ、しゃちょ?」
レインは慌てて玄関を開けた。
「ちょっといいか」
亀山は半ば強引に玄関先へと入り込んだ。
「な、なんですか」
「ブラストバスターの方から連絡を貰って……これだ」
亀山はレインにスマートフォンの画面を見せる。
「……うへぇ」
そこに映し出されていたのは、元イエロー・リリー・ブーケのレインが精神崩壊した証拠を入手したという見出し。記事は推測を重ねただけの薄い物だったが、其処でレインがサッド・レイン・サウンズから出したアルバムが紹介されていた。
「名前からして憂鬱で非常に独特な病み感を持つ音楽ジャンルに参入し、かなり頭のおかしい物を作っていると……この辺のジャンルに詳しい人間が書いたのかは分からないんだが」
「いや、一応、勉強したんじゃないんですかね。説明で代表バンドにサイレンサー出してくるあたり、ちょっと悪意感じますし」
「サイレンサー?」
「マジの精神病患者が歌っていると評判のデプレッシブ・ブラックの名盤を残したバンドです。常軌を逸した絶叫の隙間に笑ったり咽たり、まぁ普通じゃありませんけど、それがジャンルの標準ではありません。デプレッシブ・ブラックを表現するなら……メイク・ア・チェンジ・キル・ユア・セルフとか、ハッピー・デイズとか、コールドワールドとか、名前からして鬱、見た感じしっかりブラックメタルみたいな分かりやすいバンドを選ぶべきですよ」
「あー……何が何やらよく分からないけど、とりあえず全部憂鬱そうな気はする……って、ひとまず、専門家としちゃ悪意のある例えなんだな、そのサイレンサーとやらは」
「えぇ、流石にサイレンサーはぶっ飛び過ぎです。俺の作ったアルバムは典型的ブラックメタルをベースに憂鬱撒き散らかしてるだけなんで」
――ランが教えてくれました。でたらめなゴシップ記事に対して、取り下げるように、社長と私で要求しました。社長は、英語とフィンランド語でメールを送りました。私は日本語と、英語と、ドイツ語で同じ文章を送りました。記事を削除したと返事がありました。
レインは慌てて件の記事を探すが、内容は見つからない。謝罪文の掲載は無いが、確かに記事は削除されていた。
ランが何をしたのか確かめるべく、レインは彼に電話をかける。
「なんだ?」
「なんだって、あの出鱈目記事、スヴェンに教えたのか?」
「あー、なんつぅか、頭に血が上っちゃって。トールがやったように、俺も一般メタラーの振りして文句言ったんだけど、勢いスヴェンに記事を教えちゃった。まぁ、スヴェンは完全に当事者だし、あの店はフィンランドに移転しただけで潰れたわけじゃないんだから、そりゃ社長も怒っていいわけじゃん? どうせ外国からの訴訟沙汰は訳が分からないから削除しよう、ってところだろうけど、フィンランド語とドイツ語の警告は怖かっただろうな。読めないもん、特にフィンランド語とか」
何ら悪びれる様子の無いランにレインは溜息を漏らす。
「はぁ……まぁ、何でもいい、とりあえず消してもらわないと、スヴェンは何も関係が無いんだし」
「とはいえ、アナフィラキシーの自己注射が妙な噂にすり替わってるのもあるし、当分収まりそうにないのがよろしくないね」
「仕方ないといえばそうだし、俺があのバンドに入ったのが悪いんだ……何はともあれ、迷惑かけて悪かった」
「気にするなって」
あらぬ噂が消えたわけではなく、スウェーデンでのイベントからレインがデプレッシブ・ブラックメタルのアルバムを作った事がいずれ広まってしまう虞はあったが、空白期間が服役期間だという事実無根の噂が否定されるなら仕方がないだろうと彼は思い直す。
ミカはパパラッチの近付かない実家へと戻し、無関係なスヴェンを巻き込んだ出鱈目な記事が削除された事で幾分か肩の荷が下りた気分になっていたところ、レインを訪ねる呼び鈴が鳴る。
恐る恐るドアモニターを見ると、其処に立っていたのは亀山だった。
「しゃ、しゃちょ?」
レインは慌てて玄関を開けた。
「ちょっといいか」
亀山は半ば強引に玄関先へと入り込んだ。
「な、なんですか」
「ブラストバスターの方から連絡を貰って……これだ」
亀山はレインにスマートフォンの画面を見せる。
「……うへぇ」
そこに映し出されていたのは、元イエロー・リリー・ブーケのレインが精神崩壊した証拠を入手したという見出し。記事は推測を重ねただけの薄い物だったが、其処でレインがサッド・レイン・サウンズから出したアルバムが紹介されていた。
「名前からして憂鬱で非常に独特な病み感を持つ音楽ジャンルに参入し、かなり頭のおかしい物を作っていると……この辺のジャンルに詳しい人間が書いたのかは分からないんだが」
「いや、一応、勉強したんじゃないんですかね。説明で代表バンドにサイレンサー出してくるあたり、ちょっと悪意感じますし」
「サイレンサー?」
「マジの精神病患者が歌っていると評判のデプレッシブ・ブラックの名盤を残したバンドです。常軌を逸した絶叫の隙間に笑ったり咽たり、まぁ普通じゃありませんけど、それがジャンルの標準ではありません。デプレッシブ・ブラックを表現するなら……メイク・ア・チェンジ・キル・ユア・セルフとか、ハッピー・デイズとか、コールドワールドとか、名前からして鬱、見た感じしっかりブラックメタルみたいな分かりやすいバンドを選ぶべきですよ」
「あー……何が何やらよく分からないけど、とりあえず全部憂鬱そうな気はする……って、ひとまず、専門家としちゃ悪意のある例えなんだな、そのサイレンサーとやらは」
「えぇ、流石にサイレンサーはぶっ飛び過ぎです。俺の作ったアルバムは典型的ブラックメタルをベースに憂鬱撒き散らかしてるだけなんで」
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