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第74話 不穏な影(上)

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【サイド:ハイヤール】

 俺はドラゴンのハイヤール。
 フランリーゼ様にお仕えする、雄のドラゴンだ。
 誇り高きドラゴン族として、セカイ様のもと、ユグドラシル王国の平和を守っている。
 偉大なるセカイ様にお仕えすることは、俺としても非常にやりがいのある仕事だった。
 俺は仲間のドラゴンの中でも、特に飛行が得意だ。そして目もいい。
 それゆえに、俺の主な仕事は上空からの見張りだった。
 
 俺はユグドラシル王国の上空を飛び回り、セカイ様からでは見えない場所を見張っている。
 もしなにかあれば、すぐに仲間たちに知らせて対処する。それが俺の役目だ。
 レルギアーノ大森林からしばらく北西に行った位置に、遺跡が存在する。
 俺はふと、その遺跡を目に止めた。
 遺跡の中へ、なにやらぞろぞろ入っていく人影をみたのだ。

 遺跡の周辺には、馬車などが止まっていて、人の気配がする。
 もしかして、遺跡の発掘調査など、学者でもやってきているのか……?そう思ったが……。どうやらそういう雰囲気でもなさそうだ。
 遺跡に出入りしているのは、どれも黒ずくめのマントを羽織った不気味な連中で、顔もよく見えなければ、いかにもな怪しい雰囲気をしている。
 俺はさらに彼らに近づいてみることにした。これは、なんだかよくない予感がする。
 近づいてよく見てみると、なんと彼らの馬車やマントには、ある紋章が描かれていることがわかった。
 そして俺は、その紋章に見覚えがあった。

「あれは……エルドウィッチ教……!」

 俺がこの見張りの仕事に就く前に、ユグドラシル王国のみなさんから教えてもらっていたのだ。
 その昔、セカイ様を自分たちのものにして、その力を持ち去ろうと考えた邪教がいたという――彼らの名前はエルドウィッチ教。
 俺がユグドラシル王国のみなさんから教わった紋章とまったく同じものが、彼らの荷物や衣服に書かれていた。
 見た目にもまがまがしいその紋章は、いたるところに施されており、彼らが異質な集団であることを際立たせている。
 それにしても、エルドウィッチ教……ほんとうに存在していたなんてな……。

 ユグドラシル王国のみなさんの話によると、最後にエルドウィッチ教がやってきたのは、数十年前のことになるらしい。
 そのときに退けて以降、エルドウィッチ教がユグドラシル王国を訪れた形跡はない。
 なので、ユグドラシル王国としても、もはやエルドウィッチ教はそれほどの脅威ではないと認識していた。
 もう世界樹のパワーを手にすることをあきらめたか、もしくはエルドウィッチ教自体が時の流れの中で解散したのだろうと思われていた。
 だが、なぜいまこんなところに奴らがいるのだろう。

 これは、きっとよからぬことを考えているのに違いない。
 俺はさっそく、エルドウィッチ教の連中に近づいた。
 相手はただの宗教団体で、人間だ。
 みたところ特に兵器を持っているわけでもなさそうだ。
 一方で俺様は一流のドラゴンだ。
 ドラゴンがいくら束になったところで人間ごときに負けるわけがない。
 俺は俺一人でやつらをとらえようと思った。
 そうすれば、フランリーゼ様やセカイ様からの評価も得られるだろう。
 俺はもっとデカい男になりたい。
 いずれはフランリーゼ様の側近……そしてフランリーゼ様のお心を射止めるのだ……。

 俺は遺跡に近づいた。
 すると、急に遺跡が光を帯びて、輝きを放つ。
 灰色の遺跡には緑色の光線が走り、稲妻のように、紋章を浮かび上がらせる。
 遺跡に描かれた紋章は、エルドウィッチ教のそれとよく似ていた。

「こ、これは……!?」

 俺はその現象から、膨大な量の魔力を感じ取った。
 これは……いけない……!
 遺跡の中で行われているのは、なんらかの大魔術だ。
 しかも、これはただの大魔術ではない。おそらくは禁術の類。
 ただならぬ魔力量が漏れ出している。
 エルドウィッチ教は遺跡の中でなんらかの儀式を行っているようだ。

「連中……魔王でも復活させるつもりか……!?」

 それほどまでに、尋常ではない量の魔力が遺跡からあふれ出している。
 そして、遺跡を取り囲むようにして浮かび上がる巨大な魔法陣――俺はその魔法陣の形状から、それが召喚魔法、あるいは復活魔法の類だと判断した。俺たちドラゴンは魔法にもある程度精通している――もちろんエルフほどの深い知識はないが、純粋な魔力量だけでいえば生物種の中でトップクラスだ。

「まずい……! このままだと、なにかとんでもないことに……!」
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