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第73話 ドライアド誕生(下)

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「うわーん、ココロたんがぶったー!」
「だってセツナが……!」

 ドライアドの双子は、元気なのはいいが、しょっちゅう喧嘩をする。
 俺はそれをなだめるのに、たじたじだ。
 拝啓、お母さん。ママってこんなに大変だったんですか……?

「こら、二人とも。手をだしたらだめだろ」
「はぁい、ママ」

 だけど、俺の言うことは素直にきいてくれる、いい子だ。
 それにしても、俺に子育てなんてできるのか……?
 少々不安だ……。
 まあ、エルフたちも面倒をみてくれてるし、なんとかなるだろう。

 それと、双子には不思議な力があった。

「えい!」

 双子はどこからともなく、飲み物を取り出した。
 そして自分でおいしそうにそれを飲む。

「おい、ちょっとまて……それどこから取り出したんだ?」
「どこって、信仰ポイントをつかっただけだよ?」
「え?」

 もしかしてとは思ったが、やはりそうだ。
 どうやら双子は、俺と同じように、世界樹の力を継承しているようだ。
 双子は、俺と同じく、信仰ポイントを使用することで、信仰メニューにアクセスし、いろんなものを創造したりできるようなのだ。

「どうやらお二人にも、セカイ様と同じ能力があるようですね……。さすがは世界樹のお子様です」

 エルフがほめたたえる。

「そうなのか……じゃあ、俺の代わりにいろいろやってもらうことも、将来はできそうだな……」
「そうですね。そういえば、先代の世界樹様も、ドライアドに一部統治を任せていらっしゃいました」
「そうなのか」
「世界樹の里も、あまりにも大きくなると、さすがにお一人では管理できませんからね」
「たしかに、それもそうだ。分割統治もそのうち考えないとだな」

 たとえばだが、こことは別に、もう一つの拠点を構えたりできるかもしれない。
 ドライアドたちの能力を使えば、俺たちの勢力圏をさらに広げることが可能だろう。
 もう一つのユグドラシル王国をつくって、そこと貿易などもできそうだ。
 そう考えると、いろいろと夢は広がる。

 そういったことも考えると、この二人には、きちんとした教育が必要だな。
 やはり親として、もしも俺がいなくなったあとも、ちゃんと暮らせるように、それなりの知識と教養は身につけさせたい。
 俺はエルフたちに、双子の教育係を任せることにした。
 俺はエルとエラに頼み込む。
 もちろん、俺が教えられることは俺が教えるつもりだが、やはり俺は男だし、男一人で教えられることにも限界がある。双子は俺のことをママと呼ぶが、俺の役割はやはり父親としてのものだろう。エルフたちには母親代わりになってもらえればと思う。

「というわけで、双子のことをよろしくな」
「わ、わたしたちでよければ、いくらでも力になります!光栄です!」

 ドライアドは成長したら、どんなふうになるんだろうか。
 やはり世界樹の子供だから、ドライアドが成長すれば、世界樹になるんだろうか。
 そうなったら、いずれ俺よりこいつらのほうが大きくなるんだろうか。
 そうなったら、こいつらのどっちかが、次の世界樹になるんだろうか。
 そうなったとき、俺は世界から用済みとみなされ、枯れてしまうんだろうか。
 未来のことはわからない。この世界の仕組み、世界樹についてもよくわからない。
 
 だけど、俺はいままで、自分のことだけを考えていた。もちろん、ユグドラシル王国のみんなのことも考えてはいたけど。だけど子供ができると、やっぱりどうしても未来のことを考える。
 できれば、このままこの国がずっと平和であればと思う。
 もし俺がこの世界からいなくなったら、どうなるんだろうか。
 世界樹にも、寿命というものがあるのだろうか。
 世界樹ってそもそも、死んだりすることがあるのだろうか。
 俺がなにものかに、殺されたりすることって、あるんだろうか。

 まあでも、先代の世界樹が死んで、今は俺がこの世界の世界樹なわけで……そうなると、やはり俺もいずれは死んで、次世代の世界樹に代わる日がくるのだろうか。
 そうなったとき、この双子が幸せに暮らせるといいんだけど……。
 俺はいったいいつまで生きられるのだろう。
 ふと、そんなことを考えた。

 人間の身体に戻った俺は、剣の修行を再開した。
 アラクネーのアリアのもとで、俺は修行をする。
 ついでに、双子にも剣を教えてもらうことになった。
 双子はまだ小さいが、剣のすじは悪くないそうだ。
 アリアはその多数の手足で、俺たち三人を同時に相手する。
 三人同時相手でもまだ余裕があるくらい、アリアと俺たちの実力には差があった。
 少しでもはやく追いつきたいものだ。
 俺も、まさか子供たちに負けるわけにはいかないから、さらに精が出る。

 それから、魔法の勉強も再開した。
 魔法はエルフたちから教わるわけだが、これもドライアドたちも一緒に教わることになった。
 魔法を覚えるなら、幼いうちのほうが吸収もはやい。

 俺は子供たちと学びながら、彼女たちの成長を祈った。
 子供たちと一緒に学び、遊んで、寝る。
 そんな幸せな日々が続いた――。

 だが、そんな幸せはいつまでも続かなかった。
 まさか、俺たちの平和な日常の裏で、あんなことになっていたなんて――。
 
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