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第15話 人狼がきたよ

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 オークのオルグにも、木の実をいくつか食わせてやった。
 すると、かなりまともに話せるだけの知能を得たようだった。
 グレートオークに進化したのだ。
 それから、見ためもガラの悪い感じのオークから、多少すっきりした感じになった。
 今ではムキムキの好青年って感じだ。

 オルグが村にやってきて、数日。
 今度は俺たちの村に、人狼、ワーウルフの集団がやってきた。
 やつらは以前から俺に死肉などの養分を恵んでくれていた連中だ。
 最近しばらくみなかったから、久しぶりだ。

 ワーウルフの集団は、ゴブリンの村を見て、目を丸くして驚いていた。
 まあ、そりゃあそうか。
 久しぶりにやってきてみたと思ったら、いきなり村が出来てるんだもんな……。
 それに、そこには大量のゴブリンが住み着いているときた。

 ワーウルフのリーダーは、ゴブリンたちをみるやいなや、威嚇しはじめた。

「ガルルルルル……! なんだお前たちは……! 世界樹さまの周りにこんな村をつくりやがって……!!!!」

 やばい……狼ってかなりけんかっ早いんだった。
 ワーウルフが喧嘩をうったのは、ゴンザレスだった。
 ゴンザレスも喧嘩っぱやいやつなんだよな……。
 いきなりやってきた人狼に喧嘩を売られたゴンザレスは、人狼をにらみ返す。

「あん? なんだてめえは? ここは俺たちの村だ。狼野郎はよそへいきな……!」

 これは今にも喧嘩が始まりそうな感じだ……。
 やばい……なんとか止めなきゃ……。

 俺は必死に自分の身体を揺らす。

「ほら、世界樹さまもお怒りだ」

 あ、だめだ……全然つたわってない!

 騒ぎをききつけて、周りのゴブリンたちも集まってきた。
 気がつけば、ゴブリンたちとワーウルフで睨み合って、今にも一触即発という感じだ。
 これはたいへんなことになったぞ……。

 そのときだった。
 俺の近くに、世界樹の巫女であるミヤコがやってきた。
 お、ちょうどいい。

「おいミヤコ、こいつらを止めてくれ……!」
「うん、わかった……!」

 すると、ミヤコはすぐにリンダのもとまでいって、俺の伝言を伝えてくれた。

「なに……!? それは本当か……! おい、ゴンザレス。やめるんだ。ワーウルフと喧嘩しちゃいけない。世界樹さまがそういっている」
「なに……!? そうなのか……! それはいけないな……」

 よかった……。
 リンダの言葉で、ゴンザレスは落ち着いて矛を収めた。
 しかし、ワーウルフたちは別だった。

「あん? なんだ? 世界樹様がなんだって……? お前たち、ビビって適当なこと言ってるんじゃないだろうな……? 世界樹様にすくう寄生虫め……!」
「ちょっと待て……! 世界樹様は本当に喧嘩をするなといってらっしゃるんだ……! このミヤコは世界樹様の声がきこえる世界樹の巫女なんだ……!」

 リンダが弁解するが、一度火がついたワーウルフたちはいうことをきかない。
 おちょくられたと思って、今にもワーウルフたちは攻撃をしかけそうな感じだ。

「あん? 適当なこといいやがって! なにが世界樹の巫女だ……!」

 そのときだった。
 ワーウルフの中で、一番背の低い子供が、ワーウルフのリーダーに声をかけた。

「本当だよ」
「あん?」
「あの子の言ってることは本当だよ。世界樹様が喧嘩はダメだって。いってた」
「なに……? お前も世界樹様の言ってることがわかるのか……?」
「うん……」
「ほんとうか……!?」

 どうやら、ワーウルフの側にも俺の言葉がきこえる子がいるようだ。
 もしかして、子供のほうがきこえる子が多いのかな?
 ワーウルフのリーダーは、ゴブリンの言うことは聞く耳をもたなかったが、ワーウルフの子供のいうことには耳を傾けたようだ。
 よかった。

「だから、喧嘩はだめだよ」
「う…………わ、わかった。それで、世界樹様は他になんていってるんだ?」

 俺は、ミヤコと、ワーウルフの子供に同時に伝える。

「世界樹は誰のものでもないから、取り合わずに、協力して共存、仲良くしてね。だって……」

 ミヤコとワーウルフの子供が同時にそれぞれのリーダーに伝える。

「おお、言ってることが一緒だ。どうやら、世界樹様の声がきこえるというのは本当らしい」

 ようやく、ワーウルフのリーダーも、ミヤコのことを信用したようだった。
 よし、これにて一件落着だな。
 ワーウルフのリーダーは、落ち着きを取り戻したようで、リンダに頭を下げた。

「これは……勘違いをしてしまった。すまなかった……。俺はてっきり、あんたらが世界樹様を利用しようとする悪いやつらかと……」
「いや、いいんだ。こちらこそ、敵対的な態度をとってしまってすまない。こんなところではなんだ。うちへきて、もてなそう」
「ああ、ありがとう」

 ワーウルフとゴブリンは仲直りをして、これからリンダの家で会合を開くようだった。
 それからしばらくして、リンダの家からワーウルフのリーダーが出てきて、言った。

「よし、俺は決めたぞ! 俺たちワーウルフ族も、この村に住む! そしてゴブリンたちと協力して、世界樹様をまもっていこう!」

 リーダーがそういうと、ワーウルフたちはいっせいに雄たけびをあげた。

「おおおおおおおおおおおお!!!!」

 それから、ゴブリンたちによるワーウルフの歓迎会がひらかれた。
 いつものように、火を囲んで踊りを踊り、酒を飲む。
 最初はあれだけ敵視していたのに、すっかり一夜で彼らは仲間となっていた。

 てなわけで、俺たちの村にワーウルフたちが加わった。
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