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俺、旅立つ

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眠れない…。ベッドでシーツにくるまり目を瞑る。…ダメだ…全然寝れない…。


昼間の出来事を思い出すと余計に目が冴えてしまう。俺はクルトさんとジンさんと…あぁぁぁ────!!あれは事故!!そう触手のせいだ!!あの森には絶対に近付かん!!俺はクルトさんの胸に頭を預けたまま、疲労感と謎の達成感に襲われそのまま泥のように眠ってしまった。次に目が覚めた時はいつものベッドの上で眠っていた。


窓の外は暗いが月明かりがあるので真っ暗ではない…。どうしたもんかな…。昼間に寝すぎて夜寝れなくなるなんて子供みたいだ…。はぁ…昼間はフラグ回避の為に気を張っているせいか、夜には眠くなりベッドに横になれば直ぐに寝てしまう。召喚されてから、こんな夜遅くまで起きている事なんて初めてかもしれないなー。こんな夜遅くまで…。そっか…そうだよ!!何で今まで気づかなったんだろう!!


テラスに近付き扉を開ける。手すりに足をかける前に下を覗き込む。前みたいにイシスさんに捕まったら困るからね!!よし!!人はいないな。誰も居ないことを確認し、そっと地面に着地した。もう一度辺りを見渡す。ふぅー。一呼吸置いて心を落ち着かせる。このお城から逃げるなら今しかない!!これでフラグに怯える日々からもおさらばだ!!


騎士団の詰所とは反対方向へと歩みを進め、城外に出るための場所を探す。 しかし広い…今更だけど広大すぎる敷地だわ…。暫く歩くとご立派で頑丈そうな城壁に出た。おぉー!!ここを飛び越えれば外に出られるじゃないか!!


よっと!!さすがハイエルフ!!地面を片足で強く蹴り、ジャンプしただけで、見上げるほど高くそびえる塀の上に辿り着く事が出来た。ここで見付かったらお終いだ。身を屈め、四つん這いになり、塀の上を慎重に息を潜め進む。


「おいッ!何してるッ!!」


ひぃ────!!もうバレたッ?! いきなりの声に心臓がすくみ上がる。恐る恐る塀の下を覗くと荷馬車に積荷を運ぶ数人の姿が見えた。こちらに声をかけた訳ではないみたいだな…。ふぅー。驚かすなよ!!しかし…こんな夜更けに何処に…。もしかして…街に行くのだろうか?!おぉ!!なんて素晴らしタイミング!!是非ともご一緒させていただきます!!旅は道連れ世は情けってね!!



「急げ!!終わったか?!」


「早くしろ!!」


怒号が飛び交う間にこっそりと荷台に乗り込み身を潜める。ここに隠れていれば見つかる事はないだろう!!早く出発しないかなー!!俺の今の気分は、はじめてのお使いを頼まれ、大冒険に旅立つ子供の様に気持ちが昂っている。うぅー緊張するー!!


「早く行ってください。見つかっては事ですから」


先程までの者達とは違う綺麗な言葉遣い。へっ?この声…聞き覚えがあるぞ…まさか?!物陰からこっそりと外の様子を伺う。ふぇぇぇ────!!シヴァさん?!何故ここに────?!どどどど、どないしょー!!もし見つかったら…何故ここに居るのかと聞かれたら…終わりだ…あぁ…処刑台が見える…破滅フラグがすくそばに…。


くっそー!!どうして俺が逃げようとすると次から次へと攻略対象者が邪魔をしてくるんだ…おかしいじゃないか…こんな引きの強さは要らないんだよ!!最早ここまでくれば呪いの一種だ…。呪い?なるほど。呪いだわ。俺、知らない間に誰かに呪いをかけられてるんだわ。納得した。俺みたいな童貞の身にエロイベがあんなにも発生するはずがない!!



自分の胸に手を当てながら、キュアと心の中で唱えた。万能魔法キュアさまさまです。そうだ!!俺の周りの大気も呪いに汚染されてるかもしれない!!自分の身の回りの人にも影響があるらしいからね!!少しでも不安要素は取り除いておかないと!!そう思い、手当り次第に手をかざしキュアと唱えまくる。ふぅー。これで安心だな。


「うぐッ…」


苦しそうな呻き声と共にバタリと何かが倒れる音がした。なんだ?!どうした?!何が起こった?!身を固くし縮こまる。その間にも次から次へと呻き声が聞こえ、同じように地面にぶつかる音がした。暫くし、呻き声が途絶えると、辺りは物音一つ無く静まり返っていた。先程までの喧騒が嘘のようだ。


ゆっくりと木箱の後ろから顔を出し辺りを見渡す。俺の目にシヴァさんが地面に体を横たえている姿が入ってきた。近くで話していた男も倒れている…。ヤバイ!!何かイベントが発生しそうな予感…。しかし一瞬の間に一体何が起こったのか…。フラグが立つのは嫌だが、シヴァさんの事も心配だ。もう少し近くで様子を見ようと隠れている木箱を少し押す。まだよく見えない…もう少し、もう少し!!


ドスンッ!!げぇぇぇ!!やっ…やってしまった…よりによって木箱を荷台から地面に落としてしまった。急いで木箱を戻そうと自分も荷台から飛び降りる。あれ?やっぱりおかしい…あれだけ大きな音がしたのに誰も気付かないとは…本当にシヴァさんと同じように皆倒れているんじゃ…。


まぁーいっか。気付かれなくて運が良かったって事で。落とした物は元に戻しておかないとね。木箱を持ち上げようとした時、ガタガタッ、っと木箱の中から音が聞こえ出した。なになに?!こっ、この中に何か居るのか?!怖ッ!!無理!!悪いけど俺には開ける勇気なんかないよ!!シヴァさんを助けてイベントが発生する可能性にさえ怯えてるのに!!これ以上フラグが立つような行動はしたくない!!俺は…俺はこのお城から今度こそ逃げる!!逃げ出してみせる!!ハイエルフの名にかけて!!



善は急げだ!!シヴァさんも箱の中身も気になるがフラグは回避したい!!ごめなさい!!でも…ハラハラ、ドキドキする様な大冒険が俺を待っているんだ!!心の中で別れを告げ、走り去ろうと背を向けた。チクリと痛む心に蓋をし一歩を踏み出す。



「何があった?」



静寂を破るように発せらせた硬い声。ぎょっとして地面に落としていた目線をあげると、大変怖く厳しい顔付きのイシスさんと目が合った。あれー?あれれー?おっかしいなー。遠征に行ってるはずなのにー。やだなー疲れてるのかなー?こんな怖い幻覚を見るなんてー。ゴシゴシと目を服の袖で擦る。



「泣いているのか?何があった?」



間合いを詰めたイシスさんに腕を取られ問われる。あっ、触られたって事は実体があるって事だ。つまり、目の前に居る方は本物のイシスさん。本人ご登場です。不味い状況になってきましたよー。いや…何があったのか俺の方が知りたいです…。自分でも状況が理解出来ていない事もあり、返す言葉が見つからない。


ガタッ!!


先程よりも大きく動く木箱。不審な顔をしながらイシスさんが木箱に近寄り蓋を開けた。


「なっ?!」


目を見開いて固まるイシスさん。えっ、何?!



「どういう事か説明してもらおうか」



箱の中身を指差しながら真顔で問い詰められるが、全く何の話だかわからず、木箱を覗こうと少し顔を近付ける。



ぎょぇぇぇぇ────!!エ、エ、エ、エッ…!!



「何故エレ様がここに居るのか聞いている」



ブフォッ!!何故?!王子様がこないな木箱に?!こないな夜更けに?!口と手足を縛られそないな狭い場所に?!ダメダメダメダメ────!!そんな…まさか…嘘だ…嘘だー!! 誤解です!無実です!!俺はやってません!!だがイシスさんから発せられる圧が怖すぎて何も言えない…。何故なんだ…俺はただお外に出たいだけなんだよぉぉぉ!!なのに…この状況…。どうしてこうなるんだ!!はい、詰みー。詰みましたー!間違いなく俺の人生詰みました!!処刑フラグだけは…それだけは止めて────!!







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