神子召喚に巻き込まれた俺はイベントクラッシャーでした

えの

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俺、意識改革

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俺の頭の中では、この世界に召喚されてから起こった出来事が走馬灯のように駆け巡っております。



果てさて…どうやってこの状況を切り抜けたものか…。まずお部屋からの脱走、続いて倒れたシヴァさんを放置、トドメのエレ誘拐容疑。 そもそもですよ?何故、シヴァさんが誘拐犯達と一緒に居たか、そこ重要ですよね?!別に責任転嫁してる訳じゃないけど…。



「…」


薄暗い部屋で机を挟み目の前に座るイシスさん。怖いです…一言も発しません。俺も一言も発してないんだけどね。だからこの部屋に連れて来られちゃったんだけどね。どう見ても尋問部屋です。殺風景な上に窓には鉄格子。重たい厚みのある扉。はぁー。沈黙が辛い。容疑者の俺から話しかけるのもなー。でも埒が明かないし…。腹を括るか。


「あの…これから俺はどうなるのでしょう?」


目を合わせずに問う。でもちゃんと相手の目を見てる様に装う為、イシスさんの顎を見つめる。恐らくだが、イシスさんも俺を見ている。ガン見している!!早く!!早く何か喋ってくれ!!


「ここでの音は、決して外には聞こえる事はない。何があろうともだ」


淡々とした口調での返答。えっ…。それって…あれですか…?拷問フラグですか…?!エロゲ定番の拷問といえば、勿論アハーンやウフーンな美味しい展開になるが…いや、まてよ…BLゲーでも適用される展開だよな…あぁ!!違うわ。俺、部外者だから適用外だわ!!


つまり、俺の場合はリアルな拷問。快楽ではなくガチな痛みがある拷問って事ですね!!嫌だ!!痛いのは嫌!!ここは何がなんでも拷問から逃れるんだ!!せめて牢屋に入れられて、一日ここでゆっくりと考えるんだな、っ的なパターンに持っていきたい!!ここは誠心誠意お願いして、イシスさんの心に訴えかける作戦でいこう!!


「痛いのは嫌ですッ!!何でもしますから!!痛いのだけは止めてください」


許しを乞う様に胸の前で手を組み祈る。目を瞑り、イシスさんの答えを待つ。断罪待ちの悪役の気持ちが理解出来るわ。心臓がバクバク煩いし、吐き気まで催してきた…。力を込めすぎた指先が色を失い白く冷たくなっていく。


「クルトからの報告は聞いている…。大丈夫だ。安心しろ。嫌がるような事は何もしないと誓う」


大きなゴツゴツとした手が俺の両手をすっぽりと包み込む。温かいな…でも俺の指先は未だに力が籠り冷たいままだ。クルトさん、あなたイシスさんに何をご報告したのでしょう?俺が寝ている間に止めてよ!!いや、起きてる間にご報告されるのも嫌なんだけどさ!!そもそも意識無くしちゃう俺が悪いんだけどね…。ここは…お得意の話題逸らしといきましょうか!



「いつ…遠征から戻られたのでしょう」



そーいや、手紙出してからの帰省が早すぎないですか…?おまけに俺が森に行った日とかタイミングが良すぎやしませんかね?!


「今朝だ。クルト達からの手紙に森に行くと書いてあったのでな。俺もカーラと一緒に森に行きたかったのだが、一足違いだったようだ」


「あっ…手紙ですか…」


一足違い大歓迎!!しっかし…あやつらめ!!言わんでもいい事をわざわざ手紙に書くだなんて!!ちゃんと内緒だと言っとけばよかったなー。


「カーラ、手紙に書いてあっただろう?変わらぬ姿で会いに来て欲しいと…」


書い…たわ。そーいや、そんな内容書いたな…。だから会いに来てくれたのか…。手紙に書いてあったから律儀に…俺に無事な姿を見せるために…そっか…。そっか…可愛ところあるじゃん。顔は激怖だけどな!!



「俺に会いに…嬉しいです」



いやー忠犬って感じでほんと可愛いわー。強面犬だし番犬にはもってこいだね!!



「部屋のテラスからカーテンが風で靡いていたのが見えた。何度か様子を見に行ってて正解だったな」



忠犬ならぬストーカー犬だね!!耳としっぽがあるから許せるけど!!普通は通報されますよ!!でも…俺に会いたくて何度も足を運んじゃう姿を想像したら…クスッ。やっぱり可愛いな。



「イシスさん、おかえりなさい」


大きな両手に額ををくっ付け迎えの気持ちを言葉に出す。よく見ると所々に小さな傷がある。この傷跡、一つ一つに物語があるのかもしれないなー。この手でどれ程の魔物を殺し、どれ程の命を救ってきたのだろう。俺にはわからない。でも今ここにイシスさんが五体満足でいる事が嬉しい。フラグとか関係なく、今だけは素直にそう思える。もし万が一、怪我をしてたとしても勝手に治しちゃうけどね!!とにかく無事で良かった!!


「あぁ、無事に戻った」



俺の頭に同じ様に、自分の額をつけながら会話する。イシスさんの息が髪にかかって少し擽ったい。ふふっ。自然と笑みが零れる。このまま容疑者って事は不問にしてくれないかなー。って何この状況?!これは所謂イチャイチャでは?!恋人でもないのに?!でも…こんな事を同性にされて嫌じゃない自分が居る…。おかしい…。何で嫌じゃないんだ?!思い返せば…あの風呂場でも…。そういえば!!森でジンさんとクルトさんに触られた時も別に嫌悪は無かった…。何故?!男しかいない世界だから?男だと割り切ってたから?俺はノーマルなはず…。わからん!!しかし、イシスさんとゼロ距離なのにも関わらず嫌どころか安心すら覚えている俺が居る。





まっ、まさか…そんなはず…もしかして…もしかして────!!これは恋というやつですか────?!これが恋?!アイツには触られたたくないけど、あなたなら何をされても全然OKよ!ばっちこーい!!ってやつですよね?!俺って…イシスさんに恋してるの?いつからだ…いつから好きになってしまったんだ?!気が付けば好きになっていました…パターンか?!自分で自分の事が全くわからん!!



ヤバッ!!意識しだしたら急に恥ずかしくなってきた!!急いでイシスさんの手を振り払い、椅子を倒す勢いで立ち上がり距離を置く。無理無理無理ムリ────!!心臓が張り裂けそう。顔に熱が集まるのがわかる。どうしよ!!どうすればいいんだ?!俺、ソロ歴長いから恋とか完全に忘れちゃってるわ!!




「どうした?急に…俺が何かしたか?」




真顔で耳としっぽが萎れたイシスさん。何それ可愛い…。って違う!!止めろ────!!今近づくんじゃない!!何かしたかだと?!えぇ、えぇ!!しましたとも!!あなたは俺の大切な恋心を奪っていきました!!くぅ────気付きたくなかった!!こんな気持ち気付きたくなかったよ──!!





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