コエニコイシテ

ほろ苦

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渚くんと、とうとうベッドインしてしまったわけで……
頂いたボイス付きスチル画は直視出来ないものだった。
あ、男性の大切なところはちゃんと見切れてますよ。 
セリフも甘いものから、色っぽいものに変わり、言葉攻めに私は返事をする手が度々止まった。

詳しいことは18禁なので言えないが、
ヤバい…ムリ…/////
そんな言葉しか渚くんに返せないでいた。

「ああ……自分の語彙力の無さとキャパ低さに凹む」
「どうしたの?」

オンラインゲームのマリンちゃんに私は思わず愚痴を漏らしていた。
まあ、私が乙女ゲームしているの知ってるのはマリンちゃんだけだし。

「渚くんとまともに会話出来ない……」
「!なにそれw」
「だって、だって…うるうる」
「素直な気持ちで返事したらいいんだよ。ゆうさんのこと、わかってくれるって」
「本当に……?」
「だって、乙女ゲームだし!」

そうだよね……これは、ゲームだもんね。
私はマリンちゃんに励まされ、渚くんとのゲームを楽しむことを勝手に誓った。

渚くんと恋人同士のやりとりは基本エッチなことばかりだ。
私は真面目に一月5000円の課金制約を守り、何日も毎日ちまちまエッチな会話を繰り返していた。
最初こそ、ヤバい、ムリの言葉しか思いつかなかったが、最近では

『ゆうちゃんのココ、ひくひくして可愛い。ほら、見て。甘い液が溢れちゃってるよ。感じて……くれてるの?』
「渚くんのが大きくなってるからだよ。優しく……してねハート」
『動くよ…。優しくなんてしてられない。止まらないから……ごめんね』
「ふふ、謝るのはなしだよ。いっぱい……気持ちよくしてくれるんだよね?」
『ぁぁ…そんなに…きつく締めつけなれると…はぁ、はぁ。もっと気持ち良くしてあげる、もっと、もっと…あああ。』

と、まあ、こんな会話も出来るようになるのです。
絶対リアルではこんな会話しないだろう!
恥ずかしすぎて、死ねるだろう!
だけど、ここは乙女ゲーム。
渚くんの返事が私だけに向けられているような錯覚がおきる。
私はどんどん渚くんが好きになった。
ボイス付きスチルもいい感じに貯まって、仕事で失敗したり、生活に疲れた時、渚くんを思い出し、こっそりボイスを聞いて癒されていた。
そんなある日、なんとシステム障害で渚くんのゲームにログイン出来なくなってしまった。
復旧には時間がかかるらしく、もう3日間渚くんに会えない日々を過ごしている。

「はぁ……渚くんが足りない」

いつものオンラインゲームに入り、マリンちゃんにだけ私の心の穴を教えた。

「システム障害らしいね」
「そうなんだよー渚くんの声が聴きたいよー(T-T)死んじゃうよー」
「そんなにですか?w」
「うん。聴けるならなんだってするよ( ・`д・´)キリッ」

するとしばらくしてマリンちゃんから不思議な返答が届いた。

「もし、聴けるって言ったら……どうします?」

ん?渚くんの声優がCDでも出しているのかな?

「是非!教えて!」
「ゆうさん、ボイスでお話しませんか?」
「ん?」

ボイス?ボイスチャット!?
私は文章のみで遊ぶようにしていたので、声で話せない設定にしていた。
なんとなく自分の声って恥ずかしいし、地方だから方言やなまり
も気になる。
でも、マリンちゃんがボイスで話したいということは、渚くんの音源を何か持っているのかもしれない!
そんな期待が悩んでいた私を突き動かした。
女同士のボイチャだし、相手はマリルちゃんだし!

「いいよ!切り替えるね!ドキドキするねw」
「うんw」

私はマイク付きヘッドホンをつけて、一人になれる部屋に移動した。

「あー、聞こえる?マリンちゃん」
「……」
「あれ?おかしいなー、これで聞こえるはずだけど……」

「ゆうさん……」
「……」
「マリンです」
「……」

少しか細いが太く通る声
私は渚くんの声があまりに聞きたい過ぎて、とうとう幻聴か。
可愛い女の子の声が聞こえるハズなのに、なぜ……

「ごめん、騙すつもりもなかったんだけど。マリンは……男です」
「!!!!!?」
「それに……その……」
「ちょっと待って!」
「は、はい」
「えっと、えーーと、よし、うん。わかった!マリンちゃんはネカマだったのね。うん、あるある、そんなこと。大丈夫!ちょっとビックリしたけど、全然気にしない!」

ネットゲームでネカマはそんなに珍しいことではない。
私だってサブキャラはイケメンの男の子アバターつかってるし。
それよりも……私の心臓をドキドキさせるのはこの声だ。
似てる……渚くんに似てるのだ。
あ、マリンちゃん、声が似てるから聞かせてくれているのか。
いい子だ(泣)

「ゆうさんだったら、そう言ってくれると思ってました!」
「っ…/////」

く……いい声だな……

「ゆうさんはちゃんと本当に女性で安心しました」
「ま、まあね!」
「ずっと、憧れてたんですよ。ゆうさんに」
「え!いやーテレるな~」

マリンちゃんがまだレベルが低い時に、ボス戦クリア出来ないようだったので、颯爽と行って私のキャラが問答無用にボス倒したのが最初の出会いだった。
私は人助けじゃなくドロップアイテム狙いだったんだけど……

「ゆうさんが、俺の声聞いてくれてるって知って……本当はこういうのダメなんだけど……」
「え……」
「ゆうさん」
「……はぃ……」
『僕(渚)の声……好き?』

ぼんっと顔が赤くなり、身体中の血液が逆流したように熱くなり、鼓動が早くなる。
この、声、は……

「ぁ……あ」

私は何か言わないとと口をぱくぱくしていると
タイミング悪く家チャイムが鳴った。
そして、長男が対応してくれたようで私を呼ぶ声がする

「あの、ごめん、誰か来たみたい!落ちるね!」
「……はい。またね、ゆうさん」
「ほんと、ごめん」

私はボイチャを切って、締め付けられ熱くなった胸を片手でおさえ顔を真っ赤にしてよろめく。
なんてことだ……どうしよ……
動揺しまくりの自分をなんとか平常心に戻しながら、玄関に向かった。

渚くんは大好き
マリンちゃんも好き
それで、マリンちゃんが男で……渚くんの声で……

頭のなかの思考が固まらず、ぐるぐるとまわり続けている。
私はオンラインゲームにログインするのを躊躇った。
それは、踏み入れてはいけないエリアを感じて恐れているのかもしれない。
ドクンドクンと心臓の音が大きく感じ、頭の中を整理しようとしても白紙になる。

私は……ここから先は……危険だ。

この日、私はオンラインゲームも乙女ゲームもしなかった。
次の日もその次の日も、ほぼ毎日ルーティンとしてやっていたスマホゲームを私はやらなかった。
理由は、頭に血が登った自分を冷やすため
ゲームのなかとリアルが重なるのはリスクがある。
私が仮に独身で若い頃だったら、胸をときめかせて、この縁に感謝をするだろう。
だけと、いまの私は家庭があって、守るものがあって、ゲームはゲーム、リアルはリアルなのだ。
べつに、渚くんの声優マリンちゃんとどうなりたいとかない。
これまで通り、ゲームで仲がいいフレンドだ
この気持ちに嘘はない。
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