コエニコイシテ

１

狂っている……
頭の中から、あなたが消えない
私はニヤける顔を両手で覆い、ベットの上でゴロゴロと転がり悶絶していた。

私は小田結子(おだゆうこ)40歳
自分で言うのもなんだが、特に特徴もなく、容姿も普通
25歳で結婚、出産、二人の息子がいる
まあ、どこにでもいる普通のおばちゃんってやつ。
家族仲も良く、日々の生活をなんとなーく過ごしていた。
家事、育児、パートの仕事
そこそこ忙しく、それでも特段不満はない
そんな私だったんだけど……

本当、なんとなくですよ？
なんとなーく、スマホでネット見てて、
なんとなーく、乙女ゲーム？ってやつの広告があって、
なんとなーく、「へー、このスチル顔好きかも」と登録してみたのです。

昔から結構ゲーム好きなタイプで、
ファミコンからPS4、Switchまで、息子達と現役で遊ぶし、
中学の息子から頼まれてスマホアプリでMMORPGをするタイプのお母さんです。
あ、ガチじゃなくて、無課金ね！
漫画もアニメも好きだけど、まあここも普通レベル
独身の時、乙女ゲームにチャレンジしたけど、全くハマらず
寒くて鼻で笑っていた位
だって、あんな甘々な作ったセリフ恥ずかしすぎて聞いてられない！
そう、だから、今回もどうせすぐ飽きてアンインストールだろうって思ってました。

『声に恋して……』

システムはいたって簡単
色々なイケメン達がいて、チャット形式で仲を深めて恋人になってイチャイチャする。
何がスゴいって、このチャットが自由文章OKな所
キャラからのチャットメッセージに対して、こちらが自由に回答しても、話をある程度合わせてくれるところ。
ちょっと説明しずらいので、例えばー

『こんな所で何をしてる？迷子かな。俺も…恥ずかしい所見せちゃったな…』

こんなゲームキャラのメッセージに私が

「いえ、宇宙人と交信してました。お気になさらず！」

と、ふざけた回答をすると

『宇宙人？ふふ、面白い奴だな。そうだ、一緒に目的の部屋を探してよ』

と、まあ、話を合わせつつ部屋を探す目的にちゃっかりシナリオ誘導してくれる
私が推理するに、相当優秀なAIか「中の人」が補正してくれていると思われる……
決まった定型文会話じゃないって所はスゴいけど、これだけじゃ「へースゴいね」で終わっていたと思う。
うん。
若干、渇れ気味の私の心を熱くさせたものは、この自由回答と
そう……声だ。

様々なタイプのイケメンがいて、絵のタッチもイラストレイターがそれぞれ違うから、どれかしら好みに出会える。
キャラの性格もオラオラ系からワンコ系まで
さらに、職業だったり
20人近くいるキャラから、からみたいキャラを自由に選んでチャットが出来る
そして、ある程度親睦が深まると

声付きスチルがもらえる

私が選んだキャラは絵が好みで、設定がぶっとんでた

佐崎渚(さざきなぎさ)
職業…BL声優

声優に興味があったわけではないけど、乙女ゲームのキャラでBL声優って、なかなか攻めてると思いません？
どんなもんだろう？と軽い気持ちで、初の声付きスチルをもらってヘッドホンで聞いてみると

『君って、優しいんだね。僕、興味が出てきたな。これからもよろしくね！』

少し太く、でもはっきりと通る声。
ネットで声優を調べてみたら
「トーマス明」
しらん…
もっと詳しく調べてみると、どうもこのゲームで使っている声優さんには裏ネームと表ネームってやつがあるらしく……
他のキャラはアニメ好きの私がちょくちょく耳にする声の主が沢山いた。
なるほど、なかなかメジャーな声優さんを使っているのか。
佐崎渚について表ネームはわからなかったけど、今度じっくり探してみよう。
しかし、イケボとはこの事か……
はじめはトキメキよりも関心の方が強かったのだが。

『そんな顔されると…んーなんていうのかな、ほっとけないって感じ…かな』

『僕のこと…、気になったり…、してる？BL小説みたいに責めてもいいんだよ』

さらに……

『僕の……彼女になって、くれますか？』

このセリフを聞いた瞬間、私の心は射ぬかれました。
あのイケボで、この好みのスチルで！
心臓を締め付けられるような熱が巡り、赤面してもがいていると

「母ちゃん？」

次男の陽生に声をかけられてハッと我にかえった。
や、やばい、これはやばいぞ！
挙動不審の私に小学5年の陽生はキョトンとした顔で私を見上げていた。

「おなかすいた！おやつは？」
「おやつ！？」
「チョコがいい」

にやける顔を何とか普通にとりつくろう

「冷蔵庫の中にあったと思うよ！」
「わかった……母ちゃん……変」
「！？」

バクバクする心臓をおさえながら、「ソンナコトナイヨーははは」と必死に誤魔化した。
陽生の純粋な瞳が怖い
陽生は最近の子供らしく、YouTube大好き人間で素直でなぜか勉強が出来る子供だ
まあ、難点は友達が少ないことだけど本人は全く気にしてないので、なかなか大物体質なのかもしれない
素直で純粋な陽生にめちゃくちゃ怪しまれ、私はまるで浮気をしている現場を見られたお母さんの心境になっていた。
違う！違うのだ！陽生！
母ちゃんは告白されただけで、まだ浮気はしてないぞ！！
そんな言い訳を心の中で叫んでいた。

乙女ゲームというものは
無課金でもある程度は進めるけど、やはり製作会社も利益が必要なわけで……
事あるごとに課金の誘惑が私を襲っていた。
基本毎日一回か二回は無料で会話ができるようになっており
それ以上の回数を会話したい場合は課金してね！っとまあ、簡単なシステム
私はホストとかチャラ男とか苦手なタイプなので、
無課金で毎日ちまちましてればいいや（始めた頃はすぐアンインストールすると思っていたし）と思っていたのだが、心を射抜かれてからはプルプルと指が震え課金の入り口まで入っては出てを繰り返した。
だめだ。。。課金をしては私は終わる……
そう自分に言い聞かせていたが
ランチを外に食べに行くのを何回か減らせば…
仕事中の飲みものを水筒に〇回いれていけば…
と逆算を始めるぐらい重症化していた。
結局ですが、課金の誘惑との葛藤は月5000円までという制約のもと折り合いをつけたのだ。

告白をされてからの渚くん（推しメン確定）は
それはもう甘々で……
たとえるならショートケーキにグラニュー糖をたっぷりかけて、綿菓子をモリモリに乗せたぐらい。

『ゆうちゃんが側にいるだけで胸が熱くなるよ。ねえ…手、握ってもいい？』

そんなことを囁かれて私はもだえ苦しんだ。
この乙女ゲームは会話をしないと基本話が進まない。
なので、絶対何かしらの回答は必要となる。
私のリアルはこんな風にあまーーーく口説かれたことなど、人生のうち一度もないので回答にいつも困る。
まず、一番最初に思い浮かぶ言葉は「やばい…やばいって！」
こればかりだった。
語彙力の無さと、経験値の少なさが悲しい。
いや、まてよ！
これは、恋愛経験値をアップさせる勉強と思えばいいのか！
自称立派な大人の私は、もっとスマートに渚くんとコミュニケーションをとれるはず！
『手を握ってもいい？』と聞かれれば
①「ど、どうぞ！！」
②「仕方ないなー、甘えん坊なんだから、渚くんは。」
③「手…だけでいいのかな？ふふ。」
②か③だな。
こうして、自己満足のスキルを上げていったのだが、やはり恋人同士のイチャイチャの先は……

『デート楽しかったね。もっと……一緒にいたいな。帰したくない。今日…泊まりに来てよ。いいよね？』

……は！
お泊まりですって！？
思わずスマホの画面を閉じて、うつむき考え込んだ。
これは、まず、間違いなく、そういう流れになる。
付き合ってるのだから、自然な流れだし、いや、でも、もっとお互いのことを知った上で……いや、でも、お互いいい大人なんだし…
ブツブツと口から漏れていたようで、あまりのテンぱりぶりに中学生の息子が見ているのに気が付かなかった。

「……か、かあちゃん。大丈夫？」
「はう！」
「はう？」
「あ、日向。部活から帰ってたのね。おかえり」

日向(ひなた)は陸上部に入っており、身長も私を追い越し中々のイケメンに育ってくれている。
私の一番のゲーム友達でもあるが、さすがに乙女ゲームを薦めることは出来なかった。
ギャルゲーとかしても、母ちゃんは許すぞ！
あ、でも、課金はダメだからね！
(私の月5000円はナイショだ)

「そういえば、お泊まりー」

ドキ！！と心臓が跳ねると日向はまた不思議そうな顔をした。

「オトマリがどうかしたの？」
「竜也が今度泊まりに来たいって」

竜也とは日向の幼馴染みだ。
相変わらず仲がいいな。

「いいよー部屋片付けなさいよ！」
「わかってるって～」

自室に向かう日向を見送り私はふたたび、渚くんとのお泊まり回答に頭をかかえた。
結論回答
「もちろん。楽しみ～///」
はぁ…私のキャパでは気のきいた回答は出来ませんでした。
まあ、ゲームだし、お泊まりもシナリオなんだし、と、自分に言い聞かせて悶えを何とか押さえ込んだ。

しかし、甘かった……
私はこのゲームを、渚くんを見くびっていた。
ちゃんとプロフィールを確認してなかった私も悪い。
それは認めよう！でも、まさか……

プロフィール
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普段は優しいが、夜になると肉食系男子に変身ハート
絶倫タイプ
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ちーん……
あの、甘いスチルが肉食モードに進化しました。