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「陛下、お願いです。彼女にももう新しい生活があるのです、」

「わかっている!!わかったから早くしろ」

リーゲネスは臣下に命じ、ファリシアの様子を確認する為に馬車を走らせた。
彼女は今、辺境の領地でひっそりと住んでいるらしい。
リーゲネス以外の男を夫を持ち、子と共に幸せに…だと?

そんなはずはない。
彼女の幸せは自分の隣にあるのだと、リーゲネスは思っていた。
臣下に後で何と言われようと、彼女を連れて城に戻るのだと決めていた。


遠くにファリシアの声を拾う。

誰かの名を呼ぶ声と、笑う声。
彼女はこんなふうに笑う声を上げるのだと、リーゲネスは初めて知った。

リーゲネスは王だが、警護は最小限にした。

ファリシアを驚かせてはいけないと思ったのもあるが、彼女に婚約破棄を言い渡した場で、騎士らに囲まれて連れて行かれたのだとキャスリンに聞いて、大勢の護衛騎士で大挙して彼女のトラウマを思いださせるのも忍びなかった。

馬車を降り、臣下と平民に扮した騎士が一人。
王もそれとわからぬように変装した格好で、ファリシアの住む家に向かっていた。

目深に被ったフードを少し上げて、近づくファリシアを確認した。

「父さんいつ帰ってくるのかなぁ」
「リンはお父さん大好きね」
「母さんも好きー」
「私も。リンもお父さんも大好きよ」

幼い娘と手を繋いで前を歩く女は、確かに最愛のファリシアだった。

リーゲネスの記憶にある彼女の姿よりも、歳を重ね、大人びた顔つきになっていたファリシアに、かける声が出なかった。

リーゲネスの中のファリシアは、十年前の姿で止まっている。
彼女がファリシアだとわかるのに、何故か、他人に出会ったような感覚に陥り、声をかけそこねた。

ファリシアは、リーゲネスに気づかず手を繋いだ娘と通り過ぎていく。

「、今の冒険者のお兄さんかっこよかった」
「そうなの?私はお父さんが一番かな」
「父さんも母さん大好きだもんね。いっつもイチャイチャしてるもん」
「…そうかしら?」

楽しげな母子の会話が遠くなる。

報告の通りだった。

ファリシアは、別の男との間に娘を設けていて、今は幸せに暮らしている。

それを理解して、足から力が抜けその場にへたり込んでしまった。

「…あの子供から母親を奪えば」
「ファリシア様の幸せを奪うと同義でしょうね」

ファリシアも子供も楽しそうに笑っていた。

リーゲネスの息子も同じ様な笑顔をリーゲネスに見せていた。

子供たちの笑顔を奪っても、リーゲネスの愛があればファリシアは幸せになれるだろうか。

答えは出ている。

認めたくはなくとも。

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