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旅路 〜カプリースへ〜

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 海に1人の美しい人魚がいました。
 
 ある日、その美しい人魚は海で溺れていた男性を助けました。
 
 男性に一目惚れした人魚は共に暮らす事を望みますが、海で生きる人魚と陸で暮らす人族とでは無理な話です。

 人魚は周りが止めるのも聞かずに悪名高い魔女に人族にしてくれる様に願いました。

 魔女は人魚が人族になる対価に彼女の声を求めました。

 そして人魚は願い通りに足を手に入れ、人族として男性と再会するのです。
 
 しかし、声を失った彼女は男性に自分の想いを伝える事が出来ませんでした。
 
 それでも男性と楽しい一時を過ごした人魚でしたが、男性の婚約者が現れると悲痛に暮れ、泡となって海に消えてしまったのでした。
______

「何と悲しい話なんでしょう。」

 トゥーレが眉間に皺を寄せた。

「そうですね。
 この時、男性は助けてくれたのが人魚ではなく婚約者だと誤認したという話があります。
 他には、人魚の姉妹が男性をナイフで刺せば人魚に戻れると助言したのにも関わらず、男性を愛していた人魚が拒絶したという話もありますよ。」

「人魚ちゃん。
 可哀想・・・。」

 イオリは悲しそうにするニナの頭を撫でた。

「これは、俺の知ってる話の中で悲恋として有名な話ですが、よく考えれば溺れていた人族を助けたという点に関して似ていますね。」

「・・・確かに。」

 相槌を打つヴァルトの隣でナギが興奮した様に腰バックから本を取り出した。

「あのさ、海の宮殿で過ごした男の話覚えてる?」

 ナギが子供達を見渡すと、彼らは一斉に話し始めた。

「アレでしょ?
 亀さんを助けた男の人。」
「宮殿でおもてなしされて・・・。」
「帰ってきたら、時間がスッゴイ過ぎてて、お爺さんになった話!」

 脈略もない子供達の話にヴァルト達はキョトンとした。

「ちょっと待て、待て。
 それは何の話だ?」

 ナギが掻い摘んで話てやると、ヴァルト達は再び困った様に考え込んだ。

「それも、海の話か・・・。」

「うん。
 僕ね。 
 思うんだ。
 イオリの人魚ちゃんの話と、僕の亀さんを助けた男の話が混ざったら“カプリース”になるんじゃない?」

 ナギの提案に大人達は驚いた様に考え込んだ。

「まさか、海の中に宮殿があって住んでいる人がいるって言うのか?
 その人達が溺れた漁師達を助けていると?」

「うん!
 そうだったら、素敵じゃない?」

 目を輝かして力説するナギにパティとニナが同じ様な顔で頷いた。

「海の中の宮殿?
 素敵!」

「綺麗な人魚さんが住んでるんだろうねぇ。」

 イオリは言えなかった。
 だって、人魚の話も亀を助けた男の話もイオリのであって、決してじゃないのだ。

 楽しそうに考察する子供達に何とも言えずに冷や汗を掻くイオリであった。
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