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旅路 〜グランヌス・王宮〜
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しおりを挟むーーー半刻ほど前の事。
グランヌスの宰相であるケンショー・オオスギは窓に映る自分の疲れた顔を見て溜息を吐いていた。
「良い男が台無しだ。」
綺麗な目の下に出来たクマを忌々しげに擦ると悪態をつく。
「全くもって、全部アイツの所為だな。」
宰相がブツクサと文句を言うアイツとは、グランヌス王の事である。
2人の出会いは幼い頃・・・王子として誕生したノブタカ・ショーグンの乳母であるユリという高位貴族の婦人がおり、その息子がケンショー・オオスギである。
同時期に産まれた乳兄弟として、幼少期より共に成長してきた2人の信頼関係は深い。
ケンショー・オオスギにしても、此度の王の心変わりには苦労した。
いつの間にやら、敵に組み込まれていく友に手を差し伸べても弾かれる始末・・・なんとしても、残った第1王子だけでも守ろうと、仲間達と送り出した。
宰相としての立場上、仕事のままならない王の代わりに内政を担ってきたケンショー・オオスギは、王の寵愛を笠に着た離宮からの無理難題と戦っていた。
ここ最近に至っては後宮の影響力の低下を見てとり、宰相をも通り越して貴族達と暗躍しているのが目に付くことも多く、抗議に手間取るなどウンザリしていた。
ーーー王が“魅了”から解放された。
耳を疑う報告があった時には、人知れず涙を流したのは秘密である。
「あの野郎、迷惑かけやがって。
早く目覚めろ。」
トントントンッ
そう呟いた宰相ケンショー・オオスギの執務室の扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ。」
顔を引き締めた宰相が返事をすると、扉が開き誰もいないのに勝手に閉まった。
「・・・何者だ。」
警戒して刀に手を伸ばしたケンショー・オオスギの目の前に小さな可愛らしい少女と美しいエルフの少年が姿を現した。
「こんにちわ。」
「宰相様ですか?」
唐突な出会いに戸惑うケンショー・オオスギを2人の子供がキョトンと首を傾げている。
「私が宰相だが、君達は?」
「あぁ、良かった。
会ってたね。ナギ。」
「そうだね。
はい。
これ、王妃様からです。」
エルフの少年が差し出したのは、王妃の筆跡で書かれた手紙であった。
ーーー今すぐ参る。
たった一言が、まごう事なき王妃ソウビからのメッセージであると信じられた。
それでも、ケンショー・オオスギには王妃の思惑が理解できずにいた。
答えを求めようと、子供達に視線を向けると姿が見えない。
「・・・?
子供等よ?」
思わずソファーやテーブルの陰を覗き込み、声を掛けたが、さっきまで確実にいた子供達の姿が消えていた。
「・・・神隠し?」
訝しげに考え込むケンショー・オオスギは、物怪の類に騙されたかと執務室に突っ伏した。
「何を、訳の分からぬ事を呟いているのです。」
凛とした声に驚き立ち上がった先に王妃の姿を見て、目を丸くした宰相に訪問客達の忍び笑いが聞こえた。
「王妃様・・・。
どういう事です?」
戸惑うケンショー・オオスギを気遣いながらも王妃は微笑んだ。
「時は来ました。
反撃の狼煙をあげましょう。」
流石の宰相。
気持ちを切り替え、訪れた王妃に頭を下げると事態の急転を察し、一瞬にして目に力を戻していた。
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