続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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旅路 〜グランヌス・王宮〜

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「王妃・・・。
 無茶をなさいますな。」

「苦労をかけます。」

 宰相と王妃の互いを気遣う会話は暫く続いていた。

「宰相と話しするのは久々ですね。
 これまでの心遣いに感謝します。
 今回は、この坊やが、私達に力を貸してくれました。
 えぇ、分かってます。
 小さなお嬢さん。
 貴方にも助けられましたよ。」

 ナギだけ褒められて、納得のいかないニナが頬を膨らますと王妃はクスリと笑い、小さな頬を撫でた。

「瞬間移動のスキル持ちとは珍しい。
 ここまでは、どうやって参ったのだ?」

 瞬間移動のスキル持ちとて万能でない事は宰相ケンショー・オオスギも知るところだった。
 一度、現地に行かなければならない。
 その為に、少年少女は姿を消して自分の部屋を訪れたのだろうと理解していた。

 王妃の隣にいたムネタカが小さい友人を労うように微笑んだ。

「ニナちゃんは優秀な魔法使いです。
 後宮から此処に来るまで、姿を消すなんて造作もないそうです。
 ええっと・・・。」

「水の精霊さんと光の精霊さんに助けてもらったの。」

 満足気に話すニナを捕捉するようにナギが助け舟を出す。

「水蒸気と光の屈折を利用して、姿を消したんだよ。
 すれ違う人には僕達の姿が見えていないから安心して。」

 ーーーという事は、一緒に来たエルフの少年が瞬間移動のスキル持ちか・・・。

 有能な考察を発揮するケンショー・オオスギは、その鋭い視線を第1王子であるムネタカに向けた。

「・・・王子。
 何故に戻られた。
 貴方だけは無事でいなければいけないというのに。」

 苦労して送り出した手前、文句の1つも言いたくなったのだろう。

「私はグランヌスの男です。
 自分の手で国を取り戻さなければなりません。 
 それに、無策で戻ったわけではありません。
 ご紹介します。
 “アースガイルの英雄”のイオリさんです。」

 宰相は最初から異彩の放っていた真っ黒な青年の存在を気にしていた。
 ムネタカからの報告で、それが恩人であるイオリという名の青年である事は分かっていたが、あまりに柔和な笑顔の持ち主にの称号が似つかわしくないと思っていた。
 むしろ、その後ろにいる体格の良い若者の方が戦士という意味で英雄のようだった。

「初めまして。
 イオリです。」

 簡潔に挨拶をする青年にケンショー・オオスギは苦笑した。
 己の考えを読まれたと悟ったのだ。

「ようこそ、おいで下された。
 宰相を務めますケンショー・オオスギと申す。
 我が国の王子をお助けいただき、感謝します。
 加えて、ここまでお導き頂き、お礼申し上げます。」

「素性の知れない者を受け入れるのは辛いでしょうが、優しくしてくれて有難うございます。」

 イオリの笑顔に徐々に心が解されていくのが分かった宰相は、この青年を疑うのをやめようと思った。
 何よりも・・・

「王を我らの元に返して頂き、感謝する。」

 ケンショー・オオスギにとってノブタカ・ショーグンとは友であり兄弟だった。
 ノブタカが王として即位しトウカの名を継承しても、それは変わらない。
 奪われた絆が脆く崩れ落ちていく恐怖を味わった男は、自然と涙を流す自分に気づいていなかった。
 
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