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旅路〜デザリア・ガレー〜

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 そして、ついにお披露目の時がきた。

「これが、トマトケチャップです。
 焼いた肉にかけて食べても良いし、混ぜて色々な料理に使っても良いですよ。
 煮沸した瓶に詰めれば多少の日持ちも期待できます。
 野菜の日持ちを確実にしたいのなら、干し野菜という案もあります。
 適当に切って天日干しをするんです。
 カラカラになった野菜は水に漬ければ食べられます。
 生と違った食感が味わえますし、味も濃くなって美味しく食べられますよ。」

 イオリの怒涛の説明にデザリアの面々はついていくのに必死だった。
 これはデザリアにとって理に叶った実用案だった。
 砂漠と共に生きるデザリアは原材料が砂である為にガラス素材がアースガイルよりも手に入りやすかった。
 瓶の生産に長けている領地に依頼すれば他領にも利益が出る話である。
 干し野菜と聞き馴染みのない言葉も出ていた。
 炎天下が続くデザリアはオアシスを除けば万年乾燥地帯である。
 腐らせる野菜の分を干して保存食にしてしまうとなれば、食糧難の一助になるであろう。

「これがトマトケチャップ・・・。」

 目を煌めかせているハーディ翁は少年の様だった。

「父上はご存じだったのですか?」

 驚くジュード・ガレーにハーディ翁はゆっくりと首を横に振った。

「イオリ殿から話を聞いていただけだ。
 大量のトマトをどうのように消費しようかと悩んでいたところに吉報だった。
 干した野菜も然りじゃ。
 何とも奇怪なと思っていたが、こうも実物を見れば素晴らしいな。」

 自領の野菜を他領に運ぶ際に木箱に積んでいると何割かは痛んでいて商品として使えないと悩みがあった。
 それもイオリが提案をしてきた。

「緩衝材として干草で包んだらどうですか?」

 なんて事ない一言だった。

《何故、今まで誰も思いつかなかったのだ。
 この青年の知識は・・・。》

 イオリと対峙する大人達が必ずぶつかる疑問だった。

「イオリ殿は、何処でコレらを知ったのだ?」

 それに対するイオリの答えはいつも同じだった。

「俺の故郷は何もいない田舎なんですよ。
 便利な魔法を使える人間もいないんです。
 だから、先人達は自分達で様々な事を考えたんです。
 俺は、先人の知識を利用しているだけなんです。
 凄いのは先人・・・祖父と祖母ですよ。」

 イオリの偉ぶらない笑顔に人は絆されるのだ。

 当のイオリといえば、そんなジュード・ガレーの気持ちなど察するでもなく、テーブルに並ぶ料理に笑顔を浮かべた。

「それでは、いよいよ始めますよ。
 このテーブルに乗っているは全てガレーで手に入れた材料で作りました。

「何っ!?
 とう言う事は、作り方が分かれば再現できるということかっ!」

 ここにきて領主であるジュード・ガレーが本腰を入れ始めた。

「その通りです。
 さぁ、召し上がって下さい。
 最初はトマトケチャップを使った“ナポリタン”からどうぞ。」

 宴が始まる。


 
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