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旅路〜デザリア〜

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 ウトウトする子供達にブランケットをかけてやるとイオリは微笑んだ。

「どうです?」

 御者席のヒューゴに声をかけると首を横に振る。

「いや、まだ見えないな。
 リルラ達が迷わずに進んでいるから大丈夫だろうが、ここまで景色が変わらないと流石に不安になるな。」

「魔獣も出ませんしね。
 砂漠の魔獣って何が出るんでしょうね。
 ダンジョンにいたジョムシードみたいなのでしょうか?」

 2人は辺りを見渡すが、やっぱり砂漠しかない。

「大丈夫だ。
 正しい方向に進んでいる。
 太陽の位置で確認するんだ。
 それと、これだな。」

 シモン・ヤティムは懐から方位を確認できる魔道具を取り出した。
 
 これはイオリ達もラバン商会から購入し、御者席に備え付けている。

「魔獣もオアシスを中心に現れる事が多い。
 砂漠地帯だったら、そうだな。
 ジョムシードより小さいが、フェジシードがいる。
 小さければ小さいほどに毒性があるから気をつけてくれ。」

 魔獣も生き物である。
 水辺や緑が無いところでは生きられないのかもしれない。
 ジョムシードはサソリのような魔獣だった。
 サソリも大きな個体より小さない個体の方が毒を持つと聞いた事があったイオリは神妙に頷いた。

「ピチチチっ!!」

 さっきまでイオリの肩で丸まって眠っていたソルが突然飛び立った。

「ソルっ?!」

 驚くイオリは高く飛び立ったソルの心配し馬車から身を乗り出した。

「ピッチチ!ピチ♪ピチチチ♪」

 ご機嫌に旋回するソルを見てゼンが笑った。

《着いたんじゃない?
 ソルの位置から緑が見えるって。》

 その後、スンスンと匂いを嗅ぐとゼンは確信したように頷いた。

《うん。
 水の匂いがする。》

 イオリも真似して匂いを嗅いでみるが、流石に分からなかった。
 ゼンを撫でながらヒューゴに伝える。

「どうやら、着くみたいです。
 ソルもゼンもご機嫌になりました。」

「そうか。
 良かった。
 もう少し頑張るか。」

 イオリが運転を変わろうと言ってもヒューゴは笑いながら拒否をした。

「ここから見える景色が好きなんだ。
 なぁ?
 アウラ。」

「ヒヒンッ!!」

 アウラもご機嫌だ。

 小さな馬車は一途、ムジーザを目指した。

________

「そろそろ着くかな。」

 タージ・ラバンは大きく開いた窓から外をチラッと見た。
 
 補佐として連れてきたユーフが御者席に座り、護衛のネイルがタージと一緒に座っていた。

 ユーフは商人としての素質も強く、タージも育てるのが楽しみな若者だ。
 新しい事業に早く関わらせようと連れてきた。 

 ネイルはラバン商会に所属する護衛だ。
 元は冒険者として一攫千金を夢見ていたが、ダンジョン内で仲間に裏切られ命を狙われ、金を持ち逃げされ上に魔獣に襲われかけたところをタージによって助けられた。
 その後は冒険者業をたたみ、怪我を治すとタージに忠誠を誓いラバン商会に入った。
 どこに行くのもタージの護衛として付き従っている男である。

「そうですね。
 太陽の傾きから半刻ほどで着くでしょう。」

 ネイルは外を覗くと主に頷いた。

「なぁ、ネイル。
 お前どう思う?」

「・・・何がだい?主。」

 気だるげに聞く主人に慣れている護衛は澄まして聞いた。

「さっきの飲み物、売りに出すの許可してくれるかな?」

 岩場で飲んだ蜂蜜レモンの事を言っているんだと分かったネイルは肩をすくめた。

「俺は商人じゃないから分からない。
 ただ、すごく美味しかった。」

 タージ・ラバンはバカっと起き上がると満面の笑みで頷いた。

「だよねー!!
 私もあの味の魅力に取り憑かれているんだ。
 後で聞いてみよう!
 良いかな?良いよね?」

 主人に目をつけられたイオリ様は気の毒だと思うネイルだった。

 
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