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旅路〜デザリア・ダンジョン〜

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 それから暫くの間、鉱山エリアを駆け抜けながら数人の冒険者を見つけ、その度に騎士が運び込んで行く。
 それの繰り返しだった。

「それにしても魔獣に会いませんね。
 いつも、こんな感じですか?
 確か、優しいダンジョンなんですよね?」

 イオリの疑問に首を横に振ったのは筆頭魔法使いであるシモン・ヤティムだった。

「いいや。
 こんな事は初めてだ。
 少なくともスライムや虫科の魔獣は目にしない訳がない。
 まるでダンジョンが眠っているようだ。」

 キョロキョロと辺りを見回すシモン・ヤティムの肩をイオリがガバッと掴んだ。

「それだ!!」

「どうした?」

 驚いたのはシモン・ヤティムだけではない。
 辺りを警戒していたヒューゴや騎士も走り寄ってくる。

「眠っているんですよ!このダンジョンは!」

 一同が訝しがるのをお構いなしにイオリは笑いながら話を続けた。

「騎士さんも冒険者もダンジョンの主によって眠らされていたんですよ。
 ダンジョンの主は自分の身を守る為に結界を張った。
 そして中にいる人達に危害を加えないように魔獣も含めて眠りにつかせたんです。
 仮死状態と言ってもいい。
 見たところ、騎士さんも冒険者も疲弊感は見えないし、怪我もない。
 ダンジョンの外に運び出されれば、次第に目を覚ますのではないでしょうか?」

 イオリの推察に騎士は仲間が目覚める可能性を喜んだ。

「なんと・・・ダンジョンの主とな?
 最終の部屋のボスではないのか?」

 疑問を呈するシモン・ヤティムにお構いなしのイオリはゼンと共に至る所から取り残された人を見つけていった。


ーーーーー暫くした頃。

「ヤティム様。
 今のが最後のようです。
 ダンジョンに入った騎士と冒険者の数が記録と合いました。」

 騎士がシモン・ヤティムに報告すると、一同がホッとしたように息を吐いた。

「良かった。
 全ての者が無事に発見されたなど奇跡に他ならん。
 イオリ殿、ヒューゴ殿、礼を言うぞ。」

 筆頭魔法使いの安堵した顔とは裏腹にイオリは顔に厳しさを増した。

「それでは後を騎士さんに任せて奥に進みましょう。
 急がないと。」

 イオリが走り出すとヒューゴと子供達が追いかけた。

「なっ!」

 慌てるシモン・ヤティムを担ぎ上げるとエルフのゴヴァンが後を追いかけた。

「い・・一体なんだと言うんだぁぁぁ!」

 逞しいエルフの男に抱き上げられて戸惑うシモン・ヤティムを振り返る事もなくイオリが話し始めた。

「アースガイルで何箇所かダンジョンが消滅しているんです。」

「それは報告を受けている。
 なんでも“ダークエルフの置き土産”が関係しているのだろう?」

 “ダークエルフの置き土産”

 “エルフの里の戦士”の事を揶揄った言葉である。

「彼らが何をしようとしているか分かりますか?」

「いや分からん。
 今更、なんだと言うんだ。」

「彼らはダークエルフの復活を願っているんです。
 復活の鍵になる物を探して世界中のダンジョンに潜り始めたんですよ。
 そして用がなくなれば核を破壊しダンジョンの消滅を持って仕事が終了しています。」

 イオリの報告は“砂の国の筆頭魔法使い”シモン・ヤティムの顔色を悪くするのに十分だった。

「・・・愚かな。」

 目を瞑って苦渋の顔をするシモン・ヤティムにイオリは同調する。

 騎士と冒険者の救出を目的としてやって来たが、国の存亡に関わる事態に発展している。
 もはや姫の我が儘の延長線上ではないのだ。

「それが達成されれば“デザリア”は終わる。
 しかし、まだ“エルフの里の戦士”がいるとは限らんのだろう?」

 シモン・ヤティムの希望を打ち砕くように、突如しゃがみ込んだイオリが顔を上げた。

「どうやら、嫌な予感が的中したようです。」

 岩盤に幾度も攻撃の跡が見える、その足元に大きな足跡があった。
 人間でもなく獣人でもない、ましてや魔獣でもない。

 シモン・ヤティムが驚愕して見つめたその足跡は、エルフの足跡だった・・・。

 
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