続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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旅路〜デザリア・ダンジョン〜

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「どうやら、嫌な予感が的中したようです。」

 ナギやエルノールを含めてエルフでもブーツを着用するのが通常であるが、イオリが示す足跡はエルフの裸足の跡だった。
 ゴヴァンも身に覚えがあるのか、顔を顰めている。

 雪の冷たさだろうと、熱い地面だろうと裸足で行動する“エルフの里の戦士”の足は通常のエルフの2倍は大きい。
 実物の足の裏は硬くて小石など、なんのそのである。

「なんて事だ・・・。
 王宮に戻って軍に救援を頼まなければ!」

 焦るシモン・ヤティムにイオリは首を振った。

「それじゃ間に合わない。
 俺達が行きましょう。
 幸い足跡は2人分です。」

 追跡に関して卓越したイオリの言葉であるが、なんの気休めにもなっていない。

 “エルフの里の戦士”とやり合うには国家の軍を連れて来い。

 それが世界の常識だった。
 シモン・ヤティムは驚愕の面持ちでイオリを見つめた。

「我らだけで、2人の“エルフの里の戦士”とやり合うのか?!」

「急ぎましょう。
 彼らが最深部に到着する前に追いつかなくちゃ。」

 筆頭魔法使いの戸惑いなどお構いなしにイオリは前を向いている。

 鉱山エリアの終わりとばかりに奥に光が見える。
 
 家族に合図するとイオリは、その光の中に迷いなく歩き出した。

ーーーーーーーーー

 その頃、デザリアの王宮では2人の男が話し合っていた。

「時にディビット殿。
 アースガイルの英雄殿はどのような人物だ?」

 隣国の若き王子にデザリア王であるダマン・デザリアは問いかけた。
 そんなアースガイル王の第2王子であるディビットは微笑んだ。

「不思議な男です。
 どれだけ世界が混沌としようとも、彼の周りだけは穏やかなのではないか。
 そんな男です。」

「・・・それは、一体。」

「彼は・・・イオリは自然を愛する男です。
 人の道理の方が苦手でしょう。
 それでも、彼に出会えば何故か心が穏やかになる自分がいるのです。
 私の婚約者もそうでした。」

 国外向けにもディビットの婚約は発表されている。
 デザリア王・ダマンは目の前の若者の言葉の端々に英雄と謳われる男への信頼を感じていた。

「王族と婚姻をする者への風当たりはどこも同じでしょう。
 我が婚約者は繊細な女性でした。
 幼い頃より、私に嫁ぐ為に努力を重ねてきた彼女です。
 私の目の届かぬところで苦労をかけた。
 互いの愛は信じていましたが、このまま結婚したら、いつか彼女の心が壊れるのではないかと不安でした。
 そんな彼女に勇気をくれたのもイオリです。
 今では我が婚約者も己が力を注ぐ道を見つけてくれた。」

 ーーー英雄とは、武力が優れるではないのです。

 若き王子の言葉にデザリア王・ダマンは小さく頷いた。

 そんな折、扉の向こう側が騒がしくなった。

「何があった?」

 王が眉を顰めると宰相であるナロ・シウバが駆け込んできた。

「報告します!
 “余慶のダンジョン”の結界が消滅し、取り残されていた騎士や冒険者が発見されました。
 全員、意識はありませんが無事の様子にございます!」

 依頼を出して、まだ1時間も経っていないはずだった。
 1ヶ月余り変化のなかったダンジョンが人を受け入れた。

「ほらね。
 お伝えしましたよ。
 事態を動かすのはイオリだと。」

 驚愕するデザリアの王と宰相を前にディビットはニッコリ紅茶を口にしたのだった。

 
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