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旅路〜王都〜

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 グラトニー商会まで迎えにきた馬車はゆっくりと王城の門を潜って行った。

 陽も暮れ、交代で来た門番は仕事中の同僚に声を掛けた。

「今の馬車はなんだ?
 お客様が来る予定でもあったか?」

「あぁ、宰相閣下からの命令で通したんだ。
 馬車も閣下の紋章が入っている。
 俺も突然の事だから誰が来たのかは知らん。
 まぁ、宰相閣下だから大丈夫だろう。」

 やっと仕事が終わると嬉しそうに持ち場を後にする同僚を労うと門番は馬車の後ろ姿を見送った。

「宰相閣下のお客様か・・・。
 まぁ、俺には関係ない話だな。」



 馬車が王城の正面に止まると衛兵が扉を開けた。
 飛び出してきた狼と子供達に驚きながらも、衛兵は小さな少女が降りるのに手を貸した。

「ありがとうございます。」

 ニッコリする少女につられる様に衛兵も微笑んだ。
 少女の後ろから大きな男が顔を出すと会釈をする。

「お話は伺っています。
 冒険者のイオリ様とご家族の皆さんですね。
 ご案内します。」

「ありがとうございます。
 俺はヒューゴ。
 当のイオリはこっちです。」

 そう言われ衛兵が馬車を覗き込むと真っ黒な青年が壁にもたれ掛かって疲弊していた。
 その青年を心配そうに小さな馬が寄り添っている。

「オエェェェ。」

 思ってもいなかった客の登場に衛兵は戸惑いながらもヒューゴに声を掛けた。

「・・・大丈夫でしょうか?」

「まぁ、ほっとけば直ぐに治ります。
 馬車が苦手なもんでね。

 おいっ。イオリ。
 着いたぞ。降りるぞ。」

「・・・はい。」

 ヨロヨロと降りてくるイオリを気遣うように衛兵は手を差し出した。

「すみません。
 お気遣い、ありがとうございます。」

「いいえ。
 馬車が苦手な貴族の方も多いので、慣れています。
 城内の入り口に別の案内役がおります。
 そちらまで、私が参ります。
 ゆっくりどうぞ。」

 イオリは深呼吸すると、胃が多少軽くなった事を確認し階段を登った。
 衛兵は子供達やイオリに歩調を合し先導する。

「人様のお宅にお邪魔するんだから、みんな、良い子にね。」

「「「「はーい!」」」」

「一国の王様の住う城を“人様のお宅”と片付けるな。」

 イオリと子供達の話にヒューゴが苦言を呈すると衛兵は堪えるように笑っていた。

「クククっ。
 宰相閣下から変わったお客様だと、言付けがありましたが、理解しました。」


 階段を登り開け放たれた扉を進むと、懐かしい顔が待っていた。

「皆様、お帰りなさいませ。」

「ハミルトンさん!」

 ポーレット公爵と王城に来た3年前、離宮シグマにて世話をしてくれた執事のハミルトンがイオリ達を待っていたのであった。
 子供達も歓喜の声をあげてハミルトンに駆け寄って行く。
 
「皆様、お元気そうで何よりでございます。
 少し見ない間に大きくなられました。
 さぁ、お疲れでしょう。
 本日は王城にてお部屋をご用意いたしました。
 ご案内いたします。」

「ありがとうございます。よろしくお願いします。」

 イオリとヒューゴは馬車から案内してくれた衛兵に礼を言うとハミルトンの後を追った。

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