続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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旅路〜王都〜

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「ふむふむ。成程、幸せの味とは言ったものだ。
 確かに以前食べたのと比較にならんほど美味しく仕上がっている。
 さすが、イオリさんだ。」

 未知なる味を試したアーベルが眉を下げていると、ロスは唸るように頷いた。

「見事だ。
 牛乳を入れて加熱しただけで、こうも味が変わるのか・・・。」

 壁際ではリロイとアクセルも嬉しそうに、カップを覗きながら飲んでいた。
 しかし、作るのを手伝ったヒューゴは頷きながらも、少々眉を顰めた。

「美味いけど、俺には甘すぎかな。」

「それなら、砂糖の分量を変えれば良いんですよ。
 果物を少量入れれば風味も変わるし、お酒を加えれば大人の味になります。
 カカオの量によって、香りも味も変わりますし、固まる具合も違います。
 クッキーやケーキなどのお菓子の生地に加えれば味の種類も増えますし、可能性は無限です。
 でも、加工技術だけは分かりません。
 下手に手を出せば分離して食べれたもんじゃなくなるでしょう。
 原材料を買い付けるより、加工したものを輸入した方が良い気がします。」

 イオリの意見にロスは驚いた顔をした。

「成程・・・勉強になる。」

 アーベルはロスの反応を楽しそうに見つめた。

「どうだ。
 イオリさんは面白いだろう。
 我々の考えなど、ピョンっと飛び越えていく。
 使い方だけじゃなく、買い付けまで目をつけておる。
 冒険者と言うのが、実に勿体無い。
 商人としても成功するだろうて。」

「いやいやいや!
 俺には無理ですよ。
 無責任に思いついた事を言っている手前、成功する保証もできません。
 ただ、目の前に美味しそうな物があるなら食べてみたい。
 それだけです。
 俺は冒険者ですよ。
 魔獣を追いかけているのが、丁度いい。」

 謙遜するイオリにロスは苦笑した。

「それなら、我々商人はイオリさんが美味しい物を手に入れる手伝いをしましょう。
 貴方が美味しいと言った物はこの国の人間も美味しいと思うものですから。」

 へへへっと照れるイオリにヒューゴは呆れた顔をした。

「「「「おかわり!!」」」」

 カップが空になると子供達は満面の笑みで掲げた。

「みんな顔中、チョコレートまみれじゃないか。
 今日はお終い。
 夕飯が食べられなくなるよ。
 それにね。
 幸せって、いつも感じてたら薄れるんだ。
 たまに飲むから幸せの味って美味しいんだよ。」

 ウィンクをするイオリに子供達は納得して頷いた。

「また、作ってね!」

「お手伝いするからさぁー。」

「ナギも!」

「ニナも!」

 新たに知った幸せの味は子供達を虜にしたようだ。

コンコンコンっ

 ノックの音にアクセルが反応し扉を開くと、案内所にいたウサギの獣人ビビが恐々と顔を出した。

「あのー。
 イオリ様宛にお手紙が届いています。
 それとお迎えの馬車も・・・。
 いかが致しましょう?」

「ほう。
 随分と早い反応だったな。」

 アーベルが言うとロスが頷いた。

「宰相閣下かな?」

 イオリはアクセルから手紙を受け取ると頷いた。

「そうみたいです。
 ・・・王城に迎えてくれるそうです。
 馬車で来る様にと。
 お暇する時間みたいです。
 今日は皆さんに会えただけでなく、カカオにも出会えました。
 ありがとうございました。」

「こちらこそ。
 元気な顔を見れて嬉しかったよ。
 また、いつでも来なさい。」

 アーベルはイオリだけでなく、ヒューゴや子供達も労った。

「これをお持ちください。」

 ロスはカカオペーストを差し出した。

「いいんですか?」

 目を丸くしたイオリにロスはニヤリとした。

「王妃様にご賞味いただければ、カカオの貿易も楽になる事だろう。」

 豪商ロス・グラトニーの悪戯顔にイオリは苦笑するしかない。

「努力します。
 お世話になりました。
 王都を立つ時、もう一度来ます。」

「あぁ、そうしてくれ。」

 イオリはリロイにも頭を下げて部屋を出た。
 案内をしてくれるアクセルにイオリは王都の後はダグスクに向かうと告げた。

「本当ですか!?
 それは父にも伝えなくては!
 今ではエナ婆さんともお茶のみ友達なんですよ。
 イオリさんが顔を見せれば喜びます。」

「アクセル君にも会えて嬉しかった。
 ダグスクから他国へ渡ろうと思っているんだ。
 帰ってくる頃にはダグスクで再会できるかな?」

「はい!
 お待ちしています。」

 ヒューゴや子供達だけじゃなく、ゼンやアウラもアクセルに挨拶をするように擦り寄った。

「それじゃ、また。」

 馬車に乗り込むイオリ達を見送るとアクセルは店に戻って行った。
 それを待っていた様にビクビクとしながら立っていたビビが近寄ってきた。

「・・・あの。
 アクセルさん。
 あの方、凄いお客様だったんですよね?
 私・・・失礼な事を。」

「あぁ。大丈夫ですよ。
 あれ位でイオリさんは怒ったりしませんから。
 気にしないで下さい。
 彼は我々グラトニーの恩人なんです。」

 それを聞いて、ビビは益々顔を青くするのであった。
 

 
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