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旅路〜イルツク〜

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 冷気が漂う最終の部屋。
 一歩踏み入れれば異常な程の殺気が飛び交っていた。

「これは・・・。」

 ディエゴ・ギロック騎士団長は初めて訪れた“深淵のダンジョン”の最終の部屋に緊張しながらも足を進めた。

「離れちゃダメ。」

 ナギがギュッと手を握ると、真剣な顔で見上げた。

「ああ、すまない。」

 自分が子供に守られていると分かっていながらも、イオリ達との約束は守ろうとディエゴは頷いた。

 瞬きをした時だった。

「ヒューゴさん!」

 イオリの叫びが最終の部屋に響き渡った。

ピシャーン!!

 雷がイオリ達を襲った。
 一瞬にしてヒューゴが張ったシールドに一同は守られたが雷の衝撃は強く地面が揺れていた。

「あっぶねー。
 ありがとうね。」

 ロジャーは片手剣を手に身構えるとヒューゴのシールドの有り難さに礼を言った。
 ヒューゴは頷くと、すかさず目を凝らした。

ドンッ!

 ・・・落ちてきた。
 いや、飛び降りてきたのか1人のエルフが立ちはだかった。

「何しにきた。全弱な人間ども。
 我らの邪魔をしにきたのというのなら、虫けらのように潰してやろう。」

 アレックスと双子はエルフを囲むように身構えた。
 エルフは鼻で笑うように槍をドンッと地面に突き刺した。

 ディエゴ・ギロックは目の前に現れたエルフを睨みつけた。

「こいつが我らの街を騒がした“エルフの里の戦士”か・・・。」

 その言葉に反応するとエルフはニヤリとした。

「その甲冑。
 知っているぞ。
 弱く脆く、相手にもならなかった奴らと同じだ。
 お前も同じようにしてやろう。」

 エルフは雷を纏わせた槍をディエゴに投げつけた。

「クソッ!」

 ロジャーが守ろうと走り出したが、間に合うわけもない。
 危ないと思った瞬間にディエゴ・ギロックとナギは、その場から消えた。 
 誰に当たるでもなく槍は放電しながら岩壁に刺さり、攻撃の強さを物語っていた。

「・・・小僧め。
 お前もエルフか。
 ウラギリモノめ。
 我らに反抗する逆賊が!」

 ディエゴ・ギロックは瞬く間に移動した自分に驚いた。
 しかし、自分の手を握る少年の手がジンワリと汗ばんでいるのに気付くと心配そうに話しかけた。

「大丈夫か?
 君が避けてくれたのだな。
 礼を言う。」

「いいよ。
 僕、逃げるのは得意なんだ。」

 心なしか、弱々しい笑顔の少年の頭をディエゴは撫でた。

「そこの人。
 うちの子に手を出さないで下さいよ。」

 イオリが間に立つと“エルフの里の戦士”はギョッとしたように後ずさった。
 ディエゴには背中しか見えない。
 しかし、イオリが静かに怒りを纏っているのに気づいてしまった。

「ウラギリモノと貴方達は言う。
 それはどっちの事だ。
 あの子を裏切ったのはお前等だ!!」

ドンッ!!

 次の瞬間、“エルフの里の戦士”の足に銃が撃ち込まれた。

「グアァァァ!!」

「まだだよ。
 あの子の悲しみは、こんなもんじゃない。
 立てよ。
 至高の存在。エルフよ。
 人間如きに膝をつけられたなんて、里に逃げ帰る事も出来ないだろう?」

 ディエゴは悟った。
 自分を守っている、この子供は元は“エルフの里“の出身なのだろうと。
 子供が“エルフの里”から出る方法はただ1つ。
 という事だ。

 真っ黒なSランク冒険者の怒りは我々と同じものではない。
 しかし、彼の怒りが純粋な愛情である事はディエゴにも分かった。
 彼と手を繋いでいる少年エルフはジッとイオリの背中を見つめていた。
 
 ーーー見届けよう。
 ディエゴはナギと共にイオリの戦いを見守る事にした。
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