続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

愛し子の帰還

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　ポーレットの教会は石造りで細微の彫刻が美しい。
　図書館を見学し、好調に街に受け入れられているのを確認するとイオリ達は満足し教会に足を向けた。
　明日から再び旅に出る。
　いつ戻るかも分からない旅の報告を絶対神リュオンに報告する為だ。

　誰よりも長く祈りを捧げるイオリをエドバルドは美しいと称する。
　今日もその背中をヒューゴと共に見つめていた。

「イオリさんが教会に来ると光り輝くのです。
　我ら教会に従事する者ですら、この輝きを目にする事は稀です。
　しかしイオリさんは・・・。
　いいえ。もう、申しますまい。
　あれが本来ある神との会話する姿なのでしょう。」

　ヴァルトは愛し子と聞かされた時から、“やはり”と思っていた。
　出会いの瞬間こそ、素朴であったがイオリの周りには神がかったことばかり起こっていた。
　しかし、イオリは常々言う。

“世界は生きる者の物。絶対神リュオンは全てを愛し、心を尽くす。”

　それは生きる物が好きにして良いとも取れるし、生きる者の責任を説かれている様だった。
　博愛とは実に難しい。

「全てを愛する事は未熟な自分では出来ない・・・」

　過去に父であるポーレット公爵テオルドに吐露すると、父は言った。

「それだからこそ人間なのだ。
　愛する者を守る。
　だから人は争うのだ。
　愛する者を貧困から守る。その為に他人の麦畑を狙う。
　また麦畑を襲われた方は、愛する者を守る為に刃を向けるのだ。
　しかし、私はそれで良いと思っている。
　愚かで儚く、同じ過ちを繰り返すが人は愛を知ると強くなる。
　守る者を見つけよ。ヴァルト。
　それだけでお前は強くなる。」

　父の言葉はシンプルであるが、博愛とは全く違った。
　それが人だと納得もするが、争いの最前線に立つ者達はたまったものではない。

　少しでも争いがなくなれば良いと願う若き青年貴族は、この3年に渡り学ぶ事から逃げるのをやめた。
　友・・・イオリを守れるくらいに力をつけるべく成長したのだ。

「今回も置いていかれるな。」

　少し寂しそうなヴァルトに従者は眉を下げた。

「彼の帰る場所はポーレットだよ。」
「そうさ。いつ帰ってきても安心する街を守れば良い。」

　ヴァルトは微笑むと頷いた。

「そうだな・・・。
　アイツが助けを必要とする時、すぐに駆けつけられる様にしよう。」

　ヴァルトの言っている事にも気づかずにイオリは祭壇に向かい祈りを捧げた。

「リュオン様。旅に出る事になりました。」

＿＿＿＿＿＿＿＿

『えぇ。気をつけて行ってらっしゃい。』

　優しい声が響き。顔を上げると目の前に虹色の髪をした男がゼンとソルを撫でながら微笑んでいた。

「次はイルツクです。
　ダンジョンにエルフが侵入したそうですよ。」

　イオリの言葉にリュオンは目を瞑った。

『彼らはまだ見つけられていないのです。』

「何をです？ルミエールを復活させる何かですか？」

　リュオンは真っ直ぐにイオリへ視線を移すと頷いた。

『彼らはルミエールの武器を探しているのです。
　それが復活の鍵になると信じています。
　しかし、それはダンジョンにはありません。』

「確か・・・中つ国の海の深くに封印されているって。」

『そうです。
　彼らはまだ到達していません。
　ダークエルフ・ルミエールの愛刀ソラスは見つける事は困難です。』

「ソラス・・・。」

　イオリは見たこともない剣の行方を心配した。

『彼が名付けました。
　思い入れも余程の事でしょう。』

「まずは彼らの動きを鈍らせましょう。」

　リュオンはイオリの青い目を見て微笑んだ。

『私は貴方に任せると決めました。
　どうぞ、貴方らしさを忘れずに。』

「はい。
　イルツクの教会でお会いしましょう。」

　薄れゆくリュオンにイオリは手を振った。