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男が指輪を手にした時
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「アレが屋敷を出る!?」
使用人達の話を聞いてクロスの母であるエラ・アルデバランは驚いた。
「何処に行くの?」
「王都へ行き、軍に入隊されるようです。」
「それじゃ、クロスは・・・」
「クロス様は御屋敷に残り、領地経営の勉強に専念されるとか。」
淡々と話す使用人は陽が高くなっているカーテンを開き窓を開けた。
「旦那様が許したと?」
「そう聞いております。」
「アレが屋敷だけでなく、ダチュラをも出るのか・・・ハハハ
これで、正常に戻るのか・・・?
そうだ、戦で死に行けば私が手を下す必要もないわ!」
誰ともなく喜ぶエラを使用人達は冷めた目で見ていた。
寝衣から着替えもせずにフラフラっと部屋の外に出ると、息子達が笑いながら玄関を出ていく姿だった。
愛しい息子と笑顔で話しているアレをエラは睨みつけていた。
「いつも、そのような目でサムエルを見ていたのか?」
声がかけられ徐に視線を向ければ、夫であるゼスが立っていた。
「あの子は私の子だ。
受け入れろとは、もう言わん。
しかし、傷付けることは許さん。
私の2人の子は、既に親の私達から離れ自分達の未来を見据えている。
私達に出来る事は静かに見守るだけた。」
数年ぶりに目の合った夫婦はぎこちなくも見つめ合った。
夫の言葉に返事をするでもなければ頷くでもなくエラは静かに部屋に戻って行った。
「はぁ・・・。」
大きな溜息を吐くとゼスは自身の執務室に戻っていった。
この日、チェイス・リゲルの招きに応じてクロスとサムエルはリゲル伯爵家を訪問していた。
聞けば当主であるミハエル・リゲルが会いたいと言っているらしい。
特にクロスはミハエルの事を警戒していた為に、直接会う事に躊躇っていたが良い機会だと申し入れを受け入れた。
「やあ、よく来てくれたね。」
玄関まで迎え出たチェイスに挨拶をすると3人はミハエルの執務室に赴いた。
「これはこれは、ようこそお越し下さいました。」
相変わらず、感情の読めないミハエルはクロスとサムエルが姿を表すと笑顔で出迎えた。
「御当主からご招待いただいたのです。
当然、参ります。」
クロスの言葉にミハエルは苦笑した。
「ご足労いただきまして・・・。
どうぞ、お座りください。
最近はチェイスがお世話になっているようで、有難う存じます。」
「最近まで屋敷を出た事もない世間知らずです。
ご子息には多くの事を学ばせて頂いております。」
話すクロスの隣には微笑むサムエルがいた。
「お役に立っているようで何よりです。
さて・・・本日は、そろそろ何か聞きたい事がお有りではないかと思いお声掛けいたしました。」
何処か挑むようにクロスを見据えミハエルは微笑んだ。
「・・・そうですね。
答えていただけるのでしょうか?」
「御2人にはなんなりと。」
ミハエルの表情を見てクロスは覚悟を決めた。
「名家の主であるミハエル・リゲル殿が、何故我が父の遊興を止めず金銭を貸し出していたのでしょう。
事と次第によっては、領主を操る為と勘繰られてもおかしくありません。
我が父ながら、領主としての振る舞いに恥いる思いも致しますが誰か止めてくれなかったのかと悔しい思いをしています。」
クロスの言葉をまっすぐに受けたミハエルは静かに頷いた。
「私は御2人のお父上を幼少の頃よりも知っております。
孤島になりうる、この領地・・・街において彼の責任は重責であった。
ご兄弟のいないゼス様への周りの期待は、それはそれは重い物にございます。
私自身もリゲルという名の家名から逃げ出したいと何度思った事でしょう。
そして我らは知っておりました。
ゼス様が憂さ晴らしと共に仕事に満身していらっしゃるのを・・・。」
クロスは知っていた。
父が領地運営に尽力しているのを、外から帰ってくると日夜執務室に篭り仕事に励んでいた。
それは資料からも読み取れる事だった。
ミハエルは視線を落とすと息を吐いた。
「確かにアルデバラン家当主としても父親としても誉た方ではありません。
しかし、ゼス様が手につけられた金銭はアルデバラン家の財政のみで決してダチュラの運営費ではございません。
それに手をつけられる前に我らが捻出して参りました。
全てはダチュラの為にございます。」
「・・・成る程。
我ら兄弟はダチュラという街の犠牲になったのですね。」
クロスはミハエルの言い分に目の光を曇らせた。
「父上・・・。
ゼス様がダチュラの潤滑な運営に満身する。
素晴らしい事ではありますが、それは面倒な事をアルデバラン家に押し付けただけです。」
静かに聞いていたチェイスが眉を下げてミハエルを見ていた。
息子の言葉にミハエルは眉間にシワを寄せた。
「領地を守る。それが我らの仕事だ。
それ以上に勝るものはない。」
信じて疑わないミハエルも友人を助ける為に信じた道を歩んできたのだろう。
「ゼス様が屋敷を留守にしたアルデバラン家は地獄でした。
奥様であるエラ夫人の虐待と抑圧した教育に彼らは苦しんできた。
我らの幸せは彼らの犠牲の上に成り立っていた。
私は今、恥ずかしく思っています。
私は・・・彼らを友と呼ぶ資格がない。」
ミハエルは唖然としてクロスとサムエルを見比べた。
「虐待?」
「父も先日知った事です。
・・・いや、私達は知っていて止めなかったと思っていた。
何年も父は気づいてすらいなかった・・・。
貴方達が知るはずもない。」
鼻で笑うとクロスはミハエルを見つめた。
「領地を思ってした貴方達の考えは分かりました。
我らの犠牲だけで領地がうまく運営されていたのなら構いません。
しかし、我らの時代はそうはいかない。
チェイスを当主に据えて頂きたい。
私の領地運営に彼が必要です。
ご長男ピート殿は体を動かすのが得意なご様子。
我が弟が領地を出て王都の軍に入隊いたします。
共にピート殿を連れて行かせたい。
どうか、お考えを頂きたい。」
突然の提案にミハエルは驚いた。
まだ、2人が虐待されていたという事実についていけてないのにも関わらず、自身の後継問題に切り込んできた。
瞳を見れば冗談でない事が分かる。
ミハエルは気づいていた。
長男のピートには思慮深さが足りない。
乱暴な態度は人の心を閉ざすだけ。
弟のチェイスは要領もよく何を考えているか分からない奥深さがあった。
しかし、ピートの行く末を案じていたのも事実。
サムエルが領地を去ると知り尚のこと驚いた。
仲の良いアルデバラン兄弟は終生共にいると思っていたからだ。
「私は領地の為に外で経験を積んで参ります。
戻った暁には兄を影から支える所存。」
初めて口を開いたサムエルに考えを読まれたとミハエルは驚いた。
「お返事までお時間を頂きたい。」
ミハエルは瞳を閉じた。
使用人達の話を聞いてクロスの母であるエラ・アルデバランは驚いた。
「何処に行くの?」
「王都へ行き、軍に入隊されるようです。」
「それじゃ、クロスは・・・」
「クロス様は御屋敷に残り、領地経営の勉強に専念されるとか。」
淡々と話す使用人は陽が高くなっているカーテンを開き窓を開けた。
「旦那様が許したと?」
「そう聞いております。」
「アレが屋敷だけでなく、ダチュラをも出るのか・・・ハハハ
これで、正常に戻るのか・・・?
そうだ、戦で死に行けば私が手を下す必要もないわ!」
誰ともなく喜ぶエラを使用人達は冷めた目で見ていた。
寝衣から着替えもせずにフラフラっと部屋の外に出ると、息子達が笑いながら玄関を出ていく姿だった。
愛しい息子と笑顔で話しているアレをエラは睨みつけていた。
「いつも、そのような目でサムエルを見ていたのか?」
声がかけられ徐に視線を向ければ、夫であるゼスが立っていた。
「あの子は私の子だ。
受け入れろとは、もう言わん。
しかし、傷付けることは許さん。
私の2人の子は、既に親の私達から離れ自分達の未来を見据えている。
私達に出来る事は静かに見守るだけた。」
数年ぶりに目の合った夫婦はぎこちなくも見つめ合った。
夫の言葉に返事をするでもなければ頷くでもなくエラは静かに部屋に戻って行った。
「はぁ・・・。」
大きな溜息を吐くとゼスは自身の執務室に戻っていった。
この日、チェイス・リゲルの招きに応じてクロスとサムエルはリゲル伯爵家を訪問していた。
聞けば当主であるミハエル・リゲルが会いたいと言っているらしい。
特にクロスはミハエルの事を警戒していた為に、直接会う事に躊躇っていたが良い機会だと申し入れを受け入れた。
「やあ、よく来てくれたね。」
玄関まで迎え出たチェイスに挨拶をすると3人はミハエルの執務室に赴いた。
「これはこれは、ようこそお越し下さいました。」
相変わらず、感情の読めないミハエルはクロスとサムエルが姿を表すと笑顔で出迎えた。
「御当主からご招待いただいたのです。
当然、参ります。」
クロスの言葉にミハエルは苦笑した。
「ご足労いただきまして・・・。
どうぞ、お座りください。
最近はチェイスがお世話になっているようで、有難う存じます。」
「最近まで屋敷を出た事もない世間知らずです。
ご子息には多くの事を学ばせて頂いております。」
話すクロスの隣には微笑むサムエルがいた。
「お役に立っているようで何よりです。
さて・・・本日は、そろそろ何か聞きたい事がお有りではないかと思いお声掛けいたしました。」
何処か挑むようにクロスを見据えミハエルは微笑んだ。
「・・・そうですね。
答えていただけるのでしょうか?」
「御2人にはなんなりと。」
ミハエルの表情を見てクロスは覚悟を決めた。
「名家の主であるミハエル・リゲル殿が、何故我が父の遊興を止めず金銭を貸し出していたのでしょう。
事と次第によっては、領主を操る為と勘繰られてもおかしくありません。
我が父ながら、領主としての振る舞いに恥いる思いも致しますが誰か止めてくれなかったのかと悔しい思いをしています。」
クロスの言葉をまっすぐに受けたミハエルは静かに頷いた。
「私は御2人のお父上を幼少の頃よりも知っております。
孤島になりうる、この領地・・・街において彼の責任は重責であった。
ご兄弟のいないゼス様への周りの期待は、それはそれは重い物にございます。
私自身もリゲルという名の家名から逃げ出したいと何度思った事でしょう。
そして我らは知っておりました。
ゼス様が憂さ晴らしと共に仕事に満身していらっしゃるのを・・・。」
クロスは知っていた。
父が領地運営に尽力しているのを、外から帰ってくると日夜執務室に篭り仕事に励んでいた。
それは資料からも読み取れる事だった。
ミハエルは視線を落とすと息を吐いた。
「確かにアルデバラン家当主としても父親としても誉た方ではありません。
しかし、ゼス様が手につけられた金銭はアルデバラン家の財政のみで決してダチュラの運営費ではございません。
それに手をつけられる前に我らが捻出して参りました。
全てはダチュラの為にございます。」
「・・・成る程。
我ら兄弟はダチュラという街の犠牲になったのですね。」
クロスはミハエルの言い分に目の光を曇らせた。
「父上・・・。
ゼス様がダチュラの潤滑な運営に満身する。
素晴らしい事ではありますが、それは面倒な事をアルデバラン家に押し付けただけです。」
静かに聞いていたチェイスが眉を下げてミハエルを見ていた。
息子の言葉にミハエルは眉間にシワを寄せた。
「領地を守る。それが我らの仕事だ。
それ以上に勝るものはない。」
信じて疑わないミハエルも友人を助ける為に信じた道を歩んできたのだろう。
「ゼス様が屋敷を留守にしたアルデバラン家は地獄でした。
奥様であるエラ夫人の虐待と抑圧した教育に彼らは苦しんできた。
我らの幸せは彼らの犠牲の上に成り立っていた。
私は今、恥ずかしく思っています。
私は・・・彼らを友と呼ぶ資格がない。」
ミハエルは唖然としてクロスとサムエルを見比べた。
「虐待?」
「父も先日知った事です。
・・・いや、私達は知っていて止めなかったと思っていた。
何年も父は気づいてすらいなかった・・・。
貴方達が知るはずもない。」
鼻で笑うとクロスはミハエルを見つめた。
「領地を思ってした貴方達の考えは分かりました。
我らの犠牲だけで領地がうまく運営されていたのなら構いません。
しかし、我らの時代はそうはいかない。
チェイスを当主に据えて頂きたい。
私の領地運営に彼が必要です。
ご長男ピート殿は体を動かすのが得意なご様子。
我が弟が領地を出て王都の軍に入隊いたします。
共にピート殿を連れて行かせたい。
どうか、お考えを頂きたい。」
突然の提案にミハエルは驚いた。
まだ、2人が虐待されていたという事実についていけてないのにも関わらず、自身の後継問題に切り込んできた。
瞳を見れば冗談でない事が分かる。
ミハエルは気づいていた。
長男のピートには思慮深さが足りない。
乱暴な態度は人の心を閉ざすだけ。
弟のチェイスは要領もよく何を考えているか分からない奥深さがあった。
しかし、ピートの行く末を案じていたのも事実。
サムエルが領地を去ると知り尚のこと驚いた。
仲の良いアルデバラン兄弟は終生共にいると思っていたからだ。
「私は領地の為に外で経験を積んで参ります。
戻った暁には兄を影から支える所存。」
初めて口を開いたサムエルに考えを読まれたとミハエルは驚いた。
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