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おかしいキリン
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何というか、おかしい。友悠は思いきり沈んだ様子で思っていた。
いつからおかしいのかは、何となくわかっている。多分、ホラー映画鑑賞の時からだ。あの時颯一に手を握られて。それ以来おかしい気がする。
別にそれまでも何てことのない接触くらいいくらでもあった。それでもお互いノンケだし友人だし気にもとめてなかったというのに。
颯一が女の子だったら、などと想像してしまったせいなのだろうかと友悠はため息ついた。
男前のくせにところどころ馬鹿で無意識にかわいらしいことしてくる颯一は、実際女子だったら友悠は好きになっていたかもしれない。それでも現実ではどう逆立ちしても颯一は男だ。そして友悠は男に興味など全くもてないし、男同士なんて考えるのも無理だった。はず。
なのに朝、目に入ってくる颯一の寝顔を見ると顔にしまりがなくなりそうになる。学校へ向かうために着替え出す颯一に気づくと落ち着かなくなる。授業中居眠りをしている颯一や体育で駆けまわっている颯一についつい目がいく。お昼に相変わらず焼肉定食を飽きずに頼み、おいしそうに食べている颯一を苦笑しつつもかわいくてならないと思うし、放課後終わった終わったと言いながら気持ちよさげに伸びする颯一をまるで覗き見るように見てしまう。
「……俺、終わったかもしれない……」
「何が?」
ついボソリと呟いてしまった友悠の目の前に颯一の顔があった。
「うわ……っ」
思わず叫ぶと、友悠はそのまま飛び退った。
「うわって何だよ! 失礼だなー。そりゃともみたいにイケメンじゃねーし、かわいい女の子でもねーけど、飛び退るほどなの? 俺」
「あ、いや違……、ごめ、ちょっと考えごとしてたからびっくりして。悪い」
「ああ、終わったっつったもんな。何が終わったんだよ? 何かミスったんか?」
颯一が心配そうに聞いてくる。そんな颯一をやはりかわいいと思う自分は終わりだ。
いや、こんな風に変になる前から、この目の前の友人をたまに弟のようにかわいいと思ってはいた。だが明らかにそのかわいいと違う。
「……あ、っと、あれだよ、国語の小テストあっただろ、今日。あれでちょっとミスった気がしたから」
「ああ、何だ、そんなことかよ。んなことで落ち込むなよ、とも。それ言うなら俺ミスしかしてねーよ、いつも」
パッと思いついたことを友悠が言うと、颯一はホッとしたような顔を見せてきた後に呆れたように言ってくる。そんな颯一にほっこりとしながら、だがあえて笑いながらも厳しいことを言う。
「そうはもうちょっとテストに集中すべきなんじゃない?」
「え、やってるよ? 俺やってるって! 集中さあ。でもさ、集中しても答えわからんかったら気も逸れるだろ」
「あはは、まあそりゃそうだけどさ」
「もうちょっと頭よくなりたかったなー」
「……そうは別に頭悪いんじゃないだろ。ただ単に勉強が嫌いだからじゃないか。この間のテスト前にゲームしてたの俺知ってるけど?」
「ぅ……。だって! 仕方ねーじゃん、ゲームがさ、その、つい、な……」
痛いところを突かれた、と颯一がばつが悪そうに友悠を見上げてきた。
意識って、怖い。
友悠は初めて思った。今まで何とも思っていなかったら見えない、ある意味幻覚が見えてくる。
友悠の方が背が高いので見上げたが、ばつ悪いせいでたまたま上目遣い気味になっただけというのは理性ではわかる。理性では。
理性しかなかった俺、戻ってこいよ。
友悠はそっと涙を飲んだ。
「ま、まあとりあえず勉強でわからないところは俺が教えるし、いつでも聞いてくれたらいいよ」
「おう、わかった! サンキュー」
颯一がニッコリした後で友悠の肩をポンと叩き、向こうへ行った。たったそれだけのことなのに胸が苦しい。これはもう、一種のウィルスかもしれない。
友悠はキュッと目を瞑って思った。そのままバスルームへ向かった颯一をぼんやり見た後で、友悠はベッドに座り考える。
……馬見塚さんて、こういうのを見越してたのかな……。
ただやみくもに颯一の周りを払っているように思えていたが、違うのかもしれない。
確かに普段から颯一の傍にいる友悠を見る度に「死ね」などと言ってきてはいたが、実際暴力を振わりたり力ずくで排除されたことはない。実際に颯一へちょっかいかけている相手は、見つかり次第速攻で排除されていた。
友悠に対しては颯一のただ単に友人でクラスメイトでそしてルームメイトだとわかっているからこそ、無理やり引き離そうとはしてこなかったのだろうかと友悠は思った。ただ牽制は絶えずしていただけで。そしてその牽制にも関わらず、友悠はおかしなことになってしまっている。
自分のこのおかしな気持ちが渉にバレたらと思うと、既にもう胃がキリキリと痛んだ。もう血を吐きそうな勢いで恐ろしい。
想像を絶する修羅場はごめんだ。だいたい男は無理なのに、どうすりゃいいんだ。
友悠はまたため息ついた。
山本先輩に相談してみようかな……。
とりあえずは、意識しないようがんばろうと、決意を新たにし、友悠はぐっと自分の左手を握りしめた。
その時シャワー室がガチャリと開く音がする。もう出るのかな、やたら早いなと思っていると、颯一が素っ裸のまま体を乗り出してきた。
「ともー、石鹸切れてたわ! 新しいのあったよな確か。ちょ、取ってくれねぇ?」
途端友悠は床に沈んだ。
「ともー?」
意識なんてしたくないし、何ともない方向で行きたい。
だから警戒心全くないままそういうことしてくるの、止めて欲しい……!
今までも何度か颯一の裸くらい見たことある友悠は、だが心の底からそう思っていた。颯一が裸でいても引くだけだと思っていたのに、今や熱くなる顔をごまかすのに精一杯だ。
友悠は渋々石鹸を置いてある場所に探しに行った。
いつからおかしいのかは、何となくわかっている。多分、ホラー映画鑑賞の時からだ。あの時颯一に手を握られて。それ以来おかしい気がする。
別にそれまでも何てことのない接触くらいいくらでもあった。それでもお互いノンケだし友人だし気にもとめてなかったというのに。
颯一が女の子だったら、などと想像してしまったせいなのだろうかと友悠はため息ついた。
男前のくせにところどころ馬鹿で無意識にかわいらしいことしてくる颯一は、実際女子だったら友悠は好きになっていたかもしれない。それでも現実ではどう逆立ちしても颯一は男だ。そして友悠は男に興味など全くもてないし、男同士なんて考えるのも無理だった。はず。
なのに朝、目に入ってくる颯一の寝顔を見ると顔にしまりがなくなりそうになる。学校へ向かうために着替え出す颯一に気づくと落ち着かなくなる。授業中居眠りをしている颯一や体育で駆けまわっている颯一についつい目がいく。お昼に相変わらず焼肉定食を飽きずに頼み、おいしそうに食べている颯一を苦笑しつつもかわいくてならないと思うし、放課後終わった終わったと言いながら気持ちよさげに伸びする颯一をまるで覗き見るように見てしまう。
「……俺、終わったかもしれない……」
「何が?」
ついボソリと呟いてしまった友悠の目の前に颯一の顔があった。
「うわ……っ」
思わず叫ぶと、友悠はそのまま飛び退った。
「うわって何だよ! 失礼だなー。そりゃともみたいにイケメンじゃねーし、かわいい女の子でもねーけど、飛び退るほどなの? 俺」
「あ、いや違……、ごめ、ちょっと考えごとしてたからびっくりして。悪い」
「ああ、終わったっつったもんな。何が終わったんだよ? 何かミスったんか?」
颯一が心配そうに聞いてくる。そんな颯一をやはりかわいいと思う自分は終わりだ。
いや、こんな風に変になる前から、この目の前の友人をたまに弟のようにかわいいと思ってはいた。だが明らかにそのかわいいと違う。
「……あ、っと、あれだよ、国語の小テストあっただろ、今日。あれでちょっとミスった気がしたから」
「ああ、何だ、そんなことかよ。んなことで落ち込むなよ、とも。それ言うなら俺ミスしかしてねーよ、いつも」
パッと思いついたことを友悠が言うと、颯一はホッとしたような顔を見せてきた後に呆れたように言ってくる。そんな颯一にほっこりとしながら、だがあえて笑いながらも厳しいことを言う。
「そうはもうちょっとテストに集中すべきなんじゃない?」
「え、やってるよ? 俺やってるって! 集中さあ。でもさ、集中しても答えわからんかったら気も逸れるだろ」
「あはは、まあそりゃそうだけどさ」
「もうちょっと頭よくなりたかったなー」
「……そうは別に頭悪いんじゃないだろ。ただ単に勉強が嫌いだからじゃないか。この間のテスト前にゲームしてたの俺知ってるけど?」
「ぅ……。だって! 仕方ねーじゃん、ゲームがさ、その、つい、な……」
痛いところを突かれた、と颯一がばつが悪そうに友悠を見上げてきた。
意識って、怖い。
友悠は初めて思った。今まで何とも思っていなかったら見えない、ある意味幻覚が見えてくる。
友悠の方が背が高いので見上げたが、ばつ悪いせいでたまたま上目遣い気味になっただけというのは理性ではわかる。理性では。
理性しかなかった俺、戻ってこいよ。
友悠はそっと涙を飲んだ。
「ま、まあとりあえず勉強でわからないところは俺が教えるし、いつでも聞いてくれたらいいよ」
「おう、わかった! サンキュー」
颯一がニッコリした後で友悠の肩をポンと叩き、向こうへ行った。たったそれだけのことなのに胸が苦しい。これはもう、一種のウィルスかもしれない。
友悠はキュッと目を瞑って思った。そのままバスルームへ向かった颯一をぼんやり見た後で、友悠はベッドに座り考える。
……馬見塚さんて、こういうのを見越してたのかな……。
ただやみくもに颯一の周りを払っているように思えていたが、違うのかもしれない。
確かに普段から颯一の傍にいる友悠を見る度に「死ね」などと言ってきてはいたが、実際暴力を振わりたり力ずくで排除されたことはない。実際に颯一へちょっかいかけている相手は、見つかり次第速攻で排除されていた。
友悠に対しては颯一のただ単に友人でクラスメイトでそしてルームメイトだとわかっているからこそ、無理やり引き離そうとはしてこなかったのだろうかと友悠は思った。ただ牽制は絶えずしていただけで。そしてその牽制にも関わらず、友悠はおかしなことになってしまっている。
自分のこのおかしな気持ちが渉にバレたらと思うと、既にもう胃がキリキリと痛んだ。もう血を吐きそうな勢いで恐ろしい。
想像を絶する修羅場はごめんだ。だいたい男は無理なのに、どうすりゃいいんだ。
友悠はまたため息ついた。
山本先輩に相談してみようかな……。
とりあえずは、意識しないようがんばろうと、決意を新たにし、友悠はぐっと自分の左手を握りしめた。
その時シャワー室がガチャリと開く音がする。もう出るのかな、やたら早いなと思っていると、颯一が素っ裸のまま体を乗り出してきた。
「ともー、石鹸切れてたわ! 新しいのあったよな確か。ちょ、取ってくれねぇ?」
途端友悠は床に沈んだ。
「ともー?」
意識なんてしたくないし、何ともない方向で行きたい。
だから警戒心全くないままそういうことしてくるの、止めて欲しい……!
今までも何度か颯一の裸くらい見たことある友悠は、だが心の底からそう思っていた。颯一が裸でいても引くだけだと思っていたのに、今や熱くなる顔をごまかすのに精一杯だ。
友悠は渋々石鹸を置いてある場所に探しに行った。
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