8 / 44
豹のファーストキス
しおりを挟む
昼休み、颯一はぼんやりと自分の席に座っていた。昨夜、友だちから借りたゲームをやってつい寝るのが遅くなり、今とても眠かった。
「なあ込谷て童貞なんだろ」
そんな颯一にクラスメイトがおかしげに聞いてきた。
「……何だよいきなり。藪から棒に失礼すぎるだろ……」
眠さでぼんやりしていた脳がほんのり覚醒しつつ、颯一は友人をジロリと睨む。
「あはは、だってこないだ例の先輩に言われてたじゃん、食堂で。聞こえてきたのん、ふと今思い出して何気に聞いてみた」
「……ぐ。……ていうか聞こえてたんならあえてまた俺に確認する必要ねーだろ……!」
ほんっとあの変態め、と颯一が頬を赤らめとてつもなく嫌な顔していると、友人はまた笑ってきた。
「別にそんな気にすることねーじゃん。俺だって童貞だっつーの」
「え、マジで?」
途端颯一はキラキラした目を友人へ向ける。ある意味早くもこの学校に染まっていたのか、颯一にとって皆はやたら経験者のような気がしていた。
……男と、だけれどもさ。男と経験するくらいなら永遠の妖精でいいとすら思っているけれどもさ。
いや嘘です、永遠の妖精は嫌だ、せめて大人になったらでいいんで経験したい。
「おい、何か知らねぇけど帰ってこいよ」
いつのまにやら眠気も相まってそう考えていた颯一に、友人が微妙な顔をして言っている。
「な、何だよ。ていうかホント? お前も童貞なの?」
「まあな。でもこないだ彼女できたから言ってるうちかもなー」
「よし、死ね」
「ひでぇな。お前も作りゃーいーじゃん」
颯一はむっと友人を睨んだ。その際に改めてその友人の顔を見たが、可もなく不可もなくといった顔をしている。
「そう簡単に作れたら今頃俺だってバラ色の人生謳歌してんだよ。何でお前にいるのに俺にいねーんだ」
「お前が平凡そうだからじゃねーか?」
「っくそ、お前もじゃん! ともが言うならまだしもお前に言われたくはねーよ!」
その友悠は颯一の後ろの席で別の友人と話していたが、颯一の声を聞いて苦笑している。
「でも俺には彼女いるし、お前にはいねーだろ。あ、そっか、ごめん、先輩がいたな」
「……っやめてもろて! あの変態の存在を出すな……。何でアレ出してくんだよマジやめてあげて」
颯一は顔色を青くしながら必死になって首を振る。そんな様子をプッと吹き出しながら見た後で、友人が「そうだ」と頷いてきた。
「あれだ、キスくらいなら経験あんだろ?」
キス「くらい」? キスはそんな程度のものなのか……?
ドラマなどで男女が唇を合わせているのを見て思わず自分の唇をつきだしそうになったり枕でちょっと試してみたことのある勢いの俺は。
そんなこと考えながら颯一は思い出した。そしてすさまじい勢いで頷く。
「っある! あるよそれくらい、ある!」
「え、あんの……?」
途端怪訝そうな声がして颯一こそ怪訝な様子で振り向く。
「……とも?」
「あ、いや」
すると友悠がばつが悪そうな顔をして目をそらした。
「ていうか、マジで? 誰? 誰? まあ込谷ならこの学校じゃねぇよな、どんな子だったん? かわいい子?」
友人は驚きつつ楽しげに聞いてきた。颯一は顔を赤らめつつ、呟くように言う。
「……き、近所のゆかりちゃん……?」
「誰だよ近所のゆかりちゃん! 近所にそんなヤツいたかっ?」
「いきなり出てくんな!」
頭上から唐突に言われたのに対し、颯一はもはや慣れた勢いでツッコミを入れた。それからジロリと声のした方を見る。友人は「おおぅ」と声をあげ、友悠に至っては既に胃の辺りを押さえている。
「だって仕方ないだろ。そうちゃんが気になることをだな! いや、とにかく、ゆかりちゃん誰だ? 近所にそんなヤツいた記憶がないんだが……」
睨まれても気にした様子もなく、颯一と友悠の悩みの種である渉が唐突に現れ、真剣な様子で颯一の肩をつかんで聞いてきた。クラス内では今さら特に驚いた様子もなく、そんな渉を憧れの目で見るか微妙な目で見ている。
「俺に触れんな。離せ変態!」
「ひどいな、そうちゃん。そしてゆかりちゃんについて言わないのなら、もっと酷く触れるぞ?」
酷くって、何……!
颯一は次の瞬間には正直に語っていた。
「すげーかわいい女の子……そ、その……い、今は多分もう五歳に、なってる……」
それを聞いた友人も友悠も「ああ……」と生ぬるい目で、いや、暖かい目で颯一を見てきた。
当時中学二年だった颯一に、とても懐いてくれていた近所の凄くかわいらしい三歳の女の子、ゆかりちゃんはおませさんだった。颯一が好きだといつも言ってくれ、抱っこをせがんでくる。そんなある日、抱き上げた際に「そーちゃ、しゅきー」と不意打ちでチュッとやられたのだ。
「ちゅ、中学二年の春でした……。俺のファーストキスはイチゴ飴の味とよだれ味、というか、その、何ていうか……」
「込谷……いいよ、もう、いい……」
友人が痛々しげな表情で言ってくるのを、颯一はさらに痛々しい思いで受ける。友悠は「確かにそうって小さい子どもに好かれそう。……ていうか対等な扱い受けそう」などと呟きながらそっと苦笑していた。
「ゆかりちゃんめ……! 俺のそうちゃんの大事なファーストキスを……! 許すまじ。だが仕方ない。あれだな、セカンドキスはじゃあ俺と……」
一人、渉だけが怒り心頭で友悠や颯一をドン引きさせてくる。
「何でそーなるんだよ……!」
「そうちゃんとセカンドキス、か……。うん、それはやっぱ大事な初夜で、だな!」
「何言ってんだよ……っていうかそこで赤くなるなよ……! マジお前近寄んなよ、マジで消えてくれよ!」
颯一は悲鳴にも近い勢いで叫び、そして友悠の後ろに隠れる。結果、またいつものように渉は友悠に怒り、そして友悠のいたいけな胃をじわじわと痛めつけていた。
「なあ込谷て童貞なんだろ」
そんな颯一にクラスメイトがおかしげに聞いてきた。
「……何だよいきなり。藪から棒に失礼すぎるだろ……」
眠さでぼんやりしていた脳がほんのり覚醒しつつ、颯一は友人をジロリと睨む。
「あはは、だってこないだ例の先輩に言われてたじゃん、食堂で。聞こえてきたのん、ふと今思い出して何気に聞いてみた」
「……ぐ。……ていうか聞こえてたんならあえてまた俺に確認する必要ねーだろ……!」
ほんっとあの変態め、と颯一が頬を赤らめとてつもなく嫌な顔していると、友人はまた笑ってきた。
「別にそんな気にすることねーじゃん。俺だって童貞だっつーの」
「え、マジで?」
途端颯一はキラキラした目を友人へ向ける。ある意味早くもこの学校に染まっていたのか、颯一にとって皆はやたら経験者のような気がしていた。
……男と、だけれどもさ。男と経験するくらいなら永遠の妖精でいいとすら思っているけれどもさ。
いや嘘です、永遠の妖精は嫌だ、せめて大人になったらでいいんで経験したい。
「おい、何か知らねぇけど帰ってこいよ」
いつのまにやら眠気も相まってそう考えていた颯一に、友人が微妙な顔をして言っている。
「な、何だよ。ていうかホント? お前も童貞なの?」
「まあな。でもこないだ彼女できたから言ってるうちかもなー」
「よし、死ね」
「ひでぇな。お前も作りゃーいーじゃん」
颯一はむっと友人を睨んだ。その際に改めてその友人の顔を見たが、可もなく不可もなくといった顔をしている。
「そう簡単に作れたら今頃俺だってバラ色の人生謳歌してんだよ。何でお前にいるのに俺にいねーんだ」
「お前が平凡そうだからじゃねーか?」
「っくそ、お前もじゃん! ともが言うならまだしもお前に言われたくはねーよ!」
その友悠は颯一の後ろの席で別の友人と話していたが、颯一の声を聞いて苦笑している。
「でも俺には彼女いるし、お前にはいねーだろ。あ、そっか、ごめん、先輩がいたな」
「……っやめてもろて! あの変態の存在を出すな……。何でアレ出してくんだよマジやめてあげて」
颯一は顔色を青くしながら必死になって首を振る。そんな様子をプッと吹き出しながら見た後で、友人が「そうだ」と頷いてきた。
「あれだ、キスくらいなら経験あんだろ?」
キス「くらい」? キスはそんな程度のものなのか……?
ドラマなどで男女が唇を合わせているのを見て思わず自分の唇をつきだしそうになったり枕でちょっと試してみたことのある勢いの俺は。
そんなこと考えながら颯一は思い出した。そしてすさまじい勢いで頷く。
「っある! あるよそれくらい、ある!」
「え、あんの……?」
途端怪訝そうな声がして颯一こそ怪訝な様子で振り向く。
「……とも?」
「あ、いや」
すると友悠がばつが悪そうな顔をして目をそらした。
「ていうか、マジで? 誰? 誰? まあ込谷ならこの学校じゃねぇよな、どんな子だったん? かわいい子?」
友人は驚きつつ楽しげに聞いてきた。颯一は顔を赤らめつつ、呟くように言う。
「……き、近所のゆかりちゃん……?」
「誰だよ近所のゆかりちゃん! 近所にそんなヤツいたかっ?」
「いきなり出てくんな!」
頭上から唐突に言われたのに対し、颯一はもはや慣れた勢いでツッコミを入れた。それからジロリと声のした方を見る。友人は「おおぅ」と声をあげ、友悠に至っては既に胃の辺りを押さえている。
「だって仕方ないだろ。そうちゃんが気になることをだな! いや、とにかく、ゆかりちゃん誰だ? 近所にそんなヤツいた記憶がないんだが……」
睨まれても気にした様子もなく、颯一と友悠の悩みの種である渉が唐突に現れ、真剣な様子で颯一の肩をつかんで聞いてきた。クラス内では今さら特に驚いた様子もなく、そんな渉を憧れの目で見るか微妙な目で見ている。
「俺に触れんな。離せ変態!」
「ひどいな、そうちゃん。そしてゆかりちゃんについて言わないのなら、もっと酷く触れるぞ?」
酷くって、何……!
颯一は次の瞬間には正直に語っていた。
「すげーかわいい女の子……そ、その……い、今は多分もう五歳に、なってる……」
それを聞いた友人も友悠も「ああ……」と生ぬるい目で、いや、暖かい目で颯一を見てきた。
当時中学二年だった颯一に、とても懐いてくれていた近所の凄くかわいらしい三歳の女の子、ゆかりちゃんはおませさんだった。颯一が好きだといつも言ってくれ、抱っこをせがんでくる。そんなある日、抱き上げた際に「そーちゃ、しゅきー」と不意打ちでチュッとやられたのだ。
「ちゅ、中学二年の春でした……。俺のファーストキスはイチゴ飴の味とよだれ味、というか、その、何ていうか……」
「込谷……いいよ、もう、いい……」
友人が痛々しげな表情で言ってくるのを、颯一はさらに痛々しい思いで受ける。友悠は「確かにそうって小さい子どもに好かれそう。……ていうか対等な扱い受けそう」などと呟きながらそっと苦笑していた。
「ゆかりちゃんめ……! 俺のそうちゃんの大事なファーストキスを……! 許すまじ。だが仕方ない。あれだな、セカンドキスはじゃあ俺と……」
一人、渉だけが怒り心頭で友悠や颯一をドン引きさせてくる。
「何でそーなるんだよ……!」
「そうちゃんとセカンドキス、か……。うん、それはやっぱ大事な初夜で、だな!」
「何言ってんだよ……っていうかそこで赤くなるなよ……! マジお前近寄んなよ、マジで消えてくれよ!」
颯一は悲鳴にも近い勢いで叫び、そして友悠の後ろに隠れる。結果、またいつものように渉は友悠に怒り、そして友悠のいたいけな胃をじわじわと痛めつけていた。
0
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される
八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。
蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。
リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。
ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい……
スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
義兄が溺愛してきます
ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。
その翌日からだ。
義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。
翔は恋に好意を寄せているのだった。
本人はその事を知るよしもない。
その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。
成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。
翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。
すれ違う思いは交わるのか─────。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる