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気にしない虎
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「おい、馬見塚。お前授業中しょっちゅう消えてるらしいけど、まさか相変わらず一年のクラスに行ってんじゃないだろうな」
渉が移動している時に、別の教室から顔をのぞかせた晃二がそう声をかけてきた。
「まさかとは何だ。まさしくその通りだが?」
渉が堂々と頷くと、呆れたように見てくる。
「何で堂々としてんだよ。お前サボってんの自覚あんのか? ったく。一年やら周りに迷惑はかけるなよ」
「俺は迷惑かけているつもりはないぞ? 授業だって大人しく聞いてるしな」
「……あ、そう」
さらに呆れられたような気がしつつも、渉はかまわず一年の教室へ向かって行った。そして颯一のクラスへ来ると、丁度颯一が聞き捨てならないことを言っていた。咎めると「消えろ」などと言われる。
全くもって納得いかないと渉は首を傾げつつも、颯一との初夜で迎えるキスに思い馳せていたら授業が始まるチャイムが鳴った。そのため空いている席へ着席する。
「また! 何でそう当たり前に座るんだ……」
颯一が言っているが、渉にしてみれば至極簡単なことだ。颯一の傍にいたいし、授業のチャイムが鳴ったから席に着いた。それだけのことだった。
教師が入ってきて渉を見てきたが、特に何も言わない。最初の頃は様々な先生に「出席をとりま……って君は二年生だろうが。早く戻りなさい」などと言われていたが、教師たちも早々に諦めたようだ。
「……であるから……、て馬見塚まだいたのか。いい加減帰れよ。ここで授業受けても先生単位やらんからなー」
たまにこのように、ふと思い出したかのように言ってくることもある。
「先生、俺はここで立派に復習という勉強をしているんです。そして友人、お前は死ね」
教師に向かって意見を述べた後、渉はジロリと友悠を睨んだ。
「ええ? いきなり……?」
「何言ってんだお前がくたばれよ……!」
友悠が困ったような声をあげた後に颯一がムッとして渉に言い返した。
「……で、こうなるわけだ。わかったか? 今の内容、テストに出すからな」
先生、とてつもなくスルーしてきたな。
多分渉以外のクラス全員が一斉に今そう思っているだろう。
「じゃあ次の問題な。えーと、誰かに前で解いてもらおうか……」
先生が名簿と見合わせながら教室を見渡す。無駄に見まわした後、ため息をついた。
「……馬見塚。手をあげても先生あてんぞ」
「あ、そうなんですか? 出席番号順でしたか」
渉は姿勢を正した状態でスッとあげていた手を下ろした。
「そういう問題じゃないぞー。お前は去年習っただろ。なのにお前がするとかなんかズルだろうが」
「あ、そうですね」
先生こそそういう問題なのか……?
また多分渉以外のクラス全員が一斉につっこんだだろうと思われた。
「お前のせいで授業やら何やら遅れる勢いだよ! くそ、ただでさえ俺あんま成績よくないってのに責任とれよ馬鹿」
授業がようやく終わった後、颯一が真っ赤な顔で渉の元へやってきた。それを見ている周りは「ああ、怒っているな」とすぐわかったようだが、渉の目には照れて赤くなっている颯一しか見えなかった。
「そうちゃん、そんなに真っ赤になって……そ、それはまさかプロポー……」
「まさかだわ馬鹿! 何で男の俺がお前に結婚申し込むんだよおかしいだろうが!」
「そんなに照れなくともいいんだよ、そうちゃん。別に俺は将来の嫁が積極的であっても全然問題ない」
「お前自身が色々問題なんだよ……! だいたい何で俺が嫁なんだよふざけんな!」
颯一は最早目に涙を浮かべる勢いで言ってきた。これも周りからしてみれば、凄い剣幕で怒り否定しているせいで興奮して涙目になっているのだろうなと把握でき韮た。だが渉の目には、恥ずかしすぎて涙目になる勢いの颯一に見えた。
「そうちゃん……」
渉はそっと手を伸ばし、そのまま颯一を抱きしめる。
「恥ずかしがらなくてもいいんだよ」
颯一はビクリと体を震わせた。かわいいなぁと渉が思っていたら、なぜかいきなりボディーブローを食らった。
「ぐ……。……痛いじゃないか……」
「っ当たり前だ馬鹿! 痛いように殴ったんだよ何しやがる! ほんっとお前もう、なんていうかもう……!」
渉にしてみれば颯一が感極まっているように見えるのだが、そのためますます颯一がなぜボディーブローを食らわしてきたのか謎だった。だがその後、照れ隠しなのだろうと納得する。
「本当にそうちゃんは恥ずかしがり屋さんだな。そういうそうちゃんもかわいいからいいぞ。おい友人。いくらそうちゃんがかわいいからって妙なことしでかしたら俺がただじゃおかんからな」
「何でそういう発想になるんだよ……!」
「本当に何でそうなるんですか……」
颯一は憤慨し、友悠は胃を押さえている。渉はそんな二人に「何がだ」と首を傾げた。
「まあ、いい。とりあえず俺は自分のクラスへ行くよ、そうちゃん。名残惜しいがまた後でな」
そうして後ろで何やら言っている颯一にニッコリ手を振ると、渉は教室を出て颯爽と廊下を歩き出す。周りが何やら騒がしいのはいつものことだし、休み時間に騒がしいのは悪いことではないと思われるので特に気にしない。
実際騒がしいのは渉が歩いているのを見て騒いでいる生徒たちのせいなのだが、渉自身はそういったことに無頓着なので気づいていなかった。
歩いていると途中でトイレへ行きたくなり、普段使っていない場所だが立ち寄った。すると中で何人かの男子が一人の男子を囲って何やら言っている。
「何やっているんだ?」
「あ? てめーには関係ねぇんだよ」
「消えろ」
渉が普通に質問したというのにどうも口が悪い。おまけに覗きこむと、囲まれている生徒は怯えたように泣いている。
「確かに関係ないかもしれないが、どう見てもそいつは危害を受けている様子だろう。そんな状態、見過ごしておけないだろうが」
淡々と答えると、泣いている生徒を囲んでいた幾人かの生徒が渉の方を一斉に見る。
「何だてめぇ? 馬鹿じゃねぇの?」
「いくら背があるからってな、この人数でどうしようってんだ? ていうかその整った顔がムカつくなぁ」
「お前も俺らと遊びてぇのか?」
そんなことを口々に言いながら詰めより、一人が渉につかみかかろうとした。渉は反撃せずにそのまま相手に胸倉をつかませた。
「んだ、こいつ。反撃もできねえでやんの。弱ぇくせに格好ばっかか」
つかんだ相手は笑ってそう言った次の瞬間にはトイレの床に沈められていた。
「先に手を出したのはそいつだ。俺は出された手を払っただけだ。そしてケンカはあまり頂けないな。どうしてもしないと気が済まないというなら、民事訴訟の口頭弁論のように口での攻撃防御を勧める」
「……っこいつ何言ってんだ……? ふざけん……っいってぇ……っ」
別の一人が殴りかかろうとしてきたのを避けると、渉はその伸びてきた手をつかみ、相手の後ろ手に捻る。
「痛いか? すまないな。とりあえず意味のわからない暴力は言葉であろうが身体であろうが俺は許さん。まあお前らが俺の嫁に何かしてきた時はそれに当てはまらないが。っとすまない、気づかなかった、あなた方は三年の先輩でしたか。とりあえず先輩であろうが後輩であろうが何かあるならきちんと筋道のたった話し合いをすべきです」
「こいつ、何かおかしいんじゃねぇの……」
「おい、今気づいたが、こいつ、二年の馬見塚じゃねぇの……?」
渉が誰であるかに、一人が気づいた途端全員が青い顔をして渉を見てきた。
「……何だ……?」
「い、いや! わかった。よく、わかった。だからもう、忘れてくれ。あれだ、こいつにも何もしねぇし! じゃ、じゃあな!」
渉は見た目や成績などでモテており有名なだけではなく、腕っぷしも強いというのは割と全学年を通じて知れ渡っていた。腕を捻られていた者も、床に倒された者も、そしてまだ何もされていなかった者たちも、慌てたようにトイレから一斉に去っていった。
「……何なんだ?」
「あ、あの……」
ポカンと渉が出入口を見ていると声をかけられた。見ると囲まれて泣いていた生徒が真っ赤な顔をして渉を見ている。
「あ、ありがとうございました……。やっぱりあの憧れの馬見塚さんだったんですね、どうりで……。本当にありが……」
「すまない、俺はトイレに入らなければならないんだ。じゃあな」
憧れを持たれている生徒を気にした様子もなく、渉は淡々と言ってのけるとそのままトイレの個室へ入って行く。人がいようがいまいが個室へ入るも気にならないし、どう思われようがそれも気にならなかった。
だがそんな渉ではあるが、基本的には憧れから好きに変わる生徒を増やすだけだった。まさかドアの向こうで熱い視線を向けられているなどと思いもせず、渉は心おきなくズボンを緩めた。
渉が移動している時に、別の教室から顔をのぞかせた晃二がそう声をかけてきた。
「まさかとは何だ。まさしくその通りだが?」
渉が堂々と頷くと、呆れたように見てくる。
「何で堂々としてんだよ。お前サボってんの自覚あんのか? ったく。一年やら周りに迷惑はかけるなよ」
「俺は迷惑かけているつもりはないぞ? 授業だって大人しく聞いてるしな」
「……あ、そう」
さらに呆れられたような気がしつつも、渉はかまわず一年の教室へ向かって行った。そして颯一のクラスへ来ると、丁度颯一が聞き捨てならないことを言っていた。咎めると「消えろ」などと言われる。
全くもって納得いかないと渉は首を傾げつつも、颯一との初夜で迎えるキスに思い馳せていたら授業が始まるチャイムが鳴った。そのため空いている席へ着席する。
「また! 何でそう当たり前に座るんだ……」
颯一が言っているが、渉にしてみれば至極簡単なことだ。颯一の傍にいたいし、授業のチャイムが鳴ったから席に着いた。それだけのことだった。
教師が入ってきて渉を見てきたが、特に何も言わない。最初の頃は様々な先生に「出席をとりま……って君は二年生だろうが。早く戻りなさい」などと言われていたが、教師たちも早々に諦めたようだ。
「……であるから……、て馬見塚まだいたのか。いい加減帰れよ。ここで授業受けても先生単位やらんからなー」
たまにこのように、ふと思い出したかのように言ってくることもある。
「先生、俺はここで立派に復習という勉強をしているんです。そして友人、お前は死ね」
教師に向かって意見を述べた後、渉はジロリと友悠を睨んだ。
「ええ? いきなり……?」
「何言ってんだお前がくたばれよ……!」
友悠が困ったような声をあげた後に颯一がムッとして渉に言い返した。
「……で、こうなるわけだ。わかったか? 今の内容、テストに出すからな」
先生、とてつもなくスルーしてきたな。
多分渉以外のクラス全員が一斉に今そう思っているだろう。
「じゃあ次の問題な。えーと、誰かに前で解いてもらおうか……」
先生が名簿と見合わせながら教室を見渡す。無駄に見まわした後、ため息をついた。
「……馬見塚。手をあげても先生あてんぞ」
「あ、そうなんですか? 出席番号順でしたか」
渉は姿勢を正した状態でスッとあげていた手を下ろした。
「そういう問題じゃないぞー。お前は去年習っただろ。なのにお前がするとかなんかズルだろうが」
「あ、そうですね」
先生こそそういう問題なのか……?
また多分渉以外のクラス全員が一斉につっこんだだろうと思われた。
「お前のせいで授業やら何やら遅れる勢いだよ! くそ、ただでさえ俺あんま成績よくないってのに責任とれよ馬鹿」
授業がようやく終わった後、颯一が真っ赤な顔で渉の元へやってきた。それを見ている周りは「ああ、怒っているな」とすぐわかったようだが、渉の目には照れて赤くなっている颯一しか見えなかった。
「そうちゃん、そんなに真っ赤になって……そ、それはまさかプロポー……」
「まさかだわ馬鹿! 何で男の俺がお前に結婚申し込むんだよおかしいだろうが!」
「そんなに照れなくともいいんだよ、そうちゃん。別に俺は将来の嫁が積極的であっても全然問題ない」
「お前自身が色々問題なんだよ……! だいたい何で俺が嫁なんだよふざけんな!」
颯一は最早目に涙を浮かべる勢いで言ってきた。これも周りからしてみれば、凄い剣幕で怒り否定しているせいで興奮して涙目になっているのだろうなと把握でき韮た。だが渉の目には、恥ずかしすぎて涙目になる勢いの颯一に見えた。
「そうちゃん……」
渉はそっと手を伸ばし、そのまま颯一を抱きしめる。
「恥ずかしがらなくてもいいんだよ」
颯一はビクリと体を震わせた。かわいいなぁと渉が思っていたら、なぜかいきなりボディーブローを食らった。
「ぐ……。……痛いじゃないか……」
「っ当たり前だ馬鹿! 痛いように殴ったんだよ何しやがる! ほんっとお前もう、なんていうかもう……!」
渉にしてみれば颯一が感極まっているように見えるのだが、そのためますます颯一がなぜボディーブローを食らわしてきたのか謎だった。だがその後、照れ隠しなのだろうと納得する。
「本当にそうちゃんは恥ずかしがり屋さんだな。そういうそうちゃんもかわいいからいいぞ。おい友人。いくらそうちゃんがかわいいからって妙なことしでかしたら俺がただじゃおかんからな」
「何でそういう発想になるんだよ……!」
「本当に何でそうなるんですか……」
颯一は憤慨し、友悠は胃を押さえている。渉はそんな二人に「何がだ」と首を傾げた。
「まあ、いい。とりあえず俺は自分のクラスへ行くよ、そうちゃん。名残惜しいがまた後でな」
そうして後ろで何やら言っている颯一にニッコリ手を振ると、渉は教室を出て颯爽と廊下を歩き出す。周りが何やら騒がしいのはいつものことだし、休み時間に騒がしいのは悪いことではないと思われるので特に気にしない。
実際騒がしいのは渉が歩いているのを見て騒いでいる生徒たちのせいなのだが、渉自身はそういったことに無頓着なので気づいていなかった。
歩いていると途中でトイレへ行きたくなり、普段使っていない場所だが立ち寄った。すると中で何人かの男子が一人の男子を囲って何やら言っている。
「何やっているんだ?」
「あ? てめーには関係ねぇんだよ」
「消えろ」
渉が普通に質問したというのにどうも口が悪い。おまけに覗きこむと、囲まれている生徒は怯えたように泣いている。
「確かに関係ないかもしれないが、どう見てもそいつは危害を受けている様子だろう。そんな状態、見過ごしておけないだろうが」
淡々と答えると、泣いている生徒を囲んでいた幾人かの生徒が渉の方を一斉に見る。
「何だてめぇ? 馬鹿じゃねぇの?」
「いくら背があるからってな、この人数でどうしようってんだ? ていうかその整った顔がムカつくなぁ」
「お前も俺らと遊びてぇのか?」
そんなことを口々に言いながら詰めより、一人が渉につかみかかろうとした。渉は反撃せずにそのまま相手に胸倉をつかませた。
「んだ、こいつ。反撃もできねえでやんの。弱ぇくせに格好ばっかか」
つかんだ相手は笑ってそう言った次の瞬間にはトイレの床に沈められていた。
「先に手を出したのはそいつだ。俺は出された手を払っただけだ。そしてケンカはあまり頂けないな。どうしてもしないと気が済まないというなら、民事訴訟の口頭弁論のように口での攻撃防御を勧める」
「……っこいつ何言ってんだ……? ふざけん……っいってぇ……っ」
別の一人が殴りかかろうとしてきたのを避けると、渉はその伸びてきた手をつかみ、相手の後ろ手に捻る。
「痛いか? すまないな。とりあえず意味のわからない暴力は言葉であろうが身体であろうが俺は許さん。まあお前らが俺の嫁に何かしてきた時はそれに当てはまらないが。っとすまない、気づかなかった、あなた方は三年の先輩でしたか。とりあえず先輩であろうが後輩であろうが何かあるならきちんと筋道のたった話し合いをすべきです」
「こいつ、何かおかしいんじゃねぇの……」
「おい、今気づいたが、こいつ、二年の馬見塚じゃねぇの……?」
渉が誰であるかに、一人が気づいた途端全員が青い顔をして渉を見てきた。
「……何だ……?」
「い、いや! わかった。よく、わかった。だからもう、忘れてくれ。あれだ、こいつにも何もしねぇし! じゃ、じゃあな!」
渉は見た目や成績などでモテており有名なだけではなく、腕っぷしも強いというのは割と全学年を通じて知れ渡っていた。腕を捻られていた者も、床に倒された者も、そしてまだ何もされていなかった者たちも、慌てたようにトイレから一斉に去っていった。
「……何なんだ?」
「あ、あの……」
ポカンと渉が出入口を見ていると声をかけられた。見ると囲まれて泣いていた生徒が真っ赤な顔をして渉を見ている。
「あ、ありがとうございました……。やっぱりあの憧れの馬見塚さんだったんですね、どうりで……。本当にありが……」
「すまない、俺はトイレに入らなければならないんだ。じゃあな」
憧れを持たれている生徒を気にした様子もなく、渉は淡々と言ってのけるとそのままトイレの個室へ入って行く。人がいようがいまいが個室へ入るも気にならないし、どう思われようがそれも気にならなかった。
だがそんな渉ではあるが、基本的には憧れから好きに変わる生徒を増やすだけだった。まさかドアの向こうで熱い視線を向けられているなどと思いもせず、渉は心おきなくズボンを緩めた。
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