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第一章

70話

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 アール君はヌヌから飛び降り、私のグローブを回収した。私はいま落下ちゅう、サタ様が『エルバ、ホウキに乗る時のように浮くか、飛ぶイメージしろ!』と、私を追っかけながら叫んだ。

 浮くか飛ぶ……私はホウキに乗るときと同じイメージしたが、ヌヌに飛ばされた鼓動と落下する恐怖で、頭の中のイメージがまとまらない。

「ごめんサタ様、できない……無理、無理、こんな状況で落ち着いてイメージできない」

「チッ、ヌヌ、もっと早く飛べ!」

「わかってるけど……おれっち、これ以上は力が入らないよう……」

 檻の中で十分な食事が与えられず、魔力不足なのか飛ぶのがやっとなヌヌ。サタ様もヌヌから降り、元の姿に戻ると、私に向けて手を伸ばした。

「エルバ、つかまれ!」
「……サタ様!」

 ふと頭によぎった、ガードレールから飛びでて落ちる前世の私。あの時もこんな感じだった様な気がする、でも違うのは、必死に私を助けようとしてくれる――みんながいる。

 サタ様に向けて手を伸ばしたけど、闘技場の学生達が体制を立て直し、教師の命令でヌヌに向けて魔法を飛ばし、体に命中させた。


「「ギャッ!!」」


「ヌヌ?」

「サタナス様、おれっちは平気だよぉ~。早く、タクスの子を助けてあげてぇ~」

 何発もの、魔法をくらいながらも笑うヌヌ。

「サタ様、ヌヌは僕が守ります。エルバ様を助けてください」

「あい、わかった!」

 そのやりとりを見ながら……走馬灯を垣間見た。
 だけど、私がガードレールを飛び出して、カバンを掴んだ所までの記憶しかない。

 後の記憶がない……もしかして、神様かお弟子さんが配慮して、記憶を消してくれたのかも。




「「エルバ!」」

 サタ様が伸ばした手が、あと寸前のところで届かない。

「と、届かぬ」
 
「大丈夫、サタ様! ママの魔法『防御魔法』がかかったローブを着ているから……多分、落ちても平気だよ」

「だまれ!」

 と、言ったけどサタ様の姿がポフッとモコ鳥に戻る。
 その後ろではアール君が必死に防御壁で、ヌヌを魔法攻撃から守っていた。頭に思い浮かぶのは魔力切れ……私達は王都に来てからも結構、魔力を消耗している。

 自分の姿が戻っても助けようとしてくれるサタ様に『無理しないで』『私は大丈夫』だと笑いかけて、バッグを胸に抱いて目を瞑った。
 

「「エルバァァァ――!」」


 
 地面に落ちる寸前……[大丈夫よ]と声が聞こえた。
 目を開くと、私の体の周りに黄色い花びら舞い、ふわりと体が浮き、キラキラ光る綺麗な人の胸元に羽のようにフンワリ落ちた。

[あなた、大丈夫?]
「…………!」

 覗き込む、サラサラな緑のロングヘアとやさしげな瞳、この世の人とは思えない美貌の人が細腕で、健康体な私の体をガッシリ抱きかかえていた。

(誰?)

[……どうしたの、大丈夫?]

「は、はいぃ……た、た、たすかりました、ありがとうございます!」

[フフ、元気そう、よかったわ]

 美人さんに下ろしてもらったのだけど、足はガクガクで尻餅をつく。
 
 ……イ、イテテ。

[大丈夫?]だと心配してくれる、美人さんの手を借りてどうに立ち上がり、深呼吸して空を見回した。
 すぐ側にさっきまでいた闘技場が見え、私が無事に着地したことを確認したサタ様と、アール君は空で飛んでくる魔法に応戦している。

「サタ様、アール君、ヌヌ君」
 
[心配? でも彼らは強いから平気よ]

「はい……みんなは強いですが、ケガをしていないか心配です」

[フフ、優しいのね。チャイムという物が鳴って授業が終われば、すぐに攻撃もやむわ。その後、すぐに騎士団が来るだろうけど」

「騎士団?」

[良い実験材料になりそうな、魔犬が逃げてしまったのですもの、もう一度捕まえなくてはね]

 滅多に見ることができない、希少種の魔犬を捕まえた。
 騎士団は、勇者パーティーの末裔などがいるクラスが魔犬ヌヌを倒した後に回収して、何らかの実験に使うつもりだったのだろう。だけど番狂わせが起こった。

 ヌヌはサタ様の力も借りたけど……勇者パーティーの末裔より強過ぎたのだ。
 
(あ、こんな場面が小説にもあった様な気がする。戦闘訓練の授業でヒーローと新魔王、前魔王様が突如暴れだした魔物からヒロインを守るんだ)

 その時、魔物がなぜ暴れたのか説明していたけど……いくら思い出そうとしても、思い出せなかった。

 

 ❀

 

 学生達の魔法での攻撃からヌヌを守るサタ様とアール君。授業終了のチャイムが鳴り、授業が終わったのか闘技場から魔法は飛んでこなくなった。

 攻撃が終わったとサタ様、アール君、ヌヌは直ぐにこちらには降り来ると思ったけど、闘技場を見て何か話しているようだ。

[騎士団の捜査が始まるみたいね……魔術師達が集まり、捜査魔法、サーチ魔法をしようとしているのかしら? ……でも、上手の彼らは見つからないわね]

 フフと美人さんは笑う。

 みんなは何か対策でもしているのかなと、私が落ちた先を見渡すと緑が生い茂る小さな庭だった。その庭の中央には大きな木が育ち、見覚えがある黄色い花を咲かせていた。

「黄色い桜?」

[桜? コレはこの国の国花キバナという花なのよ]

「……キバナ?」

《名前をキバナといい、観賞用の葉が広く平たい広葉樹です》

 博士、効能は?

《???です》

 ライト草とツーン草の時と同じで、キバナの効能はわからなかった。博士にタネをもらって植えたけど……初めての広葉樹はエルバの畑半分をうめた。

(お、大きい)

 エルバの畑は1ページに30種のタネが植えれる、広葉樹は15マス埋めるのか。キバナは黄色の花だけど、どこか故郷の桜に似ていてなつかしく感じた。
 


「エルバ、怪我はないか?」
「エルバ様」
「ごめんね~」

 みんなは話し合いが終わったのか、私がいる庭に降りてくきた。サタ様は定位置となった私の頭に乗り、小さな羽を胸にかかげ紳士の挨拶をすると、遅れてアール君、ヌヌも頭を下げた。

「精霊よ――エルバを助けてくれてありがとう」
「ありがとうございます」
「よかった~ありがとう」

[私の名前はキバナの精霊キキ。フフ、こんなに可愛い子が空から降ってくるのですもの、神様からのプレゼントかと思ってしまったわ]

 と、美人さん――キキは可憐に笑った。
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