上 下
53 / 62
本編

第53話 『逃亡の黒幕と』 ②

しおりを挟む

**

「アイザイア様!」
「……ルーサー、何か進展は?」

 そして、ベアリング元伯爵家のお屋敷を出ていくと、アイザイア様と私の元にほかでもないルーサーさんが駆け寄ってきました。ちなみに、もう招待客はまばらになっています。どうやら、騎士の方々が本日のお茶会は終了だと通達をされたようです。そして、本日の本当の目的も。

「いいえ、申し訳ございません。居場所を掴むことは……できませんでした」
「そうか。まぁ、いい。どうせ大した場所には行けないからな。モニカ、ちょっといいかな?」
「……はい?」

 アイザイア様が、ふと私に視線を向けてこられます。先ほどまでの厳しい視線は何処かにやり、私に向ける視線はとても優しいものでした。それに、少しばかり安心しながら私は何があったのかと思考回路を張り巡らせます。

「……今回の黒幕は、アラン・ベアリングだ。……それが分かっていたからこそ、モニカにもきつく当たってしまった。……ってことかな、一応」
「一応?」
「あぁ、そうだね。嫉妬をしたのは本当だし、あの時モニカに言ったことは間違いなく本当の気持ちだった。……俺はね、モニカを愛しているの。分かってくれる?」

 そうおっしゃって、アイザイア様が私の顔を覗き込んでこられます。……すべて、今日のための演技だったというわけでは、ないのですね、なんて。でも、嬉しかった。だって、アイザイア様が心の底から嫉妬してくださったこと、さらにはあの時私のことを「愛している」とおっしゃってくださったこと。……それは、私にとってとても嬉しいことでしたから。

「レノーレ嬢に近づいて、モニカに嫌な思いもたくさんさせてしまった。レノーレ嬢に攻撃されるモニカを、正面から守ることも出来なかった。……でも、これからはきちんと守るよ。俺は、モニカだけが好きだから」
「……アイザイア様」

 そのお言葉が、嬉しかった。もう、今までのことはすべてどうでもいいや。そう思えるぐらい、嬉しかった。だけど、そう言うわけにはいきません。だって、まだすべてが終わったわけではありませんから。アラン様のことが、まだ残っているのだもの。

「わ、私、私も、アイザイア様のことが好き、です。お慕いしております。……ですから、その……」

 でも、これぐらいは伝えてもいいでしょう? そう自らに言い聞かせて、私はアイザイア様を見つめる。なんて言えばいいのかは、よくわからない。でも、でも。私の気持ちが伝われば、言葉なんてどうでもいい……と思う。

「……そっか。嬉しいよ。『粛清』がある程度終わったら、モニカと正式に婚姻しようと思っている。挙式も盛大に挙げてね。……まぁ、それまでにいろいろとあるだろうけれどさ」
「は、はいっ!」

 こんな大切な時に、こんな風に想いを伝えあうなんて。普通からしたら、ありえないことかもしれない。それでも、少しくらいいじゃない。私はそう自分に言い聞かせて、アイザイア様に微笑みました。

「モニカ。俺は、ずっとモニカが好きだったよ。……出逢った日から、なんて言えるわけじゃないけれど……それでも、ずっと、ずっとモニカのことを想ってきた。……こんな婚約者で、嫉妬深い婚約者でも、いいかな?」

 不安そうに、アイザイア様がそうおっしゃる。アイザイア様は、良いかな? なんて問いかけてこられるけれど……違うの。良いわけじゃないの。アイザイア様じゃなきゃ、ダメなの。私は、アイザイア様と一緒じゃないと嫌だから。

「私、アイザイア様じゃないと、嫌です。私……気が付いたのです。ずっと、アイザイア様のことが大好きだったって。アイザイア様だけを、慕っていたのだって」
「……モニカ」

 嬉しくて、涙が零れてくる。でも、それを拭いながら必死に笑みを浮かべて、アイザイア様に応えた。すると、アイザイア様がふわりと私のことを抱きしめてくださる。それも嬉しくて、私もアイザイア様の背に手を回した。

「……じゃあ、最後の処理に行こうか。ルーサー、頼める?」
「はい、承知いたしております」

 そんな声が、頭の上から聞こえてくる。最終決戦。世に言うそれが、今――始まる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

内気な貧乏男爵令嬢はヤンデレ殿下の寵妃となる

下菊みこと
恋愛
ヤンデレが愛しい人を搦めとるだけ。

不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする

矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。 『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。 『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。 『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。 不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。 ※設定はゆるいです。 ※たくさん笑ってください♪ ※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!

私を嫌っていた冷徹魔導士が魅了の魔法にかかった結果、なぜか私にだけ愛を囁く

魚谷
恋愛
「好きだ、愛している」 帝国の英雄である将軍ジュリアは、幼馴染で、眉目秀麗な冷血魔導ギルフォードに抱きしめられ、愛を囁かれる。 混乱しながらも、ジュリアは長らく疎遠だった美形魔導師に胸をときめかせてしまう。 ギルフォードにもジュリアと長らく疎遠だったのには理由があって……。 これは不器用な魔導師と、そんな彼との関係を修復したいと願う主人公が、お互いに失ったものを取り戻し、恋する物語

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

【完結】帰れると聞いたのに……

ウミ
恋愛
 聖女の役割が終わり、いざ帰ろうとしていた主人公がまさかの聖獣にパクリと食べられて帰り損ねたお話し。 ※登場人物※ ・ゆかり:黒目黒髪の和風美人 ・ラグ:聖獣。ヒト化すると銀髪金眼の細マッチョ

冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています

朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。 颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。 結婚してみると超一方的な溺愛が始まり…… 「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」 冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。 別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)

あなたに忘れられない人がいても――公爵家のご令息と契約結婚する運びとなりました!――

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※1/1アメリアとシャーロックの長女ルイーズの恋物語「【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者」が完結しましたので、ルイーズ誕生のエピソードを追加しています。 ※R18版はムーンライトノベルス様にございます。本作品は、同名作品からR18箇所をR15表現に抑え、加筆修正したものになります。R15に※、ムーンライト様にはR18後日談2話あり。  元は令嬢だったが、現在はお針子として働くアメリア。彼女はある日突然、公爵家の三男シャーロックに求婚される。ナイトの称号を持つ元軍人の彼は、社交界で浮名を流す有名な人物だ。  破産寸前だった父は、彼の申し出を二つ返事で受け入れてしまい、アメリアはシャーロックと婚約することに。  だが、シャーロック本人からは、愛があって求婚したわけではないと言われてしまう。とは言え、なんだかんだで優しくて溺愛してくる彼に、だんだんと心惹かれていくアメリア。  初夜以外では手をつけられずに悩んでいたある時、自分とよく似た女性マーガレットとシャーロックが仲睦まじく映る写真を見つけてしまい――? 「私は彼女の代わりなの――? それとも――」  昔失くした恋人を忘れられない青年と、元気と健康が取り柄の元令嬢が、契約結婚を通して愛を育んでいく物語。 ※全13話(1話を2〜4分割して投稿)

処理中です...