【完結】狂愛の第一王子は公爵令嬢を離さない〜普段は大人っぽい素敵な婚約者は、実はとても嫉妬深い男性でした!?〜

扇 レンナ

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本編

第ⅩⅩ話 『クルイアイ』(アイザイア視点)

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 可愛くて、綺麗で、愛らしい。そんなとても素敵な俺の婚約者。

 そんな感情のすべてを、俺は婚約者であるモニカ・エストレア公爵令嬢に向けていた。

「ルーサー、ちょっといいか?」

 ベアリング元伯爵家でのお茶会の日の夜。俺はルーサーと共に自室にいた。今この部屋にいるのは、俺とルーサーだけだ。普通の侍従は外で待機させている。仕事の話だといえば、すぐに出て行ってくれた。

 ルーサーは、俺の黒い部分を知っている唯一の従者である。そのため、ルーサーにだけはいろいろなことを包み隠さず教えていた。

「はい、アイザイア様」

 いつものように氷のような笑みを浮かべながら、ルーサーが俺に近づいてくる。そのため、俺は紅茶のおかわりを要求しながら、とある封筒を手渡していた。

「これ、今日の報告書。父上に渡しておいてくれ」

 本日のお茶会の報告書を入れた封筒をルーサーに手渡す。すると、ルーサーはその封筒を懐にしまった。ルーサーは、本当によくできた従者だ。俺にとって幼馴染のようなこいつは、とある貴族の隠し子である。いろいろあり、王宮で従者として働きに来たこいつを、俺が専属に指名した。そんなことから始まった関係は、もうずっと昔に十年を過ぎている。

「……アイザイア様。モニカ様の、ご様子は?」
「あぁ、侍女からの話によると、安心しているようだよ。まぁ、この間のことはこちらとしても想定外だし、今回のあの男の逃走も想定外。人形のくせに俺を煩わせるなんて、本当にどうしようもない」

 モニカは、とても素敵な女性だ。少々控えめ過ぎるのがネックだが、その可愛らしい笑顔に見つめられれば俺はすぐにでもモニカの願いを叶えたくなる。正直、俺は人間という生き物があまり好きではない。自分の欲望のためだけに行動する。そんな薄汚い貴族ばかりを見てきたからかもしれない。そんな俺が初めて、「あぁ、この人だったら尊敬できる」という感情を抱いたのが、エストレア公爵だった。

 だから、エストレア公爵に娘が生まれたと聞いた時は、期待した。もしかしたら、俺の婚約者になってくれるのではないだろうか。あのレノーレとかいう女を押しのけて、婚約者という位置についてくれるのではないだろうか。そう、思ったのだ。その予想は見事に当たり、モニカが俺の婚約者という地位についた。

 初めて出会った時のモニカは、とても弱々しかった。だが、すぐにその品格は芽吹いた。元々エストレア公爵家で生まれ育ったのだ、こうなることは予想済みだった。しかし……モニカは、俺の予想以上だった。いつも控えめだが、欲しいときにはしっかりとした意見をくれる。さらにはその可愛らしい笑顔を、俺に向けてくれる。そんなモニカに俺が惹かれていくのはある意味当然で。モニカが可愛くて可愛くて、仕方がなかった。なのに……俺は、それとほぼ同時に気が付いてしまったのだ。自らの、薄汚い部分に。

 その部分とは、俺が予想以上に嫉妬深いということだった。俺的には、モニカが家族以外の男性に笑いかけることさえ、嫌だった。その可愛らしい笑みを向けられた同年代の男たちは、みなそろって顔を赤くする。それが、見ていてとても不快だった。

 ――モニカは、俺の婚約者なのに。

 そんな醜い感情が、俺の心を支配した。だから……俺は、モニカに近づいた男に密に制裁を加えていた。もちろん、アラン・ベアリングもその一人。だが、奴は狡賢かった。モニカの視界に入らないように、モニカのことを観察する。あぁ、嫌いだ。死ねばいいのに。そう、強く思った。

「邪魔者は排除するに限るよね、ルーサー。俺はあの男が嫌いだ。モニカに近づくし、俺の邪魔もするし。……本当に、邪魔だ。見つけたらモニカにバレないようにきつく処罰を与えなくては。……今回の黒幕だし、何の問題もないだろう?」

 あぁ、俺のモニカは可愛らしい。あんな男にも優しいのだから。だから……近づく奴には、制裁を加えなければいけない。たとえ、それが行き過ぎたものだったとしても。守るためには必要なのだ。モニカに近づく奴が悪い。……それに、俺は優秀だ。何をやっても、バレる心配はないし、言い訳だって咄嗟に出てくる。

「はい、承知いたしました、アイザイア様」

 ルーサーが、そう言って一礼をする。俺は目の前にある他国の一覧を見つめながら、モニカとどの国に行こうかと考える。父上は、とてもいい人だ。正義感の強い人だ。しかし、その代わり――視野の狭い人だ。だからこそ……俺の狡賢さや、歪んだ部分には気が付かない。

「さて、そろそろ最終準備を始めようか」

 さぁ、終焉の舞台が始まる。

 そう思いながら、俺は目の前の紅茶を飲み干し――そのカップを、地面に落とした。
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