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第11話 アンネトワットの日記・前編
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学校のフンイキには慣れないな。
ナイト・マーティンは思ってしまう。
緊張感が無い。助祭の話を聞きながらも弛緩した学友達。現在この瞬間、襲撃されるかもしれない、とは思わないのだろうか。
上空から戦闘機が現れ、空気の振動が衝撃となって耳を襲う。そこから我に返ると焼夷弾の雨が降って来る。必死に建物の影に隠れるがそれだけでは逃げきれない。
上空から飛来する爆発物は直接的な破壊力を持つだけでは無い。飛び散った破片を受けるだけで服は燃え上がり、肉は焼け爛れる。
ナイトは脳裏に浮かぶ光景を振り払う。今は勉強の時間だ。余計な記憶に振り回されている場合では無い。
教会は村に一つ。勤めているのは助祭の青年が一人だけだ。田舎村に教会の建物があるのは珍しいらしい。ジーフの親が幸運だ、と言っていたのを聞いた。村人としては子供を預けられ、読み書きを教えてくれる非常にありがたい存在。
以前の人生では、神に信仰心は捧げなければいけないが、そんな有難い見返りは無かった様に思う。だってのにその神のため命懸けで戦わなければいけない不条理。この世界の方が合理的に感じてしまう。
「ナイトくん、ぼうっとしてましたね。
私の話聞いて無かったでしょ」
「いや、聞いていた。
教室に入ってから助祭様が言った言葉を復唱しろ、と言うのなら一字一句残らずやってみせる」
ナイトは教師役を勤める、ヤコブタに言葉を返す。小柄なまだ若い青年。都の出では無く、別の地方の辺境出身であるらしい。
白いローブを着たヤコブタは多少の威厳はあるのだが、やはりまだ若い。高学年の子供達には若干舐められている。
「そんなの要らないよ。
怖いからヤメテ」
「例えば、昨日助祭様は言っていた。
『あーもう、神父になるまでどれだけかかるんだ。
村の人達は気軽に自分のコト、神父って呼ぶけどさ。
まだ助祭なんだっつーの。
神父の試験受かって無いんだよ。
試験受かって無いのに、神父神父呼ばれてもさー。
皮肉言われてるみたいじゃん。
神父になるの大変なんだよ。
エライ神父様の元で三年間も言いなりに仕えないといけないの。
それでやっと、神父試験受けられるの。
神父様の推薦受けないとイケナイから神父様の機嫌損ねたらそこまで。
はい、それまでよー、なの。
俺ってば神父様の機嫌損ねちゃってさー。
もうここまでかー、神父になれず人生終わるんかー。
と思ったんだけどー。
地方で助祭探してるって言うじゃん。
行く人がいない辺境の教会で責任者勤めれば、三年間で神父試験受ける資格貰えるって言うじゃーん。
これだー、って思って申し込んだの。
だけどさー。
三年だよ、三年、なげーよ、長過ぎだよなー』
一字一句間違いないと思うのだが、どうだろう」
「こわっ?!
怖いですよ、ナイトくん。
それ授業で言ったんじゃないヤツ。
昨日子供達が解散してから、村長の家で夕食ご馳走になって、そこに王都から来た役人なんかもいて、軽くお酒なんかご馳走になっちゃって、ついつい口を滑らせて話したヤツ。
なんで全部覚えてるんですか?!
どこかで聞いてた?!
えっえっ。
実はあの場に居たんですか。
でもナイトくんあの場で見なかったよね。
ナイトくんの家村はずれだし、村長さんの家村の中央だよね。
遠いよね。
偶然聞こえるワケ無いよね」
「気にするな」
「気になるよ!」
アンネトワットはそんな助祭様のセリフを聞きながら、ついつい教師と言葉を交わしている生徒の方を眺めてしまう。
ナイト・マーティンはそっぽを向いている。少し怖い雰囲気の同年齢の男の子。彼の眼つきは鋭く、笑う事もあまり無い。
女の子達がナイトの事を「かっこいいい」「美形ーー」等と言ってるのは知ってるけど。アンネトワットは優しい男性が好き。ナイトにはあまり近寄りたくなかった。……昨日までは。
昨日の学校からの帰り道アンネは見つけてしまった。地面に落ちている茶色い小さなぴぃぴぃ鳴く生き物。
なにこれなにこれ? 分からないけどとっても可愛い。
「ツグミのヒナだね」
助祭様が教えてくれた。
「多分あそこから落ちたんだ」
アンネが見上げると木の上に見えた。小枝や葉っぱを集めて組み上げた丸い物。小鳥さんの家。
そうか、家から落っこちちゃったんだ。だから鳴いてたのね。
アンネがヒナを抱き上げようとすると助祭さんが止めた。
「触らない方が良い。
鳥はとっても臆病だし、敏感だ。
人間が触れると人間の臭いが着く。
親鳥は自分の子供だと思わないで警戒対象にしてしまうんだ」
だって……そんな……自分の子供でしょ。それをアンネは助けてあげようとしているのよ。
「アンネがその助けてあげるつもりでも……
鳥にとってはそうじゃ無いんだ。
鳥にとって人間は大きな生物で外敵なんだよ。
人間が触れて、その匂いが着けば外敵の仲間と勘違いしたりしてしまう。
触れなければ親鳥が助けるかもしれない。
助けない方が鳥さんの為だ」
そう言って助祭様は行ってしまった。
どうすればいいの? お母さん鳥が帰って来る。帰ってきたら助けるハズ。だからアンネは手を出さない方が良い。
それは分かるけど……ヒナはぴぃぴぃぴぃと鳴いている。聞いてるだけで胸が掻き毟られる。それに親鳥はなかなか帰ってこない。
助祭様が行ってしまって、アンネは木陰に隠れてヒナを見守っているのに、何時まで経っても親鳥は現れないのだ。
その時だった。
「ナニをしている?」
アンネの背後から声がした。ビックリした。低くて鋭い声。聞いたことがある声の気もするけど、それ以前にアンネは腰が抜けてしまった。
地面にしゃがみ込んで立てない。後ろには恐ろしい気配。
村にモンスターでも入って来たの?!
アンネ殺されるの?!
ナイト・マーティンは思ってしまう。
緊張感が無い。助祭の話を聞きながらも弛緩した学友達。現在この瞬間、襲撃されるかもしれない、とは思わないのだろうか。
上空から戦闘機が現れ、空気の振動が衝撃となって耳を襲う。そこから我に返ると焼夷弾の雨が降って来る。必死に建物の影に隠れるがそれだけでは逃げきれない。
上空から飛来する爆発物は直接的な破壊力を持つだけでは無い。飛び散った破片を受けるだけで服は燃え上がり、肉は焼け爛れる。
ナイトは脳裏に浮かぶ光景を振り払う。今は勉強の時間だ。余計な記憶に振り回されている場合では無い。
教会は村に一つ。勤めているのは助祭の青年が一人だけだ。田舎村に教会の建物があるのは珍しいらしい。ジーフの親が幸運だ、と言っていたのを聞いた。村人としては子供を預けられ、読み書きを教えてくれる非常にありがたい存在。
以前の人生では、神に信仰心は捧げなければいけないが、そんな有難い見返りは無かった様に思う。だってのにその神のため命懸けで戦わなければいけない不条理。この世界の方が合理的に感じてしまう。
「ナイトくん、ぼうっとしてましたね。
私の話聞いて無かったでしょ」
「いや、聞いていた。
教室に入ってから助祭様が言った言葉を復唱しろ、と言うのなら一字一句残らずやってみせる」
ナイトは教師役を勤める、ヤコブタに言葉を返す。小柄なまだ若い青年。都の出では無く、別の地方の辺境出身であるらしい。
白いローブを着たヤコブタは多少の威厳はあるのだが、やはりまだ若い。高学年の子供達には若干舐められている。
「そんなの要らないよ。
怖いからヤメテ」
「例えば、昨日助祭様は言っていた。
『あーもう、神父になるまでどれだけかかるんだ。
村の人達は気軽に自分のコト、神父って呼ぶけどさ。
まだ助祭なんだっつーの。
神父の試験受かって無いんだよ。
試験受かって無いのに、神父神父呼ばれてもさー。
皮肉言われてるみたいじゃん。
神父になるの大変なんだよ。
エライ神父様の元で三年間も言いなりに仕えないといけないの。
それでやっと、神父試験受けられるの。
神父様の推薦受けないとイケナイから神父様の機嫌損ねたらそこまで。
はい、それまでよー、なの。
俺ってば神父様の機嫌損ねちゃってさー。
もうここまでかー、神父になれず人生終わるんかー。
と思ったんだけどー。
地方で助祭探してるって言うじゃん。
行く人がいない辺境の教会で責任者勤めれば、三年間で神父試験受ける資格貰えるって言うじゃーん。
これだー、って思って申し込んだの。
だけどさー。
三年だよ、三年、なげーよ、長過ぎだよなー』
一字一句間違いないと思うのだが、どうだろう」
「こわっ?!
怖いですよ、ナイトくん。
それ授業で言ったんじゃないヤツ。
昨日子供達が解散してから、村長の家で夕食ご馳走になって、そこに王都から来た役人なんかもいて、軽くお酒なんかご馳走になっちゃって、ついつい口を滑らせて話したヤツ。
なんで全部覚えてるんですか?!
どこかで聞いてた?!
えっえっ。
実はあの場に居たんですか。
でもナイトくんあの場で見なかったよね。
ナイトくんの家村はずれだし、村長さんの家村の中央だよね。
遠いよね。
偶然聞こえるワケ無いよね」
「気にするな」
「気になるよ!」
アンネトワットはそんな助祭様のセリフを聞きながら、ついつい教師と言葉を交わしている生徒の方を眺めてしまう。
ナイト・マーティンはそっぽを向いている。少し怖い雰囲気の同年齢の男の子。彼の眼つきは鋭く、笑う事もあまり無い。
女の子達がナイトの事を「かっこいいい」「美形ーー」等と言ってるのは知ってるけど。アンネトワットは優しい男性が好き。ナイトにはあまり近寄りたくなかった。……昨日までは。
昨日の学校からの帰り道アンネは見つけてしまった。地面に落ちている茶色い小さなぴぃぴぃ鳴く生き物。
なにこれなにこれ? 分からないけどとっても可愛い。
「ツグミのヒナだね」
助祭様が教えてくれた。
「多分あそこから落ちたんだ」
アンネが見上げると木の上に見えた。小枝や葉っぱを集めて組み上げた丸い物。小鳥さんの家。
そうか、家から落っこちちゃったんだ。だから鳴いてたのね。
アンネがヒナを抱き上げようとすると助祭さんが止めた。
「触らない方が良い。
鳥はとっても臆病だし、敏感だ。
人間が触れると人間の臭いが着く。
親鳥は自分の子供だと思わないで警戒対象にしてしまうんだ」
だって……そんな……自分の子供でしょ。それをアンネは助けてあげようとしているのよ。
「アンネがその助けてあげるつもりでも……
鳥にとってはそうじゃ無いんだ。
鳥にとって人間は大きな生物で外敵なんだよ。
人間が触れて、その匂いが着けば外敵の仲間と勘違いしたりしてしまう。
触れなければ親鳥が助けるかもしれない。
助けない方が鳥さんの為だ」
そう言って助祭様は行ってしまった。
どうすればいいの? お母さん鳥が帰って来る。帰ってきたら助けるハズ。だからアンネは手を出さない方が良い。
それは分かるけど……ヒナはぴぃぴぃぴぃと鳴いている。聞いてるだけで胸が掻き毟られる。それに親鳥はなかなか帰ってこない。
助祭様が行ってしまって、アンネは木陰に隠れてヒナを見守っているのに、何時まで経っても親鳥は現れないのだ。
その時だった。
「ナニをしている?」
アンネの背後から声がした。ビックリした。低くて鋭い声。聞いたことがある声の気もするけど、それ以前にアンネは腰が抜けてしまった。
地面にしゃがみ込んで立てない。後ろには恐ろしい気配。
村にモンスターでも入って来たの?!
アンネ殺されるの?!
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