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Scene16 五古河逆と俺のビジネスホテル

第101話

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朝だ。
俺はホテルで軽い運動。
プッシュアップ、腹筋、スクワット。
大した量では無い。
何百回もやって疲れ切るような趣味は無い。
最低限、身体が自由に動く為の運動である。

「何してやがる?」

気が付くと逆が俺を見ている。
ホテルのベッド。

「軽い運動だ」
「…………
 ここは何処だ?」

ビジネスホテルのベッドで目覚めた五古河逆はそう言った。


俺は車に乗り込む。
昨日は帰れなかったのだ。
おそらく円花は相当心配しているだろう。
七鮎川円花は炎城寺由羅と共に小学校で待っているはずだ。
朝日が昇り、ゾンビがいなくなったところで早朝ホテルを出た。

「てめえってヤツは。
 オレは本当に初体験だったんだからな。
 責任取ってくれるんだろうな、おい」

逆は後部座席でメシを食いながら言う。
せっかく用意してもらった食品をコイツは旺盛に平らげてる。

「逆、食べすぎだ。
 子供たちの分でも有るんだぞ」
「話をそらして逃げるんじゃねーよ」

「昨夜はどちらかと言うと……
 俺がお前に襲われた様に思うのだが」
「オレは初めてだったって言ってるだろ。
 自分からリードできる訳ねーだろ」

俺はハンドルを切りながらバックミラーに映る逆を眺める。
カットもしてない食パンに齧りついてる。
かと思うと一本丸ごとのハムを口に放り込む。

「まあ、正直言うとオレも良く覚えちゃいない。
 最初は熱に浮かされたオレが何かしたのかもしれねー。
 だけどな。
 後半は違うぜ。
 オレは下半身の痛みで正気を取り戻した。
 その後はお前が好き勝手にオレの身体を弄んだんだ」

ガンッ。
後部座席から逆は運転席を蹴る。

うーむ。
そう言われるとな。
逆の締まった肉体。
美しく鍛えられたボディ。
整った眉をしかめて痛がる彼女。
そのくせ性欲が高められている影響だろう。
上気させた頬、身体を汗に濡れさせて俺にすがりつく。
普段の逆に似合わない、小さな声。
「アッ、イタイ。
 アッ。
 ダメ。
 止めないで」
囁いた彼女は可愛かった。
その魅力に俺の方も途中から我を忘れた気がしないでもない。

「チッ、まあいいけどよ。
 ウツと円花が経験してて、オレだけ経験が無いってのは気になってたんだ。
 これでオレも経験者だからな」

「そうか。
 しかし、昨夜の記憶はあまり無いのだろう。
 意識がハッキリしてる現在、
 もう一度経験しておくと言うのはどうだ?」

運転席が再度蹴り上げられる。

「草薙の、チョーシに乗んじゃねーぞ。
 今度、オレを口説こうなんてしてみろ。
 ぶっ殺すからな」

バックミラーを見なくても、逆の目が光ってるのが分かる。
殺気が車内にダダ洩れだ。

「オレはな。
 円花やウツの恋敵になる気なんかねーんだよ」
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