そして私は惰眠を貪る

猫枕

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「この前はゴメンなさいねぇ。
 私もつい興奮しちゃってねぇ。
 だって、リーヴィアちゃんがお嫁に来るの楽しみにしてたのにリーヴィアちゃんが変なこと言い出すからぁ~」

 再び設けられた話し合いの席で、ヨハンナはまたいつものベチャベチャした甘えたような話し方に戻っていた。

「先日のお話では既に準備の整った式を取りやめれば恥をかくし、社会的な信用を失うので容認できない。
 で、間違い無いですよね?」

 弁護士のピエールは淡々と話を進める。
 
「え?ええ。まあ、そうよ」

「それでしたら、こちらは条件次第では結婚を承諾する用意があります」

 ヨハンナがにんまり笑った。

「形式上は結婚しますが、ヴァルノー家の嫁として、ラルス氏の妻としての務めは一切免除して戴く。

 婚姻期間は最長で3年。

 離婚に際しての理由は跡継ぎができない、等のそちらに都合の良いもので構いませんが、リーヴィア嬢がその後の生活に困らないだけの慰謝料を財産分与という名目で要求します」

 そう言ってピエールは具体的な金額の書かれた紙を見せた。

「ちょっと金額が多すぎやしないかね」

 それまで何も発言しなかったフェリクスが、ここで初めて声を上げた。

「リーヴィア嬢は精神的苦痛に耐えて、本来なら顔も見たくないような相手に嫁ぐのですよ?

 しかもリーヴィア嬢には何ら非は無いというのに、あなた達の家名に傷のつかない理由で離縁される。

 貴女はリーヴィア嬢の意志を無視して勝手に結婚の時期も決めた。
 その為にリーヴィア嬢は希望していた大学進学も諦めさせられることになった。

 つまり貴女はリーヴィア嬢が専門知識や技術を身に着けて自活する道も閉ざしたわけですから、その分も加味されるべきだと考えます。

 そして子供が出来ない、というのが離婚理由であれば、リーヴィア嬢の再婚も難しくなる可能性が高い。

 そうなればヴァルノー家に対してリーヴィア嬢がその後の生活の保障を求めるのは当然です」

 ピエールはヨハンナが途中で、でも、とか、それは、とか口を挟んでこようとするのを遮って言い切った。

「こちらとしてはこれが最大の譲歩です」

 ピエールは睨みを利かせた。

 条件の中には婚姻期間中、毎月結構な額のお小遣いがリーヴィアに支払われることも入っていた。

 ヨハンナは一瞬怯んだ顔をしたが、

「ま、いいわ」

 と言った。

 結婚さえすればこっちのもの。

 なし崩し的にリーヴィアを取り込んでしまえばいいんだもの。

 契約がなによ法律なんて関係ないわ。

 絶対に言うこときかせるんだから。

「以上の内容で宜しいですか?」

 ピエールが聞くと、リーヴィアとラルスが「はい」とだけ短く答えた。

 リーヴィアは事前に弁護士と決めた内容だったので同意するだけだったのだが、ラルスは結婚の当事者なのに、まるで蚊帳の外みたいで、しかも「はい」と言う以外に彼に選択肢はなかった。


 ピエールは予め準備してきていた必要書類をブリーフケースから出して卓上に並べると、関係者にサインを求め淡々と書類を完成させた。

 ピエールは出来上がった書類に不備がないか再度目を通すと卓上でトントンと揃えてから、

「これらの書類は公証役場に提出され、法的拘束力を持つものとなります。
 反故にはできませんから」

 と冷たく言った。


 かくしてリーヴィアとラルスは学園を卒業した翌日、盛大な結婚式を挙げることとなった。




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