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しおりを挟む埒が明かないので、一旦解散することになった。
ヨハンナは自分がやり込めたつもりになったのか勝ち誇った顔で意気揚々と帰っていった。
事務所を出ていく時、ラルスがすまなさそうな顔をして一瞬リーヴィアを見た。
「これは戦略を変える方向で考えた方がいいのかも知れませんね」
弁護士は呆れたように言った。
「すんなり婚約を解消してくれるのなら慰謝料の請求はしない、という方向で話をすれば乗ってくるとおもったんですが、それどころじゃなかったですね」
弁護士は何故ヴァルノー夫人がそんなにリーヴィアに執着するのか不思議でならない、と首を傾げた。
『まあ、弁護士さんは月の財宝の伝説のことを知らないからな』
リーヴィアとヴェリタスは無言で顔を見合わせた。
「戦略を変える、と言ってもあっちは何がなんでもリーヴィアを手放す気は無いんだもの。
無駄じゃない?
せいぜい精神的苦痛に対する慰謝料を支払うからそれでチャラね、とか、言いそうじゃない?あのオバハン」
ヴェリタスがそう言うと皆黙って俯いてしまった。
「あ~、もう、消えてしまいたい」
リーヴィアが言うと、
「それいいかも!」
とヴェリタスがポンと手を叩いた。
「家出して行方不明になったことにして留学すれば?」
リーヴィアとヴェリタスが名案、名案と盛り上がっていると、
「そうはいかんだろうな・・・」
とリーヴィアの父ダヴィッドが言った。
「それこそ自分の息子の不貞行為は有耶無耶に揉み消して、リーヴィアが約束を反故にしていなくなったと騒ぐだろう。
結婚式の費用どころか多額の慰謝料を請求してくるだろう。
そして我が家の事業は立ち行かなくなるように仕向けられる。
・・・・終わりだ」
「そんなのおかしいですよ!
不貞行為をしたのはラルスですよ?!
しっかりしてください、おじさま」
ヴェリタスが叫ぶように言うと、
「不貞行為ったって、証拠があるわけでもないないだろう?
リーヴィアと君が目撃した、と言ったところで、でっち上げだと言われれば逆に名誉毀損で訴えられることだってあるんだよ。
そうでしょう?弁護士さん」
ダヴィッドが抑揚のない声で言った。
「・・・確かに裁判となると証拠が弱いですね」
「ラルスだって今は自分の非を認めているが、いざ裁判となれば証言を覆すかもしれん。
なんだかんだ言ったって、いざとなれば自分の親の方が大事だろうからな。
そしてリュネールとヴァルノーの争いとなれば、うちに味方してくれる家なんて数えるほどしかないだろう。
ヴァルノーはあらゆる手を尽くしてうちに嫌がらせをするだろう。
誰もうちの商品を取り扱ってはくれなくなるだろうな」
「・・・そんな・・・」
「リーヴィア・・・すまない。
こんな情けない父親ですまない」
リーヴィアの目から涙がこぼれた。
ダヴィッドもキアラもヴェリタスも泣いていた。
弁護士だけが淡々とした声で、
「もう一度よく話し合う必要があるかも知れませんね。
まあ、無駄かも知れませんが」
と言った。
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