飼い猫はご主人を食べる

紫蘇

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プロローグ

僕は死んだのだ

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ロストジェネレーション、負け組。
僕を端的に表すとしたらそういうこと。

就職氷河期世代、公務員すら採用をやめたあの時期にまともな職場に当たるかどうかは運次第。

僕はどうしても正社員になりたかった。

スーパーマーケットでのバイトをしていたから、仕事内容は分かっているしと大手スーパーマーケットに就職した。
休みも睡眠すらも犠牲にして働き、お客様の理不尽にさらされ、パートさんの人間関係に悩まされた。
3年ほどで店長になったら、さらに売上のことでも悩まされるようになって、それでも何とか頑張っていたけれど体がついていかなくなって辞めてしまった。


僕が幸運だったのは、かわいい猫ちゃんたちがいてくれたことだ。

学生の時に拾った白猫は、もう30年近くなるのに元気で生きてくれている。
大学を卒業するくらいの時に拾ったハチワレもまだまだ元気だ。
職場の裏に捨てられていた黒猫ちゃんもヤンチャざかり…。

どの子もこんな僕にすごく懐いてくれた。
仕事の合間に一緒に遊んだりゴロゴロしたり。
寝るときは僕と3匹で、狭くて堅い布団でぎゅうぎゅうになって寝た。

どの子もワクチンを打ちに行ったりはしたけれど、病気1つせずにいてくれるから助かった。


仕事を辞めた僕は、使う暇もなくただ貯まるだけだったお金で、飼っていた猫ちゃんたちのためにキャットタワーを買い、おもちゃを増やし、ちょっといいおやつを買い…
そうしているうちにお金が無くなってきたから近所のチェーン居酒屋でバイトを始めた。

病院代が掛からないといっても、元気な3匹の猫ちゃんたちを養うにはお金がかかるからね。

だから週6でバイトに入った。
働いて働いて、たまに安くて酔えるお酒を飲んで、猫ちゃんたちに囲まれて癒やされながら眠って、だから心を病むということは無かった。


だけど、いつの間にか体には、もう取り返しがつかないことが起きていたんだ。

ある寒い日の昼下がり。
シャワーを浴びて、風呂から出てきたそのときに心臓がギュッと痛くなった。

痛くてたまらなくて、
脂汗が止まらなくて、
息が苦しくなって、
倒れて、

ああ、死ぬなって思ったときに、猫ちゃんたちが目に入って、ああそういえばカリカリが無くなってきたからバイトの前に買っておこうと思っていたんだと、思って、ご飯があげられない、と思って、

「ごめんね、僕のこと、食べて…」

って、3匹に言ったんだ。

何かで見たんだ。
飼い主が突然死した家のワンちゃんが、飼い主の死体を食べて生き延びてた…って。

ごめんね。
僕なんかに飼われて辛かったね。

里親をちゃんと探してあげられたらよかった。
なし崩しに僕に飼われてしまったから、
こんな目に合わせてしまった。

働くばかりでほったらかしで。
さみしいおもいさせた。

ごめん、
ごめんね、
ごめんなさい。

僕は苦しみの中……

孤独な死を、迎えた。
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