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本気のざまぁを見せてやる!

魔術師は結婚を断りたい 8

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騎士団の皆様が守ってくれているうちに、俺たちは作業に集中した。

「ではグヴェン様、石を垂直に持ち上げて下さい」
「おう!……念動っ」
「もうちょい、もうちょい…OK!そこでキープ!」

まずは石碑を、結界に影響が出ないギリギリのラインまで持ち上げる。

「では塗ります!」
「はい!」

俺とゼルさんで漆的液体を断面に塗る。
ごく薄くで良いとはいえ、全面に塗らないといけないので大変だ。

「ま…まだか、二人とも」
「グヴェン様、交代します!
 ゼルさん、離れて!」
「はい!」

デカい石に限らず、何かを持ち上げた状態でキープするのは疲れる。
途中交代しながらじゃないと難しい。

「せーの、はいっ……念動っ!」
「よし、頼むぞロンバード!」

一旦置くとか出来ないから、三人がうまく連携する事が大事…

「グヴェン様、刷毛!」
「おう!」

他の護衛4人は、それぞれ小麦粉と漆的液体を混ぜたり火山灰と漆的液体を混ぜたり…
結構パワーがいるからな。

「よし、塗れたぞ!」
「グヴェン様、乾かします!交代して下さい!」
「おう!」

やや強引だけど、湿気取り魔法で乾かす。
本当は半日とか一日とか乾かすんだけど、この状態をキープし続けるのは無理だからね。

「よし、乾いたぞ!」
「じゃあ接着剤…小麦粉の方を、塗ってください!」
「はい!」

バタバタと護衛の二人が動く。
俺は石を持ち上げる係をゼルさんに任せ、グヴェン様と護衛のカンテさんと一緒に漆接着剤を塗りたくる…

それから地上部分と下部分をかみ合わせるようにくっつけ、隙間に火山灰で作ったペーストを塗りこむ。
そうして…

「しばらく乾くのを待ちます」
「しばらく?どのくらいだ」
「…3日くらいかな」
「また長いな」

実際、この村で随分足止めをくらっている。
東端の村に向けて、早く行かなきゃと思うのに…。

「東も、南も、待ってる人がいるのに…」
「空を飛べば何とかなりそうなもんだがな」
「でも、護衛の剣士さんは空、飛べないですし」

飛べるのは俺とゼルさんの二人だけ。
ゼルさんの箒は一人乗りだし、俺は人一人抱えて飛ぶ技術が無い。

「俺だけ行って帰って来て…って、何度か頑張ってみましたけど、やっぱり魔力に不安が残りますし」

着いた先で重病人を5人は治せるぐらいの魔力は持っておきたい。
魔法の飴も作り置きが無くなってきたし…。
どうしたもんかな、と思っていると、グヴェン様が言った。

「ふーん…なるほど、じゃあ俺が送って行けばどうだ?」
「えっ!?でも、その箒、」
「おふくろには俺から説明しておく。
 国家の一大事だ、すぐに分かってくれるさ」
「いやいや、西の石碑の修繕は!?」

するとグヴェン様は俺に左腕を見せながら言った。

「漆喰を使い石垣を積む時の要領で繋げば良いのだろう?さっきこれでお爺様に通信しておいた」
「あっ!!」

そこには、通信用ブレスレットが燦然と輝いていた。

「この腕輪、中々良い出来じゃないか。
 連絡先を10件も登録しておけるし便利だ。
 離れていても、ルミールに愛を毎日囁けるし」
「いや10件しか…じゃないです?」

だもんで、国からの一斉通信にはまた別で装置を考えている。
ニールにもダリル様にも内緒で。

「…というか、この…腕輪、どこで?」
「お爺様が外戚権限で手に入れたのを、家族で使っている」
「えっ…じゃあ、もしかしてカリーナ様も?」
「そうさ、兄貴も親父も持ってるよ」
「いつの間に!?」

そりゃ量産してくれとは言ったけどさ。
まさかもうここまで来てるとは…!

「ロンバードも持ってるんだろ?
 兄貴もこれで寂しい思いをしなくて済むな」
「いや、俺のには…親父しか、登録してないから…」
「……は?」
「いや、俺が出た時には、誰もこの腕輪を持っていなかったので。
 だから、これをくれた親父としか、連絡先交換してないんです」
「…まじかよ」

グヴェン様は額に手を当てて、オーバーに嘆いた。

「お前、何でその発明ので兄貴を幸せにしてやんないんだよ!」
「……っ」

…そうだ。
俺の発明は、ダリル様を幸せにした事なんか無い。
だから…俺は…

「ロンバード、お前、兄貴と結婚するんだろ?
 だったら兄貴を、」
「…するかどうか、分からないです」
「……は?」

俺は思わず、グヴェン様に話してしまった。

「この旅が終って、王都に戻った時、ダリル様の横に俺じゃない人がいた方が…その方が良いって、出てきたから」
「どういう事だよ」
「俺は、王家に相応しく…ない」
「婚約を辞めたいのか?」
「…その方が、この国のためかな…って」

考えない様にする事も限界だった。
恋心を吹っ切らなきゃならないのは、俺の方。

「兄貴の為に、とは考えてやらないのか?」
「王子妃は、王子様と愛し合ってるからってだけで務まるものじゃないでしょう?」

足止めを食ってすることが無くなった分、一人で考える時間が増えて…俺は…
俺は、ダリル様の横を、本当は誰にも譲りたくないのだと気づいた。
あんなに毎日、愛してるって囁かれて、俺が隠した辛い事にも気が付いてくれる人を…

好きにならないわけが、無いんだ。

だけど…。

「オーセンの為にならない結婚は、すべきじゃない」
「……ロンバード、お前……」

仕事云々の話だけじゃない。
そもそも殺したい程恨まれてる人間が、未来の王の伴侶になっていいわけがない。

もしそれでダリル様を巻き込んだら…

この国はまだ、魔物の大増殖から復興して間もない。
余計な波風を立てたら、今度こそ内戦が起きる。

俺は、この国を潰す原因になんか、なりたくない。
皆を不幸にしてまで、結婚なんて…

俺には、出来ない。
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