【完結】ざまぁは待ってちゃ始まらない!

紫蘇

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本気のざまぁを見せてやる!

【グヴェン】拗らせ恋愛

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ロンバードめ、面倒なこと言い出しやがったな…。

最初に思ったのは、その一言だ。

兄貴はロンバードの事が好きで、ロンバードも兄貴の事が好き。
その上、ロンバードの父親はあの大魔術師ギゼル殿で、ロンバード自身もこの歳で何個も魔法道具を開発してる天才……
しかも由緒正しいキャンディッシュ侯爵家の直系。

ここまで「結婚するのに相応しい」理由を揃えておきながら、どうして今更自分が王の隣に立つ器じゃないと言うんだ?
正直言って理解出来ない。

「じゃあロンバードは、兄貴の横には誰が相応しいと思ってるんだ?」
「…俺じゃ無ければ、誰でも。
 爵位持ちの方であれば、それで。
 外国の王族を迎えても良いと思うし…」
「兄貴の気持ちはどうなるんだよ」
「忙しくしてれば、俺の事なんてすぐ、忘れますよ」
「あのなあ!」

俺はロンバードの肩を掴んだ。
兄貴の気持ちはそんなやすいもんじゃねえ。
ずっとお前が好きで、理由をこじつけてでも自分の横に置きたくて…。

その為に死ぬほど努力した。
お前を守るために、誰にもつけ入る隙を与えないように、全て完璧であろうと…

「お前のために、兄貴がどれほど頑張って来たか、見ていなかったわけじゃ無いだろうが」
「それは、」
「この騒ぎが片付いた後にお前が隣にいないんじゃ、兄貴が報われないだろうが」
「……だけど」
「何でそんな事考えるんだよ。
 周りの奴らには言わせておけば良いだろ」

そいつらにお前の代わりが少しでも務まるのか?
そいつらが魔法の道具で、みんなの困り事を解決出来るのか?
そんなの、出来るわけがねえ。
あのギゼル殿だって、出来るかどうか…。

それなのに、ロンバードはまだグチグチと理由を述べやがる。

「…魔法の飴で、こんなにも人に迷惑をかけてるし」
「お前が悪いんじゃねえ、それで儲けようとするやつが悪いんだろ」
「…殺したいほど、恨まれてる」
「どれも正当な恨みとは思えんがな」
「…外交、難しいし」
「だが国際会議を開いた実績がある」
「……魔法の道具が、作れなくなる」
「何でだよ!!」

俺は兄貴から、ロンバードは王子妃になっても魔術塔の仕事は続けさせるって聞いた。
というか、王子妃になったからといって辞めてもらっちゃ困る。
みんながロンバードの魔法道具を待ってる。
この村にいる、生まれつき腕のない子どもだって。

「だって、服が汚れる仕事は駄目だって。
 人に指示してやらせるのが仕事で、自分がやるのは王家の威光に傷がつくって…」
「は?」
「能力を利用して外国に媚びて、オーセンをないがしろにしてる…って」
「…ほう、それから?」
「王子の横に俺がいると思うと、国の行き先が不安になるって」
「…へえ」
「オーセン王家の一員に相応しくないって。
 外見が平凡過ぎるって。
 魔法の道具を作るしか能がないくせにって。
 裏方が表に出てくるなって。
 女じゃないくせにって。
 ……みんなが、いう」
「『みんな』じゃないだろ、誰が言ったんだ」
「……いっぱい、色んな人」

…どうやら言いたくないらしい。
とはいえ、兄貴の方じゃもう調べはついているだろうが…
ロンバードがいない今のうちに、全員纏めて王都を追放する算段くらいしてるかもな。

「じゃあその連中が兄貴の横へ誰を立てようとしてるのか、見といてやるよ。
 そいつがロンバードと同じぐらいオーセンの役に立つっていうんなら、見せて貰おうじゃないか…
 1年以内にお前以上の結果が出せなきゃ、即離婚だ」

一つ、開発した魔法道具による外貨獲得。
一つ、国際会議の議長席にオーセン国王を座らせた外交の成果。
一つ、単独での地竜討伐。

その三つを全て超える成果が無きゃ、どんなに見た目が良かろうが家柄が良かろうが、認められない。

何故なら、ロンバードには国民から一定の支持があるからだ。

元々「ギゼルの息子」という立場に加え、魔力が無くても使える魔法道具をいくつも発明し、その度に話題になっている。
その話題と一緒にロンバードの人となりも民から民へと伝わり、そこにキャンディッシュ領での可愛らしい逸話が乗って、国中に広まっている。

その上、この旅で更に人気を高めている。

治せない病気を治し、千切れた手足を再生させ、自分の飴のせいで不利益を被った…本来は悪徳商人のせいだが…そういう人間に、誠心誠意頭を下げて回る。
さらに出来ない事を出来ると言わない真摯さも、好感を生んでいる。
ただの人気取りでウロウロしているんじゃないことが伝わるからだろう。

オーセンにとって恐ろしいのは、貴族の反抗より国民の不支持。

貴族は最悪皆殺しに出来るが、国民がいなければ国は成り立たない。
誰かに畑を耕してもらい、誰かに物を作ってもらい、誰かにそれらを流通してもらい…
政治を担う王や貴族は、その上で生かして貰っているのだ。

だから、王家はロンバードを欲する。
正直言って兄貴がロンバードに恋をした事より、ロンバードが兄貴の事を好きになってくれた事の方が何倍も大事なんだ。

だから、下らない外野の言葉で、ロンバードの恋を破れさせる訳にはいかない。
必ず成就して貰わなければならない。
結婚という、最高の形で。

「よく考えろ、ロンバード。
 お前が兄貴の横に居なかったら、王家…いや、国家への国民の支持は、消える」
「……そんなこと、ありません」
「いいやあるね。
 試しにこの村の者に聞いてみればいい。
 第一王子様がお前との婚約を破棄して他の奴と結婚したとしたら、どう思う?って」

それでもし『喜ばしい事です』っていう奴はガッツリ背後を洗ってやる。

飴の高額転売騒動に紛れて、「改革の残滓」どもの動きが活発になった。
兄貴からも親父からもそう聞いた。
奴らが何を考えているかは分からないが…
ロンバードを狙っている事だけは、確かだ。

ここから暫くは、俺が監視するしかない。
敵も、ロンバードも。

こいつが本気出して逃げたら、もう誰にも捕まえられないからな…

「…ともかく、明日から俺がお前を目的地へ送る。
 乾くのを待ってからすることもあるんだろう?」
「…そうですね、石碑を柵で囲って…」

箒なしで空を飛ぶなんて、俺の知る限りこいつとギゼル殿だけだ。

護衛を降りたいという連中には喝を入れた。

勘違いするな。
敵は魔物でも竜でもない、人間だ、と。
そして最大の目的は、ロンバードを逃がさない事だ…と。

少しは気合いが入ってくれれば良いが…。

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