108 / 218
本気のざまぁを見せてやる!
王子様は、心置きなく結婚したい 6
しおりを挟む
「ロンバードが地竜を倒した」
そう報告が上がってきた時、皆が驚愕した。
部下の箒に乗せられて帰ってきたギゼル殿は複雑な面持ちで、
「そう、ロンバードは…竜殺しに、なった」
と言った。
死体はすでに魔術塔に回収したそうだ。
竜の死骸は端から端まで使える。
竜玉が何個出るか分からないが、そこそこ大きな個体らしい。
バラす前に1度見に来い、だそうだ。
「竜玉も他の部位も、ロンバードに権利がある。
あの子に竜を弔う時間をやってくれ。
竜の素材で出来た道具は、国のものになるとしても」
「……ああ、勿論だ」
俺たちも父上もただギゼルのいう事に頷くしか無かった。
それほど衝撃だったのだ。
ロンバードが、「殺した」という事が。
冗談でも「死ね」と言った事の無いロンバードが。
相手が罰を受けるのが嫌だからと、自分がどんな目に合っても黙っているロンバードが。
食材になった生き物の為に、食事の前に必ず手を合わせるロンバードが…
竜という生き物を、殺したのだ。
ロンバード自身の手で…。
報告に拠れば、同行した三人の護衛に村人の避難を頼んで、一人で囮になった後の事だという。
残りの二人…連絡係の魔術師は、先触れを出しに次に行く予定の村へ出かけており、もう1人の護衛は馬の世話と馬車の整備でその場に居なかったそうだ。
同行した護衛は全員が、辞表を提出してきた。
そりゃまあ…そうだろうな。
ロンバードの判断がどれほど正しくても…
守るべき対象に守られてしまったら、自分の存在意義に疑念を抱かざるを得まい。
ギゼル殿を送って行った弟のグウェンが、何とか説得してくれたらしいが…。
そうして俺たちが何を言って良いのか分からず黙り込んでいると、ギゼル殿が思い出したように言った。
「ああ、それと北の石碑の件、ロンバードから『金継ぎ』の要領でどうかっていう提案があった。
それなら村にある物で一旦は対処出来そうだ。
ただ物が物だけに、早急に新しいのを作ったほうがいい。
悪いがあれと同じ大きさの石を手配して欲しい」
そうだ、国として1番大事な事を忘れていた。
オーセン国民を守る広域結界を維持するための石碑に異常が見つかったのだ。
人為的なものかどうかはまだ判別が付かないという事だが、結界の石を配置してからあの石が壊れるような天災が起きたことはない。
人為的なものだとしたら…
完全に、反乱目的だろう。
ため息をつきながら、メルバが言った。
「改革の残滓ってやつかなぁ…?」
二度と表舞台に出てこられないようにしてあげたのが良くなかったのかな~?
と反省している様な、していない様な発言をする。
父上が言う。
「言われてみれば、そろそろ年期が明けた連中もいる頃ではあるな」
父に続いてメルバとギゼルが喋る。
「あーもう、全っっ然更生出来てないじゃん!
やっぱ裸で森に放置しとくのが正解だったんじゃないの?」
「だからそれは、魔物に人肉の味を覚えさせる事になるから駄目だって言っただろメルバ」
「それは、うーーん…まあ確かに、善悪で味は変わらないだろうけどさ」
「むしろブクブク肥え太ってる悪人の方が、脂っこくて嫌かもしれん…」
「最近油身駄目になってきたもんねぇ、ギゼルも」
この2人の話は時として物騒だ。
この両親からどうしてあんな優しすぎる子どもが産まれたのか…
オーセンの大いなる謎だと思う。
父上がため息をつく。
「大きなゴミを処分するのに必死で、小さなゴミは適当になってしまったからな」
「人も足りなかったしね~」
「だが昔の事を悔やんでも仕方がありますまい。
ところで、陛下。
犯人を見つけた場合、生死は気にされるか?」
ギゼル殿がさらに物騒な事を言う。
これが見得でも強がりでもないのが困る。
魔物の大増殖と大改革を最前線で乗り越えてきた人間に、そんなものは必要ないと分かってはいるが…。
同じく二つの大事件を乗り越えてきた父が言う。
「いや、なるべく捕まえる方向で頼む」
「ああ『なるべく』……かしこまった」
「駄目だよギゼル!
もう臨月なんだから大人しくしてないと…」
メルバのいう事も尤もだ。
そろそろ大人しくしていて貰わないと、こっちの作戦が台無しになりそうだしな。
「…ともかく、石碑の損壊は人の手によるもの、という事で間違いないですか」
「ああ…自然現象でそうなったんなら、ロンバードがもうそれを見抜いているはずだ。
あの子の事だ、犯人がいると思いたくない一心で人の作為を否定する根拠を必死に探したろうから」
「そうですか…手段はやはり、魔法で?」
「十中八九」
…やっぱり魔法、か。
それ以外やはり、考えられない…だろうな。
「魔法それ自体にこれ程悩まされるか…」
「人には過ぎた力ではあるからな」
魔法を持つ者、持たない者。
この国を二分する、旧来からの問題は…
未だに決着を見ていない。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
いつの間にかお気に入り登録者様200人達成!
いつもありがとうございます!
そう報告が上がってきた時、皆が驚愕した。
部下の箒に乗せられて帰ってきたギゼル殿は複雑な面持ちで、
「そう、ロンバードは…竜殺しに、なった」
と言った。
死体はすでに魔術塔に回収したそうだ。
竜の死骸は端から端まで使える。
竜玉が何個出るか分からないが、そこそこ大きな個体らしい。
バラす前に1度見に来い、だそうだ。
「竜玉も他の部位も、ロンバードに権利がある。
あの子に竜を弔う時間をやってくれ。
竜の素材で出来た道具は、国のものになるとしても」
「……ああ、勿論だ」
俺たちも父上もただギゼルのいう事に頷くしか無かった。
それほど衝撃だったのだ。
ロンバードが、「殺した」という事が。
冗談でも「死ね」と言った事の無いロンバードが。
相手が罰を受けるのが嫌だからと、自分がどんな目に合っても黙っているロンバードが。
食材になった生き物の為に、食事の前に必ず手を合わせるロンバードが…
竜という生き物を、殺したのだ。
ロンバード自身の手で…。
報告に拠れば、同行した三人の護衛に村人の避難を頼んで、一人で囮になった後の事だという。
残りの二人…連絡係の魔術師は、先触れを出しに次に行く予定の村へ出かけており、もう1人の護衛は馬の世話と馬車の整備でその場に居なかったそうだ。
同行した護衛は全員が、辞表を提出してきた。
そりゃまあ…そうだろうな。
ロンバードの判断がどれほど正しくても…
守るべき対象に守られてしまったら、自分の存在意義に疑念を抱かざるを得まい。
ギゼル殿を送って行った弟のグウェンが、何とか説得してくれたらしいが…。
そうして俺たちが何を言って良いのか分からず黙り込んでいると、ギゼル殿が思い出したように言った。
「ああ、それと北の石碑の件、ロンバードから『金継ぎ』の要領でどうかっていう提案があった。
それなら村にある物で一旦は対処出来そうだ。
ただ物が物だけに、早急に新しいのを作ったほうがいい。
悪いがあれと同じ大きさの石を手配して欲しい」
そうだ、国として1番大事な事を忘れていた。
オーセン国民を守る広域結界を維持するための石碑に異常が見つかったのだ。
人為的なものかどうかはまだ判別が付かないという事だが、結界の石を配置してからあの石が壊れるような天災が起きたことはない。
人為的なものだとしたら…
完全に、反乱目的だろう。
ため息をつきながら、メルバが言った。
「改革の残滓ってやつかなぁ…?」
二度と表舞台に出てこられないようにしてあげたのが良くなかったのかな~?
と反省している様な、していない様な発言をする。
父上が言う。
「言われてみれば、そろそろ年期が明けた連中もいる頃ではあるな」
父に続いてメルバとギゼルが喋る。
「あーもう、全っっ然更生出来てないじゃん!
やっぱ裸で森に放置しとくのが正解だったんじゃないの?」
「だからそれは、魔物に人肉の味を覚えさせる事になるから駄目だって言っただろメルバ」
「それは、うーーん…まあ確かに、善悪で味は変わらないだろうけどさ」
「むしろブクブク肥え太ってる悪人の方が、脂っこくて嫌かもしれん…」
「最近油身駄目になってきたもんねぇ、ギゼルも」
この2人の話は時として物騒だ。
この両親からどうしてあんな優しすぎる子どもが産まれたのか…
オーセンの大いなる謎だと思う。
父上がため息をつく。
「大きなゴミを処分するのに必死で、小さなゴミは適当になってしまったからな」
「人も足りなかったしね~」
「だが昔の事を悔やんでも仕方がありますまい。
ところで、陛下。
犯人を見つけた場合、生死は気にされるか?」
ギゼル殿がさらに物騒な事を言う。
これが見得でも強がりでもないのが困る。
魔物の大増殖と大改革を最前線で乗り越えてきた人間に、そんなものは必要ないと分かってはいるが…。
同じく二つの大事件を乗り越えてきた父が言う。
「いや、なるべく捕まえる方向で頼む」
「ああ『なるべく』……かしこまった」
「駄目だよギゼル!
もう臨月なんだから大人しくしてないと…」
メルバのいう事も尤もだ。
そろそろ大人しくしていて貰わないと、こっちの作戦が台無しになりそうだしな。
「…ともかく、石碑の損壊は人の手によるもの、という事で間違いないですか」
「ああ…自然現象でそうなったんなら、ロンバードがもうそれを見抜いているはずだ。
あの子の事だ、犯人がいると思いたくない一心で人の作為を否定する根拠を必死に探したろうから」
「そうですか…手段はやはり、魔法で?」
「十中八九」
…やっぱり魔法、か。
それ以外やはり、考えられない…だろうな。
「魔法それ自体にこれ程悩まされるか…」
「人には過ぎた力ではあるからな」
魔法を持つ者、持たない者。
この国を二分する、旧来からの問題は…
未だに決着を見ていない。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
いつの間にかお気に入り登録者様200人達成!
いつもありがとうございます!
95
お気に入りに追加
437
あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

傍観している方が面白いのになぁ。
志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」
とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。
その彼らの様子はまるで……
「茶番というか、喜劇ですね兄さま」
「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」
思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。
これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。
「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
ファンタジー
月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる